J1リーグ17位対2位。だが、ホームのジュビロ磐田は強者・川崎フロンターレ相手にうまく戦っていた。前半の途中からペ…
J1リーグ17位対2位。だが、ホームのジュビロ磐田は強者・川崎フロンターレ相手にうまく戦っていた。前半の途中からペースをつかみ、20分を過ぎたところからロドリゲスが4回、山田大記が1回、川崎ゴールを脅かしていた。川崎のGKが名手チョン・ソンリョンでなければ、先制点を奪うことができていた可能性が高い。
流れが変わったのは、山田が惜しい左足シュートを枠外に外した直後になる。川崎は、サイドチェンジを含む大きな展開から大島僚太の足元にボールが収まった。例によって5バックで守りを固める磐田。大島へのプレッシャーも、後ろに重心がある構造上、まるでかかっていない状況にあった。
日本代表からしばらく遠ざかっているとはいえ、日本屈指のゲームメーカーだ。5バックが並ぶ左の端(川崎側から見て右の端)にスペースがあることを、大島は瞬時に視界に捉えた。
サイドチェンジのボールが蹴り込まれた先で構えていたのは車屋紳太郎だった。右サイドバック(SB)として出場するのは今季3試合目だという。

右サイドバックで先発を続けている車屋紳太郎(川崎フロンターレ)
車屋といえば、左SBのイメージが染みついている選手だ。何と言っても左利きだ。こう言ってはなんだが、こちらの長い取材経験のなかでも、左利きの右SBに遭遇した記憶はまったくと言っていいほどない。これは貴重な光景に値する。
車屋がケガで休んでいる間に、左SBの代役として出場していた登里亨平が比較的安定したプレーをしていた。その登里をサブに追いやるより、異例ながら車屋を右SBで起用したほうが何かと得策だと、鬼木達監督は考えたのだろう。
今季これまでの川崎と、昨季までの川崎と、最大の違いは右SBにある。2シーズン連続(2017年と2018年)でJリーグのベスト11に輝いたエウシーニョを、今季、清水エスパルスに放出。その穴を川崎はこれまで埋めることができずにいた。マギーニョ、馬渡和彰、鈴木雄斗、守田英正らが務めてきたが、どれもイマイチ。右サイドから安定した攻撃ができずにいた。
そこに現れたのが車屋になる。森保一監督とは相性が悪いのか、日本代表にはあまり選ばれていないが、エウシーニョ同様、Jリーグベスト11に2シーズン連続(2017年と2018年)で輝いた、日本を代表する実力派の左SBである。
右SBとしてはどうなのか。前半29分、大島からサイドチェンジのパスを受けると、車屋は余裕のアクションを見せた。磐田のウイングバック(WB)、松本昌也の対応が遅れたこともあって、そのマークを外すのに苦労は要らなかった。ボールを右から左に懐広く持ち代えると、自慢の左足から狙いすますようにセンタリングを送り込んだ。
小林悠が、これをジャンプ一番ヘッドで叩き込み、川崎は待望の先制ゴールをマークした。ヘディングも見事だったが、ヘディングしやすいコントロールの利いた柔らかな弾道なしには奪えなかった、まさにアシスト者名を明記したくなるゴールだった。
試合はこれを境に川崎ペースになっていった。結果は1-3。磐田は後半のロスタイムに1点返したが焼け石に水だった。これでサガン鳥栖と入れ替わり18位に転落。名波浩監督は試合後、その責任を取り辞任を表明した。
名波は言わずと知れた元日本代表のMFだ。車屋と同様、「9人に1人の割合で存在する」とされる左利きの選手だが、同じ左利きでも車屋とはタイプが違う。相撲や柔道などの格闘技用語で言うところの半身の体勢がキツかった名波に対し、車屋はそれほどでもない。身のこなしは右利きのSBとパッと見、そう変わらない。
右足をほとんど使わなかった名波に対し、その使用を苦にしないように見える車屋。この試合でも、彼は右足でクロスボールを何本か送り込んでいた。
左利きと言えば、かつては名波派が多数を占めた。かつて磐田などで左SBとして活躍した元日本代表の服部年宏や、このほど磐田から横浜FCへの移籍話が出ている中村俊輔も名波派だ。
かつてはそれを誇示するように、左足1本でプレーするのが一般的な姿だった。世界的に見ても、である。だが、いま名波派は古典的スタイルに属する。半身のスタイルを取る選手は激減。パッと見、左利きなのか右利きなのかわかりにくい、右足でも精度の高いキックを蹴ることができる選手が増えている。
右SBより1列高い右ウイングを務める左利きは、この20年間で急速に増加している。近いところでは川崎の家長昭博がそうだし、代表チームでは久保建英、堂安律、三好康児がそのタイプになる。だが、右SBでプレーする左利きは珍しい。逆に、右利きなのに左SBを務める選手は、長友佑都をはじめ枚挙にいとまがない。左利き選手の特殊性を象徴する現象と言える。
車屋は、世界的に見ても貴重なサンプルに値する。いつまで彼は右SBとして起用されるのか。もし今後、その数が増えていったならば、車屋はパイオニアになる。