群雄割拠の50キロ級で死闘を繰り広げた明治杯全日本選抜選手権(明治杯)から早3週間。世界選手権代表決定プレーオフ(プレーオフ)が行われた。今年の明治杯覇者の須﨑優衣(スポ2=東京・安部学院)と昨年の天皇杯全日本選手権(天皇杯)覇者の入江ゆ…

 群雄割拠の50キロ級で死闘を繰り広げた明治杯全日本選抜選手権(明治杯)から早3週間。世界選手権代表決定プレーオフ(プレーオフ)が行われた。今年の明治杯覇者の須﨑優衣(スポ2=東京・安部学院)と昨年の天皇杯全日本選手権(天皇杯)覇者の入江ゆき(自衛隊体育学校)の対決。このプレーオフの勝者が世界選手権の代表に内定し、世界選手権で3位以内に入ると東京五輪代表派遣選手に内定する。今まで厳しい戦いを繰り広げてきた両者。世界選手権代表の切符をつかむのはどちらか。

 ついに決戦の幕が開いた。明治杯では試合時間残り2秒の大逆転をして5−2で勝利し、勝負強さを見せた須﨑。序盤は組み手を順調に制し、開始2分でパッシブポイントを獲得。いつも通り積極的なプレーが表れていると思われたが、折り返し直前に足を取られバックポイントを奪われる。少し悪い空気が広がる中、1点のビハインドを背負い第2ピリオドへ。コートへ向かう前、須﨑は吉村コーチと顔を見合わせ数秒間見つめた。言葉を発するわけではなく、そこには二人だけの世界があった。須﨑は顔を引き締め決意の表情を見せた。「自分のレスリングの強みは強い気持ちだと思います」と語っていたように、必ずこの戦いに勝利するという強い執念が見られた。


いつものポーズで勝負の第2ピリオドへ挑む須﨑

 迎えた勝負の第2ピリオド。互いに隙を見せず、守りに入る展開が続く。須﨑は何度も足元を狙うが入江の堅い守りに攻めあぐねる。明治杯での入江との試合後に反省点を述べた際「足を触らせて失点をしてしまったところ」と語っていた須﨑だったが、残り50秒、左足をつかんだ入江に体勢を崩され、そのままテークダウン。さらにその後すぐに回されてしまい、5点差の窮地に立たされる。刻一刻とタイムリミットが迫るなか、なんとかタックルをしたい須﨑は懸命に足をつかみにいくも、入江はしっかり頭を抑え距離を詰めさせない。何としてでも得点して勝利を、この願いは届かず1−6で入江に敗北し世界選手権代表の座を逃した。


足をつかまれたことを反省点としていたが、またしても失点の原因となってしまった

 入江は須﨑にとってまさに宿敵。今まで公式戦で2度敗北を経験しているが、そのどちらも入江が相手だ。そして今回で3度目。世界選手権2連覇を果たしている女王はこの大事な一戦で因縁の相手に苦渋をなめさせられることとなった。昨年の世界選手権後、左ひじを脱臼して天皇杯を棄権した須﨑。五輪を夢に掲げていることもあり、それはとても苦しい決断だった。しかし、その後復帰戦となったジュニアクイーンズカップで優勝を果たし、明治杯でも入江や五輪金メダリストの登坂絵莉(東新住建)などの強者たちを破って優勝し、今回のプレーオフの切符を獲得した。後もう少しで手が届くはずだった五輪。それがこの敗戦で一気に遠のいてしまった。試合後膝をつきうなだれた須﨑。すぐのインタビューでは大粒の涙を流しながら悔しさをあらわにした。明治杯での優勝後「たくさん応援してくれる人がいてそういった人たちを五輪に連れていきたい」と言ったように、周りで自分を支えてくれている人への感謝の気持ちを常に持って試合に挑んでいた須﨑は今回のインタビューでも周りへの思いを述べた。「自分が五輪に行くことを望んでくれてたのに、それが終わってしまったんだと思って…」と声を詰まらせながら話した須﨑。約2分のインタビューが終わると吉村コーチの元へ向かい、目の前でしゃがみこんで涙を流し続けた。立ち上がるも再び床に力なく膝をつき手で涙をぬぐい続ける。吉村コーチはそんな須﨑の背中をずっとさすり続けていた。東京五輪出場は極めて厳しくなった須﨑。入江が世界選手権3位以内に入賞を果たすとその時点で須﨑の五輪出場はなくなる。「この負けを生かせるように」と須﨑は最後に気丈に言葉を振り絞った。


敗北後膝をつき呆然とする須﨑

(記事 北﨑麗、写真 林大貴)

結果

▽女子50キロ級
●須﨑優衣 [1-6] 入江ゆき

コメント

須﨑優衣(スポ2=東京・安部学院)※囲み取材より抜粋

――まだ気持ちの整理がついてないと思いますが、胸の中にあるお気持ちを教えてください

すごいたくさんの人に応援してもらっていたのに申し訳ない気持ちでいっぱいです。

――試合が終わって膝をつかれました、膝をついたときどんな感情がこみあげてきたのでしょ
うか

東京五輪に行きたくてやってきたし、松戸ジュニアから教えてくれた先生方や家族とか吉村コーチとか早稲田の人とか皆、自分が五輪に行くことを望んでくれてたのに、それが終わってしまったんだと思って…。

――色々な方々の思いを背負ってここまで戦ってきたと思いますがまだ五輪の可能性は残っていますし、まだこれからもレスリング人生続いてくと思いますが、今日を糧にどのようなレスリングをやっていきたいと考えていますか

ちょっとまだ気持ちの整理がついていないので…。この負けを生かせるように気持ちを整理してまた次に向かいたいと思います。

――今の心境を

東京五輪に行きたかったです。それしかないです。ほんとに応援してくれてた、支えてくれた人たち全員を東京五輪で自分が金メダルを獲得する姿を見せて恩返ししたいというのが自分の夢だったので、それが遠い夢になってしまったんですけど、もしまだチャンスがあるのなら、準備をしっかりして、難しいとは思うけれど、1パーセントの可能性を信じて頑張っていきたいと思います。

――試合中ご家族の声というのは

一回姉の声が聞こえて、それ以外は聞こえなくて冷静になれていない部分があったのかなと思います。

――今回勝敗を分けたポイントというのはご自身でどのように思われていますか

絶対東京五輪に行きたいという気持ちも応援してくれている人たちを連れて行ってあげたいという気持ちも相手の方が上だったし、プレーも相手の方が上だったなと思います。

――まだ可能性がなくなったわけではありませんが、次に向けて

まだ東京五輪へは1パーセントくらいの可能性しかないかもしれませんが、その1パーセントを信じてまた前に向かっていけたらいいと思います。