大学に入学した時、大坪海斗選手(立教大学)には心残りがあった。高校まで所属していたテニス部で全国大会出場を目標にしていたが、あと一歩のところで叶わなかったことだ。大学ではサークルに入って楽しく過ごそうかと思っていた矢先、水上スキー部の先輩が…

大学に入学した時、大坪海斗選手(立教大学)には心残りがあった。高校まで所属していたテニス部で全国大会出場を目標にしていたが、あと一歩のところで叶わなかったことだ。大学ではサークルに入って楽しく過ごそうかと思っていた矢先、水上スキー部の先輩が声をかけてきた。「一緒に“日本一”を目指してみない?」。今までの目標よりも、さらに高みを目指す。「社会人になってから、何かで日本一を目指そうと思っても難しい。達成できる最後のチャンスではないか」。頂上に立ってみたかった。そして、今まで手が届かなかった景色よりも、もっと高い場所を見てみたかった。

水上スキーには大きく分けて3種目がある。40秒間に繰り出す技によって点数が決まるトリック、スキーの大回転のように6つの目標物の外側をターンし、成功した回数を競うスラローム、水上に設置された台を利用して飛距離を競うジャンプだ。男子では各種目4人の選手が出場し、上位3人合計9人の得点で勝敗を決める。その中で大坪が取り組んでいるのはスラローム。最初は時速50km程度からスタートし、徐々に加速していく。それに伴い、ボートとブイをつなぐロープも短くなる。身長が高い方が有利となるため、身長188cmの大坪は体格を活かしたダイナミックなプレーを持ち味としている。最高時速58kmで水上を走る加速感には、日常生活では生身で体験できないスリルがある。

※練習前に後輩たちと一緒に昼食を摂る大坪(写真一番左)。普段から部員とのコミュニケーションを欠かさない

競技の難しさは天候や水質に左右されること。風速5m以上だと波が荒れるため、水上で練習することができない。また、手で触ってみてもわからないが、実際にボードを入れると水を硬く感じたり、あるいは柔らかく感じることもあるという。時期としては、夏は柔らかく、冬は硬いと感じることが多い。また、国内外など場所によって水質が異なるため、選手たちはボードをスムーズに水に入れることを意識してレースに臨む。

自然相手のスポーツならではの難しさはあるが、日本一への手応えはつかんでいる。大坪の代は2年生の時、新人戦で優勝した。水上スキーの成長曲線が大きく伸びるのは始めてから約1年。その後は大きな差がつきにくくなるため、新人戦優勝はインカレ優勝に向けた登竜門ともいえるのだ。しかし、満足しているわけではない。優勝を逃した他大学は、悔しさをバネに厳しい練習を積み重ねているはずだが、それでも「頼もしい同期や後輩がいる。絶対に勝てると信じている」。中高時代の忘れ物、そして「日本一」という新たな夢に向かい、大坪は水を味方にして挑んでいく。

 

※大学アスリート1日密着動画「THE STARS」にて、大坪選手を特集しています。
 大坪選手の「THE STARS」はこちら
 また、大坪選手に答えていただいた「COLLEGE MONSTERS」はこちら

 

大坪海斗(おおつぼ・かいと)
東京都出身。1997年6月23日生まれ。188センチ、76キロ。立教新座高校を経て、現在は立教大学経済学部4年。恵まれた体格と旺盛な好奇心を活かし、4年間スラロームに取り組んできた。常に水上スキーのことを考え、「日本一」を達成するために早朝から夕方まで競技に向き合っている。