バドミントンの東京五輪出場権争いが、いよいよ本格化する。 五輪出場権は、今年4月29日から1年間に稼いだ世界ランキ…
バドミントンの東京五輪出場権争いが、いよいよ本格化する。
五輪出場権は、今年4月29日から1年間に稼いだ世界ランキングのポイント(ポイントの高い10大会分の合計)から算出される2020年4月26日までのランキングによって決まる。7月5日、富山県高岡市でフィジカル強化合宿を行なっていた日本代表の朴柱奉(パク・ジュボン)ヘッドコーチが「今年の後半、7月から12月までの遠征の結果で、東京五輪のメンバーは80%くらい決まる」と話したとおり、今夏から冬までがひとつのヤマ場だ。8月には、最も大きなポイントが設定されている世界選手権(スイス)も控えている。

現在、世界ランク1位の松本麻佑(後)・永原和可那ペア
日本勢で最も注目されるのは、女子ダブルスだ。かつてないハイレベルな出場権争いが展開されている。五輪には世界ランク上位16組が出場。ただし、同国勢の出場には制限があり、8位以内の選手がいる場合のみ2組までと定められている。日本勢は世界ランク上位ペアが多く、2枠獲得が濃厚だが、7月9日更新の最新世界ランクで1位から3位までを独占している状況。つまり、2枠を奪い合わなくてはならない。
注目される3組は、それぞれに異なる特徴を持つ。現在の世界1位は、松本麻佑、永原和可那菜組(北都銀行)。同学年で23歳の道産子ペアだ。ともに170センチを超える長身で、打点の高さを生かした連続強打が持ち味。昨年の世界選手権に繰り上げで日本の4番手として出場し、初優勝を飾って一気に台頭した。
従来は永原が前衛、より長身の松本が後衛だったが、松本がネット前で相手にプレッシャーをかけるスタイルも定着しつつある。得意の連続攻撃は、相手に対策を練られるようになっているが、松本は「連続攻撃をさせてもらえず、振り回されてしまう。守備から攻めて、すぐに攻撃に戻せるようにしたい」と改善策を話した。その対応力を身につけられるかがポイントだ。
世界ランク2位は、福島由紀、廣田彩花組(アメリカンベイプ岐阜)。昨年8月から今年4月まで長く1位に君臨していたペアだ。福島が26歳、廣田が24歳。勢いと経験を兼ね備えており、世界選手権は2大会連続の銀メダルでビッグタイトルは手にしていないが、成績には安定感がある。

福島由紀(右)・廣田彩花ペアは、安定感のあるプレーが特徴だ
相手の強打を2人で力強く返す、強固な守備力が特徴。長時間の打ち合いも粘り強く制する。横並びの守備隊形から廣田が思い切ってネット前に出て攻撃に転じるパターンが得意で、福島のコートカバー力も光る。福島は「一戦一戦臨むことを意識している。1試合でベストのプレーができれば、次につながる。ポイントは、特に意識していない」と五輪レースのプレッシャーを意識せず、一戦必勝の姿勢を貫く構えを示した。
世界ランク3位が、2016年リオデジャネイロ五輪で日本に初の金メダルをもたらした髙橋礼華、松友美佐紀組(日本ユニシス)。後衛の髙橋が29歳、前衛の松友が27歳でベテランの領域に入りつつあるが、相手のタイプに関わらず、試合の流れの中で巧みに攻略する対応力、連係力は比類がない。
髙橋は「2人のレシーブのレパートリーが増えてきた感じがあるので、守備から攻撃に持って行けるようになったし(守備で)崩れなくなってきた」と手応えを示す。経験値も大きく「出場権を取りたいという気持ちでやっていたら、連覇なんて無理だと思う」(髙橋)と、あくまで五輪連覇に照準を合わせている。
3組を筆頭とした日本代表最大2枠の争いは、今夏からの2019年下半期に激しさを増す。8月に世界選手権が行なわれるだけでなく、年間3大会しかないBWF(国際バドミントン連盟)ワールドツアー最高ランクのスーパー1000が2大会(7月にインドネシア、9月に中国で開催)、次点ランクで年間5大会のスーパー750が4大会(7月に日本、10月にデンマークとフランス、11月に中国で開催)と高いポイントが設定された大会が続くからだ。
7月16日開幕のインドネシアオープン(スーパー1000)、23日開幕のダイハツ・ヨネックスジャパンオープン(スーパー750)、30日開幕のタイオープン(スーパー500)といった7月の3連戦を経て、8月19日開幕の世界選手権に向けた調整に入る。現在の五輪レースのポイントは、福島、廣田組が21752点で1位。髙橋、松友組が20302点で2位、松本、永原組は18083点で4位につけているが、夏だけでも大きく入れ替わる可能性がある。
もちろん、3組だけで争うわけではない。米元小春、田中志穂組(北都銀行)が世界ランク8位につけており、12位、16位にも日本勢が控えている。また、国内勢の争いばかりに気を取られるわけにもいかない。世界ランク上位選手は各大会でシードを得られるが、特に中国、韓国勢は昨季より勢いを増しており、序盤で戦うランキング下位のペアでも警戒が必要だ。

前回のリオデジャネイロ五輪では金メダルの高橋礼華(右)・松友美佐紀ペア
松友は「戦ってみて、昨年とは明らかに勝負に対する覚悟などが違う。韓国はまだペアを組み替えている。リオ五輪のときも半年前までペアを組み替えていたし、特に韓国、中国は、この1年で最強のペアを作ろうとしているし、まだ変化すると思う。それは、楽しみでもある」と話した。組み替えや若手の成長などによって、下位ランクにも強敵が生まれる可能性がある。
奇しくも五輪レース開幕戦となったニュージーランドオープン(スーパー300)では、日本のトップ4組がすべて同じ韓国ペアに敗れて優勝を逃している。日本代表の朴柱奉ヘッドコーチは、これまで何度も「中国、韓国、インドネシアとの差は、ほとんどない。日本は、ベスト4に3組が残っても、大事なところ(決勝戦)で負けていることもある」と警笛を鳴らしており、激しさを増すサバイバルレースをタフに戦い抜くことが求められる。
もちろん、負傷による長期離脱は避けなければならない。髙橋は「大きなケガをしてしまったら、もう(コートに)戻って来られないかもしれない。毎回、これが最後の大会になるかもしれないと思って臨んでいる」と覚悟を示した。日本のトップ3は、どのペアがより上位の成績を挙げるかが注目され、プレッシャーとの戦いを強いられることになるし、直接対決の結果も大きく報道されるだろう。
2000年代に入ってから、日本の女子ダブルスは小椋久美子、潮田玲子の「オグシオ」ペアが全日本総合バドミントン選手権大会を5連覇し、脚光を浴びた。現在の朴柱奉ヘッドコーチが就任した後は、08年の北京五輪で末綱聡子、前田美順がベスト4と躍進。12年のロンドン五輪で藤井瑞希、垣岩令佳が銀メダル、そして前回の16年リオ五輪で髙橋、松友が頂点に立った。日本のバドミントン界をけん引してきた種目だが、かつてないハイレベルな出場権獲得レースになることは、間違いない。まずは、地元開催のダイハツ・ヨネックスジャパンオープン(7月23日~/武蔵野の森総合スポーツプラザ)を含む7月の3連戦で、どのような結果が見られるのか、注目だ。