「リオデジャネイロ五輪テニス競技」(8月6~14日/オリンピックテニスセンター:バーハ・オリンピック・パーク/ハードコート)の男子シングルス1回戦で、第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)がフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼン…

「リオデジャネイロ五輪テニス競技」(8月6~14日/オリンピックテニスセンター:バーハ・オリンピック・パーク/ハードコート)の男子シングルス1回戦で、第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)がフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)に6-7(4) 6-7(2)で敗れるという番狂わせが起きた。  ジョコビッチは頭を振り、涙にぬれた目を手で覆った。グランドスラム・タイトルのコレクションに、五輪の金メダルを加えることはもう無理なのかもしれないという思いに、彼は打ちひしがれていた。  「疑いなく、これは僕のキャリア、僕の人生でもっとも辛い敗戦のひとつだ」

 ジョコビッチは試合後、頭を振り、抑えた声でこう言った。

 「対処するのは容易なことじゃない」

 リオ五輪の2日目、ジョコビッチは失望に沈んだ唯一のトップ選手ではなかった。彼は12時間の間にテニス競技から姿を消した3組の第1シードの一角だったのだ。  ジョコビッチの敗戦は、主に、長い故障から復活したデル ポトロの獰猛なまでのフォアハンドの攻撃によって起きたことだった。

 この驚くべき結果は、女子ダブルスの第1シードだったセレナ&ビーナス・ウイリアムズのアメリカ・ペアと、男子ダブルスの第1シード、ニコラ・マウ/ピエールユーグ・エルベール(フランス)の敗戦に続いて起こった。  ウイリアムズ姉妹のダブルスは、ここまで五輪で15勝0敗の戦績を誇り、すでに3つの金メダルを獲得していた。

 さらに男子ダブルスの第2シード、アンディ&ジェイミーのマレー兄弟(イギリス)までが、トーマス・ベルッチ/アンドレ・サのブラジル・ペアに6-7(6) 6-7(14)と大接戦の末に敗れ、1回戦で姿を消すことになった。  「この辛さに耐え、進んでいかなければならない」と、ウィンブルドン優勝者アンディ・マレーの兄ジェイミーは言った。  日曜日の試合は風速40kmの風のために、9コートのうち8コートで開始が2時間ほど遅れ、それから多くの驚くべき結果が生まれた。  その中でももっとも重大だったのは、言うまでもなく、2009年全米オープン・チャンピオンのデル ポトロが、2つのスリル溢れるタイブレークの末、グランドスラム優勝歴12回のジョコビッチを倒したことだった。試合の終わりの、ネット際での長く温かい抱擁のあと、友人同士でもあるというふたりの男たちの双方が涙を流した。  その抱擁の間に、「ジョコビッチは非常に思いやりのある言葉をかけてくれた。そのことに感謝している」とデル ポトロは言った。ジョコビッチは試合後「彼は重要な瞬間に、並外れたプレーをしてきた」と相手を称え、デル ポトロのことを「僕の友達」と呼んだ。  デル ポトロは、今年のウィンブルドンまでの2年半もの間、彼のグランドスラム大会での活動を阻んだ左手首の故障を治すため、3度の手術を受けていた。

 「僕にとって本当に素晴らしい、驚くべき試合だった」と言ったデル ポトロは、「今夜ノバクを倒せるとは思っていなかった」と認めさえしている。  ジョコビッチは、ふたりの間での、ここ8試合のうち7試合に勝っており、この試合前の全対戦成績では14試合を戦い11勝3敗だった。しかしデル ポトロが五輪でジョコビッチを破るのは、これが2度目となる。彼は4年前のロンドン五輪の銅メダル決定戦で、ジョコビッチを破っていたのだ。  ジョコビッチにとって、セルビアを代表することには大きな意味がある。彼は母国をデビスカップ優勝に導き、2012年ロンドン五輪では開会式で旗手を務めた。2008年北京五輪で彼は銅メダルを勝ち取ったが、多くの成功を収めてきたジョコビッチにとって、チャンピオンになること以外のすべてが、受け入れがたきことだ。

 ネナド・ジモニッチとペアを組んだ男子ダブルスで2回戦に進んだジョコビッチは、まだ金メダルを獲るチャンスを擁してはいるが、シングルスに関しては非常に大きな好機を逃したことを悔やまずにはいられないだろう。次の2020年東京五輪の際に、ジョコビッチは33歳になっている。  「傷はまだ生々しい。でも受け入れ、対処しなければならない。テニスの試合に負けたのは、これが初めてでも最後でもない。だけど、オリンピックは…ああ、まったく違ったものだからね」とジョコビッチは言った。  この失望は、ウィンブルドン3回戦でのサム・クエリー(アメリカ)に対する3回戦負けの約1ヵ月後に起きた。このことは、彼が6月の全仏オープンで優勝して、半世紀ぶりにグランドスラム大会に4つ連続で勝った男となったときに皆が考え始めていたような“無敵の男”、ではないのだ、という観念を強めるものだった。  ジョコビッチがいなくなった今、2012年ロンドン五輪の金メダリストで、今回、第2シードのアンディ・マレーが優勝候補の筆頭だ。それが実現すれば、マレーは五輪テニス競技のシングルスで2連覇を果たす史上初の選手となる。彼は1回戦でビクトル・トロイツキ(セルビア)を6-3 6-2で下していた。  兄ジェイミーと組んだダブルスで、弟アンディは2セットのタイブレークで5つのセットポイントを無駄にしてしまった。アンディは試合後、ジョハナ・コンタとのミックスダブルスは、ダブルスのトップレーヤーである兄ジェイミーに任せ、「僕は今、シングルスに集中する」と話した。「一日オフがあるのでしっかり回復に努めたい。今日は長い一日だった」。(C)AP