文=神高尚 写真=Getty Images

卓越したコートビジョンがもたらす魅惑のオフェンス

スリーピート(3連覇)を逃したウォリアーズのオフは、クレイ・トンプソンとの契約延長には成功したものの、ケビン・デュラントの慰留には失敗し、新たなチームとして再出発することになりました。そのデュラントと入れ替わる形でやって来たのがディアンジェロ・ラッセル。オールスターにも選ばれた若きスターガードは、ウォリアーズに何をもたらすのでしょうか。

早速『3人目のスプラッシュ』と呼ばれているラッセルは昨シーズンに大きく飛躍した選手で、3ポイントシュート成功率37%、平均21点を記録。ラッセルがコートにいる時間にネッツは22.1本の3ポイントシュートを打っていますが、そのうちラッセル本人が7.8本、ラッセルのパスから6.9本と、実に3分の2のシュートに直接絡んだことになります。自らが打つだけでなく、周囲に打たせる能力に優れており、特に相棒役となったシューターのジョー・ハリスはラッセルのパスから50%を超える成功率を記録し、リーグを代表するシューターに成長しました。

自ら仕掛けながらもシューターがフリーになった瞬間を見逃さないコートビジョンの良さこそがラッセルの最大の武器です。一見すると視野が確保できていない体勢からでも周囲の状況を把握しており、独特の『タメ』から予想できないパスを通していきます。ステフィン・カリーは同じポイントガードであり、役割が重なりそうにも感じますが、その真骨頂はオフボールで動き回ってフリーになること。一瞬のフリーを見逃さないラッセルにゲームメークを任せることで、そのシュート力はさらに威力を発揮するでしょう。

ケガで長期欠場するトンプソンが復帰すれば新たな『スプラッシュ・トリオ』の誕生となりますが、同時に3人がコートに立つよりも、常に2人がプレーする起用法が予想されます。シュート力とパッシングが合わさった鮮やかなオフェンスは、ラッセルのパスによりこれまで以上に輝きを増してファンを魅了しそうです。

しかし、『魅力が増す』からといって『チームが強くなる』わけではありません。デュラントは時にボールムーブを止めてしまいましたが、圧倒的な個の力はチームが苦しい時間帯に大きな力になりました。2年連続ファイナルMVPが抜けた穴はそう簡単には埋まりません。

ラッセルはスキルには優れていても運動能力に欠けるため、インサイドに侵入した時にはスピードで振り切ることも爆発的なジャンプ力でフィニッシュすることもできません。結果、ゴール下まで行ってもシュート成功率が55%しかないのが弱点です。ブロックに来るディフェンスをかわすフローターの上手さで補っていますが、苦しい時間帯の個人技勝負では分が悪くなります。

またトランジションオフェンスが得意ではなく、走力でリーグを席巻してきたウォリアーズに完全にフィットするには、もう一段階の成長が必要になります。

そしてチームとしての最大の課題はディフェンス。ラッセルはネッツでチームディフェンスが向上しており、ウォリアーズのディフェンスシステムにも適応できそうですが、そもそも個人のディフェンス力が足りていません。特にカリーと並んで起用されるとフィジカルな戦いには苦戦を強いられます。

その点、デュラントはディフェンスでもリーグ屈指の存在でした。ガードからセンターまで守れるオールラウンドなディフェンス力があり、長い手足を生かしてゴール下のリムプロテクターとしても活躍できます。彼がいるからこそ柔軟な選手起用が可能となっていた点は見逃せません。ラッセル獲得のためにアンドレ・イグダーラも放出したため、オールラウンドに守れる選手が減り、ウォリアーズ得意のスモールラインナップは使いづらくなります。センターのケボン・ルーニーの残留に成功したとはいえ、層の薄さは否めません。

若きスターを獲得したウォリアーズは、魅力的なオフェンスを展開するでしょうが、苦しい時間帯のオフェンスに悩み、そしてディフェンスでも安定感を欠き、難しいシーズンを過ごす可能性があります。ベテランが去り、若い選手が増えたことで我慢も必要になるでしょう。『王者』が新たな体制となり、地に足をつけて成長することができるのか。新たなチャレンジとなります。