「勝てませんね、埼スタで……」 ベガルタ仙台の渡邉晋監督は、試合後の記者会見で自嘲気味に、そ…
「勝てませんね、埼スタで……」
ベガルタ仙台の渡邉晋監督は、試合後の記者会見で自嘲気味に、そう語った。
仙台にとって浦和とのアウェーゲームは、J1に昇格した2002年以降、一度も勝ったことのない、まさに鬼門である。カップ戦を含めても勝利はなく、昨年度の天皇杯決勝でも、この地で悔し涙を流している。

4連勝と勢いに乗って埼玉スタジアムに乗り込んだ仙台だったが......
苦手意識は、現実以上に相手を大きく見てしまうものだ。あるいは、畏怖の念を抱いてしまったのかもしれない。普通に戦えば、結果はついてきた可能性はあった。
しかし、埼玉スタジアムにおける浦和レッズという相手を、過大評価してしまった。それが、この日の仙台だった。
今季の仙台は、ホームで迎えた開幕戦で浦和と引き分けた後、リーグ戦で4連敗と大きく低迷。第6節にサガン鳥栖を下して今季初勝利を手にしたものの、その後に再びリーグ戦2連敗と、苦しい戦いが続いていた。
2014年から指揮を執る渡邉監督のもと、これまでの仙台は3バックを主戦としてきた。ボールを大事にし、サイドを有効活用して、相手ゴールに迫っていくスタイルだ。
結果はなかなかついてこなかったが、着実にスタイルは浸透していき、昨季は渡邉体制下で最高となる11位でシーズンを終えた。天皇杯では、クラブ史上初となるファイナル進出も果たしている。
継続路線を推し進め、さらなる高みを目指した今季。だが、開幕からよもやの苦境に陥っていた。
危機的状況下で渡邉監督は、ひとつの決断を下す。3バックから4バックへのシステム変更である。
その決断は見事に奏功した。第9節のガンバ大阪戦で今季2勝目を挙げると、第14節からは怒涛のリーグ戦4連勝を達成。首位のFC東京や上位の北海道コンサドーレ札幌を撃破しての、価値ある連勝だった。
その流れで迎えた第18節の浦和戦。鬼門突破の機運は、確実に高まっていた。しかし、前半終了間際に”天敵”興梠慎三に先制点を献上すると、後半早々に椎橋慧也が退場となり、そのまま0−1で敗れている。
「今日こそはという想いで、選手にハッパをかけたり、あるいは気負いすぎないようにと、いろいろ苦心しましたけど、この埼スタで勝ちを取ることができずに悔しいです」
指揮官が肩を落としたように、結果はまたしても同じだった。
4連勝中の仙台にあって、この日の仙台になかったのは、ひと言で言えば「積極性」になるだろうか。4バックに変更したことで、高い位置からのプレスがハマるようになり、そこからのショートカウンターが仙台の新たな武器となっていた。
しかし、この日は立ち上がりこそ、その姿勢は見えたものの、次第にラインが下がり、後方での対応が増えていく。浦和のパスワークに後手を踏んだ印象は否めないが、システムのかみ合わせも影響していたはずだ。
4−4−2の仙台に対し、浦和は3−4−2−1。浦和の両ウイングバックの攻め上がりをケアするために、仙台のサイドハーフが最終ラインの位置まで下がってしまったのだ。
時に6バックのような状況となることで、相手にスペースを与えないことはできていた。しかしその分、当然、攻撃にパワーをかけられなくなる。
「サイドハーフが下げられてしまったのは、本意ではない部分と、割り切った部分があった」と渡邉監督は振り返る。とくに前半については、「時間をやり過ごすという考え方を、共通認識として持っていくことが必要だった」と言う。
本来は前から取りにいきたいが、取り切れないのであれば、後ろで構えて対応するのは、戦略としては間違いではないだろう。前半は0−0で推移させ、後半勝負という考えがあったはずだ。
しかし、前半終了間際に一瞬の隙を与えてしまう。左サイドで関口訓充がプレスをかけにいったところをかわされ、興梠に背後のスペースを突かれてしまったのだ。
「一回、チャレンジをして取りにいきたいと話していたんですけど、その1回でやられてしまった」
最終ラインを支える平岡康裕が悔しさを露わにしたように、ひとつの判断ミスが結果的に敗戦を招いてしまった。
しかし、関口の判断は、果たして間違いだったのだろうか。
前半終了間際という時間帯を考えれば、確かに軽率だったかもしれない。0−0で前半を終えていれば、後半に違う展開が待っていた可能性もある。しかし、後方で待ち構えているだけでは、いずれ破綻してしまう危険性もあった。
「前で取れるチャンスを何回か増やさないと、攻撃の選手も前に出ていけない」と平岡が言うように、得点を奪うこともできなかっただろう。どこかで取りにいく必要があったのは、確かである。椎橋の退場も、受け身になりすぎたことが招いた必然だったと思われる。
そもそも、高い位置からの守備こそが、好調の要因であったはずだ。もちろん、システムのかみ合わせによる影響があったとはいえ、前節で戦った北海道コンサドーレ札幌も、浦和と同じ3−4−2−1のシステムを採用している。「札幌に対しては、行けるところは行けていた」と関口が言うように、その試合では前から奪いにいく守備がうまく機能していたのだ。
であれば、浦和相手にも、その意識を保ってよかったのではないか。こればかりは、結果論だろう。
後ろで構えることで、浦和にほとんどチャンスを作らせなかったのは事実である。逆にハイプレスを仕掛ければ、ショートカウンターから得点機を生み出せたかもしれないし、逆に相手にスペースを与え、大量失点を招いたかもしれない。
ただ、ひとつだけ言えるのは、仙台とすれば、もったいない試合をしたということだ。4連勝という最高の状態でこの試合を迎えながら、苦手意識を払拭できず、必要以上に相手を警戒しすぎてしまった。
積極的な守備で結果を出していた連勝中の戦いを継続していれば、いい結果を手にできていたかもしれない。流れは間違いなく、仙台のほうにあった。その意味で、実にもったいない試合だった。
おそらく鬼門とは、自らの意識のなかに作られるものなのかもしれない。