昨年度就任1年目ながら5年ぶりに全国大学選手権(大学選手権)準決勝の舞台までチームを導いた。今シーズンこそは悲願の『荒ぶる』を歌う。その目標に向かって、指揮官はどんなビジョンを描いているのだろうか。 ※この取材は3月19日に行われたもので…

 昨年度就任1年目ながら5年ぶりに全国大学選手権(大学選手権)準決勝の舞台までチームを導いた。今シーズンこそは悲願の『荒ぶる』を歌う。その目標に向かって、指揮官はどんなビジョンを描いているのだろうか。

※この取材は3月19日に行われたものです。

「次の100年につながる一年へ」

――昨年度の結果を振り返っていただけますか

 全国大学選手権(大学選手権)での優勝には届きませんでしたが、成長し続けたシーズンであったと思います。振り返ってみれば、春の段階で監督が変わって大変な部分も多かっただろうし、100周年で日本一を目指すということは口では言っても、本当にそこに対してどれだけ本気になれるかとか、そういう意味ではだんだん夏合宿以降成長し、帝京戦で勝った。そういったところで手応えをつかみ始めてからは本気で目標に向かっていける集団になれたのかなと思います。

――以前の対談では「良くも悪くもいい子たちが多いと」おっしゃっていましたが、それは昨年度の4年生に対してでしょうか

 いえ、全体ですね。今の子たちはそういう感じなのかなと思いますね。

――創部100周年という節目の年に初めての早稲田での監督を務める苦悩などはありましたか

僕自身、周りには当然100周年ということはだいぶ言われて、「そんな時期に大変だね」と言われることはありました。いい戦力はいましたけど、チームの結果が長らく出ていない時、僕自身は本当に巡り合わせだと思いました。たまたま100周年という節目の年にぶちあったというだけなので。むしろよく何人かには言いましたが、「次の100年につながる一年になればいいな」と思ったので、その一年をやらせてもらうというのはやりがいのあることだなという風に思いましたけどね。

――昨季と今季では心境で違う部分はありますか

そうですね。違ってはいけないのでしょうけど、逆に中身を選手のこともある程度分かってるし、中身が知っているが故の不安だとか、ある意味での問題点もあるので。そういった意味では去年よりも不安というのも変な言い方ですが、色々やらなければいけないことはあるなという気はしていますね。


指揮官の目に映るのは

――課題となる部分はどこでしょうか

 去年も、セットプレーの安定というところを1つ、強豪と戦う上ではキーになっていたと思うので。そういった部分がシーズン深まるにつれて本当に1試合1試合成長していったので、何とか我慢できるレベルになったと思います。去年、フロントローの1、2番が下級生少なく、昨年の4年生が多かったので。そこが抜けるという部分に関してはただ抜けるということとは意味が違うなと思ってます。

――セットプレーのボール獲得率はどれくらいだったでしょうか

 例えば、マイボールスクラムをボール確保すると言う意味ではほぼほぼ出してるんですよね。100パーセントに近いと思います。ラインアウトは8割ぐらいですかね。

――おしゃった通り、スクラムは92パーセント、ラインアウトは83パーセントとの獲得率でした、これに関してはいかがでしょうか

 おそらく早慶戦以降、大事な試合ではスクラムに関して100パーセント出てると思います。ちょっと前半で帝京戦とか、後半戦に至るまでに不安定な面があったと思います。スクラムに関してはシーズン深まって、改善されたかなと。ラインアウトについては組み立ての問題とかがあったので、ここはもう一工夫必要かと思いますね。具体的に言うと明治さんあたりに対してはかなりプレッシャーをかけられたなというところはあるので。そこは持ち駒がそんなに、急に背が伸びるわけではないので、色々工夫していかなければなと思います。

――セットプレーのキーマンはいますか

 スクラム、ラインアウトという意味では森島(フッカー森島大智、教4=東京・早実)あたりに頑張ってもらわないと。森島に限らずフロントローですかね。そこの底上げが必要かなと思いますね。キャリア的に言って森島が伸びてもらわないと、4年生としても、意地を出して頑張ってもらいたいなと思ってますけどね。

――昨年度と比べてラグビーの面で変更した部分はありますか

 多少変える部分はあると思いますけど、基本的には就任して「現代ラグビーとはゲインラインの攻防だよ」という話はしたので、そういう当たり前のところはぶれることないように、変えずにいきたいですね。ディフェンスについては更に進化させたいと思っていますし、アタックも去年状況判断を大事にというところで「空いてるスペースを狙う」というところでやってはいました。まだ、その判断が本当に正しかったのか。準備ができていたのかという部分はまだまだ上げていかないといけないので、ベースはそんなに変わらないと思いますね。アタックに関して去年は『Moving』というスローガンの下、フィールド上で動き続けるというところで、その他にも色々とあったと思いますが。常に動き続けるとかは、スローガンではなくなるとは思いますが、せっかく去年意識できたのだから、我々のスタンダードとして磨く、高めていこう。そういう風にしたいと思ってますね。

――昨年意識できたことを「ベース」としていくというかたちでしょうか

 アタックに関してはもう少し一工夫していきたいなと思います。ディフェンスに関してはある程度で学生もタフな試合をディフェンスで勝つという、ディフェンスの我慢のし合いところ。最後の試合は明治にはディフェンスでやられた部分があるのでディフェンスの部分選手の意識が高まっている部分もありますし、前に出るという意識はだいぶ出てきてるので、さらに(進化・深下)させていければいいなと思います。

――現在どのような練習をしていますか

 齋藤(SH齋藤直人主将、スポ4=神奈川・桐蔭学園)の体制が発表されて2月の中旬から4月上旬までの8週間はS&Cの部分をフォーカスしていくというところで、前の年は、英国遠征があったために、ラグビーの準備をしました。動き続けるラグビーをしていく中ではフィットネスの部分を含めて取り組んでいるというかたちですかね。

――1年間のチーム作りのプランは決まっていますか

 そこからはもう基本的には4月の下旬から試合が始まっていき、ラグビーの準備をしていきます。一気にチームを作るというわけではなくて、色々なメンバーを試しながらやっていきたいなと思います。こちらが「これをしたい」と思えないほど毎週ゲームが入ったしまっているので。そこは去年もそうでしたけど、テーマを持って勝敗にフォーカスをしていかなければいけないのですが、それ以上に毎週、毎週課題、テーマを持ってそこができたかどうか。そこをしっかりやっていきたいです。これはもう去年も考え方変わっていませんけど一つ一つチェックして一歩一歩。そこは一足飛びにいかないし、本当に戦わなければいけないのは秋なので。そういう考えでいきたいなと思いますね。

「国際交流」

――9月に行われることが決まったWURITという大会はどのような大会でしょうか

 色んな外国人と試合をする中で、経験を積むということも一つ大きいですし、色んな国から来るので、ラグビーを通じての国際交流。早大じゃないとできない交流だと思うので。早大がホストなので、そういう来てくれた人たちに対するホスピタリティだとか、メンバー外も多く、そのイベントに多く関わります。こういう経験とかは中々できないので、それはちゃんと意味を持たしてやりたいなと思ってますね。

――この大会の主催する団体はどこでしょうか

 基本的には早大ラグビー蹴球部です。

――学生主体で運営することはありますか

 いえ、学生主体でというのはなかなか難しいと思います。今ワークグループみたいなものを学生の中で何人か選ばれたメンバーで準備委員会じゃないけど、やっているはずなので。僕はどこまでやっているのか分かりませんが、学生も関わるかたちでは準備を進めていきます。後は来る大学にSNSとかを使って、事前に色々交流する、そういう企画もあるみたいです。来る前にSNSとかでつながっておけば、来た時に「あ、お前か」みたいな交流ができると思います。そういうことが狙いですかね。期間も短いし、試合をする時間もそんなにない中で、そういったかたちでつながることができるので。そういうことを学生の何人かが関わって、やろうかという話はしてるんじゃないかと思います。

――どういったイベントが用意されていますか

オックスフォード大とは40分ずつの試合ではないと思いますが、我々のOBでもあるイラクで殉職された奥大使(奥克彦氏)という方がいらっしゃるのですが、奥メモリアル杯と言ってオックスフォード大に留学されて、チームの一員としてプレーされた方。奥さんを偲んでということで、奥メモリアル杯というのを毎年やっています。その奥メモリアル杯を早大とオックスフォード大の試合にするという話を今回しています。

新体制について

――春シーズンはどのようにチーム作りを進めていきますか

春シーズンは、勝負も大事にしないといけないながらも一個一個テーマを持ってゴール逆算してやっていくというところだと思います。

――新体制についてお伺いしますが、昨年度からコーチ陣が大きく変わることになりますが、どのように捉えていますか

それぞれの道があるので。大峯(大峯功三元コーチ、平27スポ卒)は、福岡県の教員になりたいという中で、大学卒業してからずっと早大に関わって教員になるタイミングをうかがってたというところでそろそろ向こうで非常勤をやりながらそういう道にというタイミングでした。古庄(古庄史和、平15教卒)は山下(山下大悟前監督、平15人卒)の時にスカウトされてプロのコーチとしてきて、去年僕に代わっても手伝ってくれないかということを頼み、1年やってもらいました。次にステップアップできる道があったので、そっちに行ったという。三井(三井大祐氏、平20教卒、現慶応BKヘッドコーチ)の場合は世間的に色々ありますが、プロのコーチとしてステップアップするための道に進んだということです。もちろんこっちは去年一緒にやってきたし、いいかたちでチームを成長させることができたスタッフだったので当然「一緒に」という思いはありました。三井の将来のビジョンに関してはタイミングなので。それに関してはそれぞれの人生を尊重したというところですね。そういうことが、シーズン終わってから分かったのでちょっとバタバタして大変は大変でしたけど、そこは学生に影響を及ぼしたくないですね。

――新体制の学生の部分についてお伺いいたします。委員はどのように選出されたのでしょうか

学生から希望を受けて何人か、「こいつとそいつは要らないんじゃない」という話をしました。学生の推薦があって、僕の方に最後持ってきてというかたちで決まりました。

――主将はどのように選出されたのでしょうか

 僕の認識では卒業する4年生が卒業推薦して、同じ学年の間で話合いをした。結構この決め方については明確になってない部分が多いですね。僕が学生の時も1つ上の先輩に指名されて、当時の監督とかと話して決めたということだと思います。今年のプロセスとしては基本的には学年で話し合いをして、この体制でいきたいという決め方だったみたいですね。

――日本代表に選出されて、チームから離れる可能性ある中で主将に齋藤選手を選ばれました

 そういう機会があれば、是非出てもらいたいと思ってます。我らがキャプテンがW杯に出るということは、いない痛手はあるものの、部としては誇りだと思いますね。いい影響があると思います。誇らしいことだと思いますよ。

――メンバーが選出されたことによってチーム作りが遅れるかもしれないことについてどのように捉えてますか

 基本的には代表に選ばれることに関しては違う環境でプレーできるので、いつも早稲田でやるよりもいいコーチングとかは別にして、色んな大学の選手とプレーして気づきもあると思います。経験はマイナスにはならないと思っているので、むしろ外で経験することは大事だと思いますし、正代表、世代別代表でもそこに選んでもらえたということは名誉なことだと思います。本人が行きたいと言うなら行かせてあげるつもりですね。

――反対するようなことはどういった場合でしょうか

コンディションが悪い時とかですかね。けがの不安があるのに無理して行かせることはしないです。そういうところは冷静に判断して送り出したいなと思っていますね。それはやっぱり本人にもチームにもプラスにならないので。

――チームの構想は

何があるか分からないので、まだ(メンバーを)固定しても仕方ないと思います。組み合わせだとかを見るのが春シーズンだと思ってます。

――各学年ごとに期待を寄せている選手はどなたでしょうか

4年は森島です。3年生は星谷(ロック星谷俊輔、スポ3=東京・国学院久我山)ですね。伸びてもらわないと困ります。2年生はいっぱいいますが、フッカーに転向した原(フッカー原朋輝、スポ2=神奈川・桐蔭学園)です。色々と頑張っているので。

――メンバー選考で大事にしていることはありますか

最後まで戦えるやつ。勝負を諦めない。そういうメンタルタフネスを持った選手ですかね。あとは、規律を守れる。そこが大事かなと思います。


淡々と質問に答える相良監督

――対抗戦の日程ついてどのように捉えていますか

かなり変則日程になるということを聞いています。ですが、どこも条件は一緒なので、変則になったところをスケジュールを上手く使いたいです。おそらくタフなシーズンになると思いますが、そこに戦える準備をしていかないといけないと思うので。

――昨季を通して、日本一をつかむために必要なことはどういった点でしょうか

去年(大学選手権の)準決勝までいったことで、シーズンの緊張感だとか、長さだとか、そういった部分を実体験したということは大きいと思います。明治が昨年度優勝したのも、一つには経験の差があったと思います。トーナメントなので、負けたら終わり。そういう中で、勝たないといけない。しんどくてもやらないといけない。緊張があってもしっかりと力を発揮しないといけない。そういう経験をしてたか、してないかという違いはすごく大きかったと思うので。あのステージまでいって本当の悔しさを味わった。それぞれに足りなかった部分が、振り返ると色々とあると思いますが、学生が普段の練習から消化していかに返していけるかということですね。一言でポイントがありますという訳ではなくて、それを日々の練習の中で、「届かなかったことが何なのか」と思って練習するかしないか、そこがすごく大事なことだと思いますね。

――今季の意気込みをお願いします

去年は超える。それが大きな目標です。当然大学日本一が目標ですが、とにかく去年のあの舞台を超えないと(日本一を)つかめないので。一日一日をしっかりと積み重ねていきたいなと思います。いきなり最後にはいけないので、積み重ねが大事だと思いますね。謙虚になって一個一個成長できるようにやっていきたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 小田真史)


目標はもちろん『荒ぶる』です!

◆相良南海夫(さがら・なみお)

1969(昭44)年8月14日生まれ。東京・早大学院高出身。平成4年政治経済学部卒業。昨年は監督就任1年目ながらチームを8年ぶりの関東大学対抗戦優勝、5年ぶりに大学選手権準決勝まで導いた相良監督。色紙には力強く悲願である「荒ぶる」の3文字を書いてくださいました!監督として、2年目のシーズン。チームをどのように導いてくれるのでしょうか。