福田正博 フットボール原論■ヴィッセル神戸はトルステン・フィンク新監督就任後、新体制初陣の首位FC東京との戦いを白星…
福田正博 フットボール原論
■ヴィッセル神戸はトルステン・フィンク新監督就任後、新体制初陣の首位FC東京との戦いを白星で飾ったあと、大分トリニータと引き分け、名古屋グランパスとの打ち合いを制した。第18節で清水エスパルスに競り負けたものの、4試合で勝ち点7を積み上げている。その神戸の新体制について、元日本代表の福田正博氏はどのように分析しているのか?

新たに神戸の指揮官となったフィンク監督
神戸は、ドイツ人のフィンク監督を招いたことで、「スタイルがスペインからドイツに変わった」「バルセロナ化が暗礁に乗り上げた」などという声もあるが、私は神戸が”自由”を得たと感じている。
昨季はアンドレス・イニエスタ、今季はダビド・ビジャという元バルセロナ&元スペイン代表の名手を獲得し、バルセロナのようなポゼッションサッカーを目指しながらチーム強化に乗り出している神戸。しかし、クラブ首脳もサポーターも「バルサ化」の言葉にとらわれすぎていたように思う。
今季序盤戦の神戸は、極力ボールをつなぐことにこだわった。その結果、サッカーそのものが窮屈になっていた印象だ。サッカーは相手のあるスポーツであり、自分たちがどれだけポゼッションを高めたいと思っても、相手の技量や運動量が自分たちを上回っていれば、それを実現するのは困難になる。
相手の出方に応じて戦い方を変えることも重要になるが、神戸はそれができていなかったと言える。バルサほどの完成度にはなっていないポゼッションをベースにした戦い方だけで勝てるほど、Jリーグのレベルは低くはないし、バルサのようなハイレベルのポゼッションができるだけの戦力が、神戸にまだそろっていないとも言える。
本家のバルセロナであっても、相手の戦い方に応じてスタイルを変える局面はある。実際、エルネスト・バルベルデ監督はカウンターを用いることもあり、柔軟だ。また、過去にバルサを率いていたジョゼップ・グアルディオラ監督(現マンチェスター・シティ)にしても、バイエルン時代には対戦相手がドルトムントのときは、縦へのロングボールでプレスを回避する戦い方を選ぶこともあった。当時のドルトムントはユルゲン・クロップ監督(現リバプール)のもと前線からのプレスとショートカウンターで結果を残していたが、その相手に対してDFラインからパスをつないでいくのはリスクがあると判断したのだ。
つまり、スタイルや戦術は、あくまでも「相手を上回り、勝つ確率を高めるため」の手段のひとつで、目的ではないということだ。
神戸の場合、バルセロナのような高いレベルの連係・連動を完成させること、ポゼッションを高めていくことが目的になってしまい、その形ばかりを追い求めたために失点が増えていた側面があるのではないか。そこをフィンク監督は整理してシンプルにした。勝つために、現有戦力で最大の強みであるイニエスタとビジャが最大限に輝く形を模索している。
ボランチにイニエスタを置き、そのほかも選手それぞれの個性が発揮される配置をしている。中盤では、イニエスタが最前線まで動けるようにパートナーを山口蛍にして、イニエスタのフォローをする役割を与えている。また、両サイドの郷家友太と古橋亨梧にはハードワークを徹底させて、イニエスタの守備を軽減。トップ下にウェリントンを起用することもあり、彼の高さと強さを生かしつつ、最前線でビジャが絶妙のポジショニングをとりながらゴールを狙う。
サッカーは11人の組み合わせによってチーム力は大きく変わる。冷蔵庫にある食材のよさを最大限に生かして美味しい料理を作る=勝てるサッカーを構築することが、監督の仕事なのだ。
フィンク監督のスタイルがポゼッションサッカーではないからといって、イニエスタやビジャがモチベーションを失ったりはしないだろう。当たり前のことだが、彼らは勝つためにサッカーをやっている。バルサ時代にポゼッションサッカーを貫いていたのは、それが勝つための「最善の方法」だったからだ。
後半戦の神戸の課題は、最終ラインの安定感にある。DFラインでミスが出るのは、ボールをつなぐことを意識しすぎていることが一因にあった。ただ、ここもフィンク監督のもとで時間が経てば、プレーの判断基準は明確になっていくのではないだろうか。そうすれば安定感が生まれるはずだ。
プロである以上、『バルサ化というスタイル確立のために負けてもいい』ということはない。勝ちながらレベルアップしていくことで、追い求めている継続性のあるスタイルへと近づく。ましてやバルサのようなサッカーは、能力の高い選手が揃わないことには実現不可能で、そうした選手を獲得し続けていくためにも、やはり勝つことを疎かにはできない。
「神戸のバルサ化はスローダウンした」という意見もある。しかし、私はそうは思っていない。バルセロナの哲学を神戸に浸透させることは時間のかかることであり、近道はない。
イニエスタとビジャが在籍していた時のバルセロナのメンバー全員が神戸に移籍するのならともかく、過去にバルセロナに在籍した選手が数名加わっただけでそのスタイルがすぐに定着するものではないだろう。非常に難しいことにチャレンジしている神戸の取り組みを、長い目で見守っていくべきだと私は考えている。