コパ・アメリカの決勝トーナメントが始まる。ここに至るまでには、よくも悪くも予想外の展開が数多くあった。まずは、残念…
コパ・アメリカの決勝トーナメントが始まる。ここに至るまでには、よくも悪くも予想外の展開が数多くあった。まずは、残念ながらブラジルから去ることになった4チームから評していこう。
一番弱いチームはボリビアだったが、一番がっかりさせられたのはエクアドルだ。ここ3年、彼らはずっといいサッカーをしてきたのに、ふたを開けてみれば結局、1勝もできなかった。
カタールには拍手を送りたい。クオリティがなく、危険ではないと思われていたが、スペイン人監督フェリックス・サンチェスは興味深いサッカーをするチームに仕上げていた。パラグアイ戦では、2-0とリードされていたにもかかわらず、後半はゲームを支配して同点に追いつき、あと少しで勝ちそうな勢いだった。
しかし、いい意味で大きく期待を裏切ったのは日本だ。ひとつ付け加えておきたい。グループステージが終わった段階で、各国の記者たちがそれまでのベストマッチを選んだ。それがウルグアイ対日本戦だった。日本は4チーム中、最も敗退に値しないチームだった。

ペルーを5-0で下し、それまでのうっ憤を晴らしたブラジル photo by Watanabe Koji
反対に勝ち進んだことに疑問を感じたのはパラグアイだ。カタール相手にひどい試合をし、負けなかったのはただ運がよかったせいだけだ。絶不調のアルゼンチンとも引き分け、すでに勝ち抜けが決まって主力を温存したコロンビアには1-0で負けている。彼らが残り、日本が去るのはどうにも不公平だが、それがサッカーでもある。
ブラジルに0-5と大敗したペルーが準々決勝に進出したのも、あまり納得がいかない。ひとえに最弱のボリビアが同じグループにいてくれたおかげだろう。
チリの戦いぶりも気に食わなかった。前回、前々回の優勝チームの片鱗はまるで見られなかった。チリを救ったのは、チリ人ではないレイナルド・ルエダ監督(コロンビア人)だ。4-0で勝利した日本戦以外は平凡なチームだったし、その日本戦も正直、そこまで大勝するようなプレーはしていなかった。
グループステージで一番謎が多く、混乱していたのはアルゼンチンだ。3試合中、ひとつも納得のいく出来のものはなかった。カタール戦でDFのミスと、珍しいセルヒオ・アグエロのゴールがなかったら、アルゼンチンは確実に家に帰っていただろう。
アルゼンチンに問題があることは、0-2で敗れた初戦のコロンビア戦からすでに見て取れた。偉大なリオネル・メッシはピッチで迷子になり、マンチェスター・シティのニコラス・オタメンディは、その日プレーした選手のなかで最悪のパフォーマンスを見せた。
監督のリオネル・スカローニはたぶん大会後、その任を解かれると思われる。ラウタロ・マルティネスは交代時に監督との握手を拒み、ベンチでチームメイトと口論していた。結局グループステージの結果は1勝1敗1引き分け。カタール相手に苦労してもぎ取った1勝でどうにか決勝トーナメントに勝ち進み、メンツを保ったが、これからはそうは簡単にはいかないだろう。
ブラジルはこの大会中に大きな変貌を遂げた。それもかなりポジティブな方向に。
チームの柱であったネイマールの欠場は、なんだかんだと言って、やはり大きな痛手だった。初戦ではボリビアに3-0で勝ったが、サポーターはブラジルにブーイングを浴びせた。ベネズエラとの0-0の試合もブラジルに平安を与えてはくれなかった。罵声に不信、数多くの問題点……大会中のチッチ監督交代の是非も真剣に議論された。
これらの疑念をすべて吹き飛ばしたのは、思いもかけない選手だった。エベルトン・セボリーニャ。ブラジル国内でプレーする(グレミオ)数少ない代表で、今回初めて、大舞台でカナリア色のユニホームをまとってプレーした23歳だ。ブラジルは彼を中心に完全に生まれ変わり、かわいそうなペルーは5点を奪われてしまった。ちなみにセボリーニャとは彼のニックネームで、ポルトガル語で「小さな玉ねぎ」の意味。次世代のネイマールとも呼ばれる、小さな玉ねぎ君が、ブラジルのアイドルとなりつつある。
今回、最高のチームのひとつは掛け値なしにウルグアイだ。たぶん、一番完璧で一番南米らしいチームかもしれない。攻めも守りも完璧だった。ウルグアイサッカーの特徴である闘志と力と勇猛さがよく出ていた。
エディンソン・カバーニとルイス・スアレスのような贅沢な二枚看板をトップに持つチームは他にはない。パワー、テクニック、経験、すべてを併せ持ち、まさに世界のスーパープレーヤーの名に恥じない。守備の要は来季からインテルに加入するディエゴ・ゴディン。強靭で闘志あふれるDFだ。そして彼らを指揮するのが、監督歴の長いオスカル・タバレス。代表を率いてすでに13年になる。
3試合すべてで見事なゴール、無駄のない動きを見せたウルグアイは、現在優勝に最も近いところにいるかもしれない。彼らを倒すのは至難の業だろう。この絶好調のウルグアイに、あと少しで勝利しそうになったからこそ、日本の評判も急上昇したのだ。スアレス、カバーニ、ゴディンに、日本は好きなように仕事をさせなかった。
もうひとつの最高のチームはコロンビアだ。彼らはグループステージで唯一、全勝を果たした。同じベストチームでも、ウルグアイとはタイプが違い、軽快で陽気でテクニカル、美しいゴールが身上だ。別な意味でとても南米らしい。
主力のハメス・ロドリゲスは、来シーズンに向けて自分をより高く売るためにも、この大会での活躍を望んでいる。彼らはそれほど苦労もせずにアルゼンチンに2-0で勝利した。活躍したのはハメス・ロドリゲスだけではない。ラダメル・ファルカオ、そしてルイス・ムリエル。今年、セビージャからフィオレンティーナにレンタル移籍して活躍したムリエルは、スピードがあり、頭の回転がよく、来季はアタランタに移籍し、チーム史上初のチャンピオンズリーグに臨むことが決まっている。
チームを率いるのはコロンビア代表初のヨーロッパ人監督、ポルトガルのカルロス・ケイロスだ。かつてルイス・フィーゴをポルトガル代表に招集してワールドユースで優勝させ、マンチェスター・ユナイテッドではアレックス・ファーガソンの、レアル・マドリードではジョゼ・モウリーニョの右腕を務めた。イラン代表を2度もW杯出場に導いた手腕を持つ。彼がコロンビアをどう導くか、非常に興味深い。
コパ・アメリカの準々決勝が始まる。世界中が今まで以上に注目するだろう。まずブラジルがパラグアイと対戦し、その後はアルゼンチン対ベネズエラ、チリ対コロンビアと続き、ウルグアイはペルーと戦う。
試合は一発勝負になるが、特筆すべきは延長戦がないことだ。90分で決着がつかなければ、即PK戦となる。ドラマティックな展開が、否が応にも多くなるはずだ。チッチ、ケイロス、タバレスら、名将たちの知恵比べも見ものだ。運命をかけた真剣勝負が始まる。