フランスの応援団は初日から騒ぎ続けている。アメリカのサポーターたちも同様。ラグビーの会場となったデオドロスタジアムのビール消費量は相当なものだろう。 今大会、ビールを注いでくれるカップにはいろんな競技のマークがプリントされている。水泳、カ…

 フランスの応援団は初日から騒ぎ続けている。アメリカのサポーターたちも同様。ラグビーの会場となったデオドロスタジアムのビール消費量は相当なものだろう。
 今大会、ビールを注いでくれるカップにはいろんな競技のマークがプリントされている。水泳、カヌー、レスリング、自転車…。ラグビーのものもきっとあるはずだが、知人は「何杯飲んでもラグビーのものが出てこない…」とぼやいている。いろんな種類のものが欲しくて、飲み干した近くの人におねだりするファンもいた。8月7日の夕方前から雲が出て涼しくなったが、ラグビー会場のビールの売れ行きは他を大きく上回っているだろう。

 勝利を見て、はやく祝杯をあげたい…と祈る日本サポーターたちの願いは、ラグビー競技2日目の夕方にやっと叶った。
 歴史のトビラを最初に開いたのは桑井亜乃だった。
 リオ五輪の女子ラグビー。初日(8月6日)にカナダ、イギリスに大敗したサクラセブンズは、2日目のプールマッチ最終戦のブルジル戦に挑んだ。0-5で迎えた前半5分30秒過ぎ、小出深冬のラインブレイクから相手ゴールに迫り、反則を誘う。すぐに速攻を仕掛け、桑井がインゴール右中間に飛び込んだ。初戦から続いていた無得点。33分以上かけて、やっと奪ったチーム初得点、初トライだった。
 しかしチームは、地元ファンのブラジルコールが渦巻く中で10-26で敗れ…ベスト8進出の夢が完全に消えた。後半立ち上がりに山口真理恵が勝ち越しのトライを奪ったが、勝利へのトビラを半分開いてその後閉じた。ファンの祝杯もお預けとなった。

 目標としてきた金メダルへの道が閉ざされたサクラセブンズ。この5年の努力の量を考えれば、失意の大きさは想像に難くない。夕方におこなわれた9~12位決定戦の初戦、ケニア戦の立ち上がりもキックオフボールが乱れ、最後の最後までズルズルいく可能性もあった。
 しかし、そこから粘り腰を見せた。前半1分30秒過ぎに相手のパスをインターセプトし、トライラインを越えた山口の快走が本来の姿を取り戻す号砲となって全員がいきいきした。多くの選手から声が出た。それまで静かだったピッチに活気が戻った。
 前半5分30秒過ぎ、ラックから球を持ちだした山口が再びトライ。後半に入って桑井、兼松由香がトライを追加して24-0で試合を終えた。五輪と日本ラグビーの歴史に勝利を刻み込んだ瞬間だった。大きな目標を失っても心が折れなかったからこその結果にチームは笑顔になった。
 サクラセブンスは最終日に9位の座をブラジルと争う。後悔も反省もヤマほどあるだろうが、まずは2016-2017ワールドシリーズのコアチーム入りを決める戦いに勝ち、今回の経験を活かすための道を切り拓きたい。(田村一博)