今回快く取材に応じてくださった相撲部の皆さんと

慶大相撲部が熱い。創部100周年という節目の年、彼らは55年ぶりとなる東日本8強入りを果たし、全日本学生選抜相撲金沢大会に駒を進めた。その強さの秘訣はどこにあるのか。ケイスポは取材班自ら相撲部の練習に参加し、この謎を解くため潜入調査を行った。

(取材日:6月22日)

■潜入取材の始まり

6月下旬の土曜日、ケイスポ取材班は三田キャンパスのお膝元、綱島道場に足を運んだ。道場に入ると奥から賑やかな声が聞こえてくる。かつては部員が少なかった時期もあったが、この日は高校生から練習を指導するOBまで20名近くの力士が練習に参加していた。彼らに混じりケイスポ記者の栗栖翔竜(総1)もまわしを巻く。

神棚に一礼してから練習が始まる。神事としての側面も持つこの競技において、これら礼儀作法は欠かせない。これまでの和やかな雰囲気が一変し、道場内は独特の緊張感に包まれた。

けがを防止するため入念な準備体操をしてからいよいよ四股踏みが始まる。姿勢を正し、片足を高く振り上げ静かに下ろしていく。簡単な動きのように見えてこれが意外と難しい。一本足で全体重を支える動きを繰り返し行うためには、下半身全体の筋肉に加え、全身の安定性が必要である。回数を重ねていくうちに体全体から汗が吹き出てきて止まらない。夏場の暑い時期には、足元に水たまりができることもあるそうだ。部員たちは左右交互に100回繰り返しても飄々とした表情を浮かべている。一方記者の栗栖は80回程しか踏んでいないにも関わらず、腿から下の感覚がなくなってしまった。


徐々に稽古場も温まる

次は股割り。開脚をしたまま上体を倒していく。後ろから体を押してもらうと、腰から股関節にかけて徐々に負荷がかかっていく。四股踏みでの疲労も重なり、激しい痛みが押し寄せてきた。股割りを終えた後は開脚をしたまま起き上がらなければならないが、体が思うように動かなかった。


部員OBに背中を押され、股関節が悲鳴をあげる

股割りを終えた後は鉄砲の稽古だ。道場の壁に備えつけられた板に向かって突っ張りを繰り返し行う。取組の中で相手を土俵際まで追い込み、押し出す力を身につけるため、腕と肩周りの筋肉を鍛えていく。全体重を腕のみで支える動作を繰り返すのは、非常に難しく大変だった。 


力強く板を打つ音が道場に響き渡る

続くすり足の練習で、ついに土俵に入る。姿勢を整え、土俵の中に相手を想定しながら素早く進んでいく。土俵際では変化をつけた動きも行い、実戦を想定する。これを何度も何度も繰り返し、強靭な下半身を作り上げる。 


こちらも見た目以上に下半身への負荷が大きい

ここまでの練習で相撲の基礎基本の動きを叩き込む。単純な動きに見えて、繊細な技術や筋肉を使うものばかり。相手と組んで行う実戦的な練習を前に、すでにフラフラな栗栖であった…。

 

■いよいよ実戦練習へ

ここで土俵をほうきでならし、仕切り直し。実践的な練習がいよいよ始まる。

まずは一押し稽古。土俵の中で相手と組み合い、ひたすら土俵の外へと押し出していく。手を相手の胸の位置に構えて脇をしっかりとしめる。押し出すことだけに気を取られていると、下半身の動きが追いつかなくなり、前に倒れそうになってしまった。全身を同時に前へ動かすことが重要なのだ。 


まさに体当たり取材だ

続いて三番稽古、実戦形式の稽古である。部員それぞれが相手を変えながら満足いくまで何度も取組を行う。一人が三番以上取組をしても、三番稽古と言うらしい。一番でも多く取組を行うため、部員たちは次々と対戦相手として名乗りを上げ、土俵の中に飛び込んでいく。先輩後輩、重量関係なく行われる熱い取組で各人が己の型を極める。

練習がひと段落つくと、栗栖も部員との取組に参加させてもらう。今日学んだことを出し切るため、部員たちの胸を借りる。取組は大いに盛り上がり、栗栖が勝つたび徐々に相手の重量も上がっていく。五番連続で勝ち星を挙げると、六番目からは遂に東日本選手権の団体戦に出場した部員たちが立ちはだかる。重量と粘り強さを兼ね備えた慶大相撲部自慢の力士たちに悪戦苦闘しながらも、練習で磨いた突っ張りで栗栖はなんとか勝ち進む。


果敢に取り組みに挑む栗栖

そして迎えた十番目、相手は主将の長谷川大起(総4・木造)。相撲部の意地とプライドを背負った長谷川の身体はどれだけ押してもびくともしない。なんとか土俵際まで追い込んだものの最後は豪快に上手投げを決められ、初黒星を喫した。激しい熱戦を見つめていた部員たちからは、歓声が上がった。


慶大の大将を前に散る

最後にぶつかり稽古で相手を土俵の外まで押し出す動きを確認する。十番連続の取組を終えた栗栖にはあまりにも苦しい稽古であり、完全に力の抜けた両腕両足をなんとか鼓舞して前に出し切っていく。

 全身全霊でひたすらぶつかった後、整理体操を行い、神棚に一礼してこの日の練習は無事終了。疲れきった後のシャワーは爽快感でいっぱいだった…。


最後は塵手水で締める

■潜入取材を終えて

記者自ら体験した相撲部の練習は想像以上にハードであり、こうした日々の鍛錬が実戦での強さを生んでいるとわかった。練習と練習の合間には、誰から指示されるでもなくダンベルなどを手に取る部員も数多く見られ、限られた練習時間を最大限活用する彼らの工夫と根性がうかがえた。しかし、相撲部が強いのはそれだけではない。

練習の中で最も印象的だったのは、主将をはじめとする上級生たちが、後輩たちに自ら進んでぶつかり役を申し出て、その稽古に付き合う姿だ。

全国大会まで1ヶ月を切った大事な時期。大会に出場する選手たちにとっては、コンディション調整をしなければならない貴重な時間でもある。

それでも次世代を担う後輩たちのため、ぶつかり稽古に率先して参加し、練習に貢献する。先輩たちのこうした情熱と心意気は後輩たちにも波及する。稽古が行われている土俵を取り囲む部員たちが発破をかけ、道場はたちまち熱気に包まれる。

下級生は何度も立ち上がり、上級生はその胸を後輩に差し出す。部員同士が互いの覇気をぶつけ、技術を高め合う。慶大相撲部の強さの理由がそこにはあった。


実践練習では部員同士が激しくぶつかり合った

7月14日(日)には金沢で全国大会が開かれる。8月には青森・十和田での全国大会も控えている。彼らの快進撃が100年に渡り繋がれてきた相撲部の歴史に、新たな1ページを紡いでいく。代表として出場する選手だけではない。部員全員が一丸となってここまで勝ち上がってきたのだ。

チーム全体で掴んだ全国という夢の舞台で、慶大旋風が吹き荒れることを期待せずにはいられない――

 

(記事:栗栖翔竜 写真:堀口綾乃)

 

--相撲部のみなさま、ありがとうございました!


練習後に長谷川大主将と