セルヒオ・アグエロもアンヘル・ディ・マリアも、そしてリオネル・メッシも、アルゼンチンを救うことができなかった。 コ…

 セルヒオ・アグエロもアンヘル・ディ・マリアも、そしてリオネル・メッシも、アルゼンチンを救うことができなかった。

 コパ・アメリカのグループステージ第2戦。パラグアイとの試合が進むにつれて、アルゼンチンの監督リオネル・スカローニの顔は驚きから絶望へと変わっていった。代表監督になってまだ1年にも満たない彼には、この時間をどう止めたらいいか、わからないようだった。実際、アルゼンチンの試合はホラー映画の様相で始まり、ギリシャ悲劇のように終わった。

 数多いアルゼンチンのスター選手の誰も、結果を出すことはできなかった。反対にパラグアイは非常に冷静で、アルゼンチンのどこを攻めれば致命傷を負わせられるか、よくわかっていた。パラグアイはアルゼンチンを混乱させて先制した。

 ここで重要なのは試合の流れではない。注目すべきは、ドラマティックなまでにふがいないアルゼンチンの状況だ。ほとんどの場面で、アルゼンチンは3、4本以上のパスをつなぐことができなかった。DFからボールを奪い、ゴールを目指すべきメッシも何もできない。前半のアルゼンチンのシュートは、わずかにFKからの1本だけだった。



パラグアイ戦でPKを決めたものの、冴えない表情のリオネル・メッシ photo by AFLO

 アルゼンチンからやって来た2万人のサポーターも、アルゼンチンの破滅を感じ始めていた。しかし、そこで驚くべき出来事が起きた。メッシのシュートをパラグアイのGKフニオール・フェルナンデスがスーパーセーブし、コーナーキックに逃れた後に、突如試合が中断された。VAR判定だ。

 ピッチでは、誰もが試合をリスタートさせる準備ができていた。メッシはすでにコーナーに立ち、パラグアイの選手もみな守備のポジションについていた。なんの説明もないまま、数分が過ぎた。選手たちも、いったい何が起こっているのかわからない。

 そして最後に、ブラジル人の審判はアルゼンチンにPKを与えた。驚くべきシーンだった。中継していたブラジルのすべての解説者も、記者たちも、PKではないと主張した。

 メッシがシュートを放つ前のプレーで、アルゼンチンのラウタロ・マルティネスのシュートを、パラグアイのDFイバン・ピリスがブロックした際のハンドがとられたのだが、ピリスはシュートを腰で止めた後、ボールはまず彼の足に当たり、その後、手に当たっている。導入されたFIFAの新ルールに照らし合わせてもファウルではない。

 その証拠に、アルゼンチンの選手でさえ、誰もPKを主張してはいなかった。しかし、メッシは何もわからない風を装って、PKを決めて同点にした。アルゼンチンは茶番に救われた。

 この同点弾で、アルゼンチンサポーターはにわかに活気を取り戻した。声を合わせて声援を送り出した。チームもそれに呼応して目覚め、すべての流れは変わるかのように思えた。しかし――それは単なる錯覚に過ぎなかった。

 その数分後、この日、一番ひどい出来だったニコラス・オタメンディのデルリス・ゴンサレスに対するファウルで、今度はパラグアイにPKが与えられた。これでアルゼンチンは終わったかのように思えた。そしてパラグアイは決勝トーナメント出場を確実にしたかに見えた。しかし、この日、アルゼンチンが試合を引き分けで終えられたのは、ひとえにGKフランコ・アルマーニのおかげだ。このPK以外にも、少なくとも3つのすばらしいセーブを見せていた。

 しかし、アルゼンチンの見せ場はそれだけだった。アルゼンチンは相変わらず相手ゴールまでたどり着くことができない。メッシはピッチの中で孤立し、アグエロはいないも同然。現実はアルゼンチンにとってどんどん厳しいものになっていった。

 試合後、メッシは「アルゼンチンがここで敗退するなど馬鹿げている」と、コメントした。

 だが、アルゼンチンのプレーを見る限り、メッシのこの言葉には失笑せざるを得ない。アルゼンチンが引き分けられたのは、あり得ないPKが与えられたからであり、相手のPKをGKが止めてくれたからだ。本当ならパラグアイが2-0で勝つべき試合だった。

 グループステージ最終戦を残したアルゼンチンの状況は深刻だ。2試合で勝ち点1。カタールと同勝ち点だが、得失点差によりアルゼンチンはグループ最下位に沈んでいる。

「パラグアイに引き分けることができたのは奇跡だ」と、アルゼンチンの人々は自嘲気味に言う。

 アルゼンチンの新聞『Ole(オレ)』は「アルゼンチンが次の試合に勝とうが、とにかく奇跡が必要だ」と書いている。まさしくそうだ。アルゼンチンはカタールに絶対に勝たなければいけないが、たとえ勝ったとしても、それだけでは十分でない。アルゼンチンの命運はもうひとつのコロンビア対パラグアイ戦にもかかっている。コロンビアが勝たなければ、アルゼンチンは勝利したとしても2位にはなれないのだ。

 ところが、コロンビアのベテラン監督カルロス・ケイロスはすでにこう表明している。

「コロンビアの首位通過はもう確定している。次の試合では大幅にメンバーを代え、主力を休ませるつもりだ」

 一方のパラグアイはグループ突破に向けて、最強のメンバーで臨むだろう。アルゼンチンにはやはり奇跡が必要だ。グループ3位になってしまったら、アルゼンチンは他グループの3位との兼ね合いで運命が決まることになる。もちろん、カタールに引き分けた場合、条件はより厳しくなる。

 アルゼンチンの主要紙『Clarin(クラリン)』の試合翌日の見出しは、「もう苦しむのはたくさんだ!」だった。アルゼンチン人の気持ちを如実に表している。

 アルゼンチンのスカローニ監督はパラグアイ戦後、「いまだに生き残っていることに、まだ希望があることに、我々は感謝しなければならない」とコメントした。だが、これだけトップクラスの選手を擁するチームが、決勝トーナメント進出に向けて首の皮一枚でつながっていることに感謝するなど、あってはならないことだろう。

 アルゼンチンの英雄ディエゴ・マラドーナはテレビ番組で「このチームは愚かで、弱くて、混乱している。今ならトンガと試合したって負けるだろう」と言い放った。トンガはFIFAランキング202位のチームだ。

 67分にディ・マリアとの交代でピッチを去ったマルティネスは、監督との握手を拒否し、かわりに水のボトルを蹴飛ばした。監督に対する怒りとリスペクトのなさの表れだろう。

 事態は昼メロのようにドロドロしている。世界最強の選手を数多く抱えるチームが、カタール戦とコロンビアの2軍に望みを託そうとしている。