第8戦・フランスGPにホンダはスペック3パワーユニットを投入することを決めた。これによって、出力でメルセデスAMGやフェラーリに追いつくものではないが、トータルパッケージとしてレッドブル・ホンダが彼らに大きく追いつく可能性はある。 パ…

 第8戦・フランスGPにホンダはスペック3パワーユニットを投入することを決めた。これによって、出力でメルセデスAMGやフェラーリに追いつくものではないが、トータルパッケージとしてレッドブル・ホンダが彼らに大きく追いつく可能性はある。

 パワーユニットに関して言えば、ターボチャージャーにホンダジェットの技術が投入され、ターボ効率の向上が図られているのが目玉だ。



アップデートしてフランスGPに挑むレッドブル・ホンダ

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう説明する。

「F1のパフォーマンスを上げるために、前々からオールホンダで技術研究所のさまざまな技術を投入しようとトライしてきましたが、そのなかのひとつ大きな成果として、ターボチャージャー部分に航空機エンジン開発部門(ホンダジェット部門)の技術を入れて、効率アップを図ることができました。IHIさんと共同で開発をして作ったターボのなかに、ホンダの技術を入れた形です」

 ICE(内燃機関エンジン)にも細かなタマを投入し、新型ターボに合わせて最適化している。これによって得られる効果は、最大出力という点では数kWに過ぎない。だが、ターボの効率が上がることで、そこに接続されたMGU-H(※)をより多く回して発電量を増やしたり、ICEに送り込む吸気の過給圧を高めることができるようになる。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

「パワーが何10kW上がるとか、そういうレベルではありませんが、ターボの効率が上がった分を分配することで、ターボだけでなくMGU-HもICEも生かせるようになる。そのバランスを取ることで、パワーユニット全体としての性能向上を果たしています」

 これは、予選でのピークパワーよりも決勝でのパフォーマンスの底上げにつながる。派手さはないが、決勝で戦ってコース上で抜けるクルマになることが期待できるというわけだ。

 レッドブルの2台に加えて、規定を超える今季4基目のICE投入でグリッド降格ペナルティを科されてしまうトロロッソも、2台のうちダニール・クビアトはペナルティを受けてでもスペック3の投入を選んだ。それだけ、スペック3に対する期待値が高いと言える。

 さらに、レッドブルはこのポール・リカールに車体のアップデートも多数持ち込んできている。

 木曜の時点ではまだそのほとんどをピットガレージの奥に隠し、ライバルたちに見せないようにしていたが、これまで抱えてきた空力的な不安定さとグリップ不足の改善が大きく進むと期待される。

 しかし、今季型マシンが抱えた問題を一度のアップデートで完全に解決するのは難しいだろうと、マックス・フェルスタッペンは語る。

「今年からフロントウイングがシンプルになって、それまでフロント回りの気流をうまく制御できていた僕らは、その強みを少し失うことになった。新型フロントウイングによる気流をうまく最適化できていない。それをファインチューニングして解決するには、もう少し時間がかかるよ」

 ただ、マシンの設計コンセプトに関わるような「根本的な不具合を抱えているわけではない」とも、フェルスタッペンは言い続けている。

「マシンの基礎的な部分に何か問題があるとかではなく、ただ単純にもっとグリップがほしい。グリップがあれば、もっと速いスピードでコーナーに飛び込んでいくことができるから。去年の僕らのクルマがまさにそうだったように、グリップがあればタイヤにも優しくなるしね」

 グリップレベルがもっと上がれば、予選で速く走ることができ、決勝でもタイヤをいたわることができる。必要以上にリアウイングを立ててリアの安定性を確保する必要はなくなり、パワーでやや後れを取っていても、ストレートスピードをライバルと同様のレベルまで伸ばすことができる。

 前戦のカナダGPではパワー負けしたが、中高速のシケインでは挙動を安定させるために、リアウイングを立てなければならなかった。それが、ストレート後半での最高速の伸びを削ぐことになった。空力性能が改善されてグリップが上がれば、それも一気に改善する。田辺テクニカルディレクターがいつも言う「トータルパッケージとしての進歩」というのは、そういうところだ。

 ポール・リカールは長いストレートを中高速コーナーや低速コーナーでつないだ、バラエティ豊かなレイアウトだ。カナダほどではないにせよ、レッドブル・ホンダ向きのサーキットとは言えない。そこで、どれだけトータルパッケージとしての性能を上げることができるか。

「アップグレードが入るのはいいことだけど、これによって突然トップに立てるなんてことは考えていない。でも、どんな小さなステップでも手にすることができるなら、僕らは手にしたい。カナダGPは最高の形とは言えなかったけど、それでも楽に5位は獲れるポジションだった。だけど、僕らが求めているのはもっと上だ」

 フェルスタッペンは今週末、いきなりトップに立つことは期待していない。それは、彼らが本当にトップを目指しているからこそ、そこに至るまでの現実的な道筋を描いているからだ。どうやらレッドブルはシーズン後半戦に向けて、車体性能を向上させてトップに追いつく目処を立てつつあるようだ。

 ここから7週間で5戦を戦い、夏休みまではあっと言う間に過ぎ去っていく。その幕開けとなるフランスGPに満を持して投入した車体とパワーユニット両面のアップデートで、レッドブル・ホンダRB15がどこまで進化できるのか。それは、シーズン後半戦の行方すらも握る重要なカギとなりそうだ。