「ウィンブルドンは選手の戦略と技術に注目して見てもらえると、さらにテニスを楽しく見ることができる」(石黒賢)「錦織選手には戦法の変化が必要」「大坂選手はフリーな気持ちでウィンブルドンに挑める」…

「ウィンブルドンは選手の戦略と技術に注目して見てもらえると、さらにテニスを楽しく見ることができる」(石黒賢)

「錦織選手には戦法の変化が必要」「大坂選手はフリーな気持ちでウィンブルドンに挑める」(伊達公子)

グランドスラムの中でも最も格式高いと評される、歴史と伝統を誇る「ウィンブルドンテニス」。日本のエース錦織圭、大坂なおみの戦いなど、WOWOWではミドルサンデーとなる7日(日)を除いて、7月1日(月)~7月14日(日)、連日生中継でお届けする。(※第1日無料放送)

番組では、今年もスペシャルナビゲーターとして俳優・石黒賢が出演。WOWOWテニスアンバサダーの伊達公子も登場し、現地の感動と興奮をお届けする。

そんな二人が大会前に対談を行い、ウィンブルドンテニスの見どころを語った。

■錦織選手について

石黒:夢のグランドスラム初優勝を目指す、錦織圭選手についてうかがっていきたいと思います。昨年はベスト8まで進み、ジョコビッチとセンターコートで対戦しました。その後もグランドスラムはすべてベスト8まで進んでいます。

先の全仏オープンをご覧になった伊達さんは、錦織選手の今の状態、そしてウィンブルドンでの活躍についてはどのように思っているのでしょうか?

伊達:毎回言っているのですが、グランドスラムの1週目をどう切り抜けるのかが一番の課題だと思います。

全仏オープンでは1週目で5セットの試合があったため、ギアを上げたい2週目でパフォーマンスが落ちてしまったのです。とてももったいないと思いました。

石黒:フォアハンドはかなり復調してきたと思うのですが。

伊達:すっかり自信を取り戻して、プレー自体はすごく良くなっていると思います。

錦織選手は一度、全米オープンでファイナリストになっているので、ベスト8というところで満足していないはずです。

もう一度決勝で戦いたいと思うなら、フィジカルなのか、テクニックなのかは分かりませんが、何か変化が必要だと思います。

ただ、30歳になって、10代、20代前半に比べると疲労の回復は少しずつ遅くなっているはずです。これからは、いかに常に高いパフォーマンスを出せるのかということに向かい合わなくてはいけないと思います。

そのためにも、まずは5セットにならないテニスをしないといけないと思います。

一方で、サーブはすごく良くなってきたと思うので、サーブを活かした戦法的な変化は、体の負担を減らす意味でもあると思います。5セットにしないためにも、それは1つの方法かもしれませんね。

■今年の注目選手・女子は

石黒:さて、次は女子にいきたいと思います。

ナンバーワンの重圧というのがあったのでしょうか。大坂選手は、全仏オープンで残念な結果に終わってしまいました。今回の芝のコートでは、あのサーブはアドバンテージになるのでしょうか?

伊達:そうですね。アドバンテージがあることは間違いないと思います。

ただ、後半戦でトップ20、トップ10の選手と戦うときには、サーブだけでは勝ち切れないと思います。

ファーストサービスの確率が落ちたときや、なかなかブレイクできないときに、サーブ以外の部分を求められると思うのですが、彼女には優勝できるだけのものはまだ備わっていない気がします。まだ少し早いのかなと思います。

ただ、クレーでもフットワークが良くなっていますし、芝も年々良くなっていると思います。彼女はまだ成長している途中だということを忘れてはいけないと思います。

全仏オープンで負けたことによって、フリーな気持ちでウィンブルドンに挑めるのではないかと思います。

石黒:全仏オープンで優勝した(アシュリー・)バーティですが、実は彼女、ウィンブルドンのジュニアで優勝しているんですね。そして、伊達さんは昨年、彼女にインタビューしているのですね。

伊達:「芝は大好き」と彼女は言っていましたよ。

バーティはそんな上背があるほうではないのですが、パワーもありますし、スピーディーなプレーもできます。そして、なんと言ってもバックのスライスがいいんです。今の女子選手にはないスライスなんです。

インタビューでは、どうやってそのスライスを手に入れたのかを聞いてみたのですが、「若いときにコーチから、いろいろなバリエーションのショットを打てたほうがいいと言われたんです。そのショットの1つとして、バックハンドのスライスも身に付けたのです」と答えていました。

石黒:フェデラーのプレーを見ていると、芝では本当にスライスが有効ですよね。特に彼はいろいろなバリエーションのスライスを打つんです。芝の残っているところに、あえてめがけて打つような絶妙なショットを見せるんですよ。

伊達:その女子版がバーティだと思います。バックのスライスのクオリティはすごく高いと思います。

スライスには、攻撃的なものもあれば、時間を作るためのものなど、いろいろなショットがあります。フェデラーもバーティも、そのあたりを巧みに使い分けていますね。どこでボールがはずまないと相手が嫌がるのか、それを考えてスライスを打っているのです。

大坂選手も最近はちょっとスライスを打てるようになってきていると思います。プロの世界に入って、スライスの必要性を感じているから、少しずつ打っているのだと思いますね。

石黒:その他にも女子は10代の選手が台頭してきました。ウィンブルドンでは、どんな選手が活躍するのでしょうか。

また、優勝経験者ではセレナ(・ウイリアムズ)、ビーナス(・ウイリアムズ)、(ペトラ・)クビトバ、(ガルビネ・)ムグルッサ、(アンジェリック・)ケルバーなどがいますが、彼女たちはどうでしょうか。

伊達:やはりパワーは必要になってきますし、男子ほどではないにしろサーブ力がある選手が有利だと思います。それにレフティの強みを持ったクビトバ、ケルバーも有力だと思います。

バーティは、ビッグサーブもありますが、頭を使った戦略的なプレーをするんです。全仏オープンを勝ったことにより、パワーだけなく、男子のような戦略が求められようになってくると思います。

石黒:バーティが全仏で優勝したことによって、他の選手にもいい影響を与えたように思います。

伊達:2019年のツアー大会は、毎回違う選手が優勝しています。誰が勝つのか予想するのが難しい状況です。

大坂選手は全米、全豪とグランドスラムを連覇しましたが、一時期のセレナほどの絶対的な強さはまだありません。ですから、みんな「次は私が」と思って大会に挑んできています。

そんな中では、全仏で活躍した(マルケタ・)ボンドルソバや(アマンダ・)アニシモワ、そして私が密かに期待している(アーニャ・)サバレンカなどの若い選手に注目したいと思います。

〈インタビュー取材〉

―(対談を終えて)前回の対談から1年、その間、錦織選手はグランドスラム4大会連続ベスト8、大坂選手は全米、全豪の連続制覇がありました。この1年のテニス界を振り返って感じることは?

石黒:なおみちゃんが全米で優勝したことにより、「大坂、次の試合はどうだろうね」というように、街の人たちがテニスのことを話題にしてくれることが多くなったと実感しています。僕はテニスが日本のポピュラーなスポーツになってほしいと思っているのですが、その意味でもこの1年の彼らの活躍は大きかったですね。

伊達:大坂選手が日本人選手として初めてグランドスラムを優勝したのは、とても大きな出来事だったと思います。グランドスラム優勝はみんな夢見ていたことだと思うのですが、実現できるという確信はなかったと思います。それだけに彼女が優勝したことは本当に大きな出来事だったと思います。

その一方で、危機感も感じています。それは女子でいえば、大坂選手に続く若手が育っていないことが1つあります。

また、WOWOWのアンバサダーになったことにより、いろいろな国のテニス協会の会長ともお話しする機会があったのですが、錦織選手や大坂選手がこれだけ活躍していても、日本のテニスに環境はまだまだ整っていないことに気づかされました。

テニスが人気を集めるのはうれしいことですが、それに中身も伴っていかなければならないと感じています。

―石黒さんは今年で12年目になるそうですが、ウィンブルドンならでは魅力というのは?

石黒:どんなタイトルを取りたいかと選手に聞くと、やはりウィンブルドンを一番に挙げる人が非常に多いのです。

それは歴史もあるし、観客がテニスをすごく愛していて選手をリスペクトしている。そして、芝のコンディションを始めとして運営側が選手にいかに気持ちよくプレーをしてもらえるかに気を配っているんです。

三位一体というか、この3つが実にきっちりとはまっているんです。

ですから、見ていて心地いいですし、神様の贈り物のような信じられない瞬間も訪れるのだと思います。

伊達:論文のために選手に好きなサーフェスのアンケートを取ったことがあるのですが、芝を挙げる選手が意外と多かったのです。芝のシーズンは一番短いし、苦手にしている選手も多いと思っていたのですが、それはやはりウィンブルドンを特別な大会だと感じている選手が多いからだと思うのです。

―最後に、これからテニスを見ようと思っている人たちへ、どんな点に注目して試合を観ればよいかを教えてください。

伊達:錦織圭や大坂なおみ、そしてフェデラーといった選手の名前から入っていくというのも1つの方法だと思います。

しかし、彼らがいなくなってしまったときは困りますね。

別に深く考えなくてもいいので、サーブやストロークなどテニスのテクニックにも注目してほしいですね。そうすると、プレースタイルや戦術に興味を持ってもらえると思うので、ずっと長くテニスを楽しめるのではないかと思います。

入口は選手でもいいのですが、テニス自体をもっと楽しんで見てほしいと思います。

石黒:テニスは引き分けもないし、時間も決まっていない。試合は1ポイント1ポイントの積み重ねなんですが、終わってみると勝負の鍵はあのゲームのあのポイントだったと思うことがあるんです。

ですから、その勝負の鍵となるポイントを取るために、選手は詰め将棋のようにどのようにしてポイントを重ねていくかに集中しているんです。その戦略と技術に注目して観てもらえると、さらにテニスを楽しく見ることができると思います。

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