昨年の”フレッシュオールスター”は、青森の弘前で行なわれた。みちのくの静かな城下町は、岩手…

 昨年の”フレッシュオールスター”は、青森の弘前で行なわれた。みちのくの静かな城下町は、岩手の盛岡からバスで入った。弘前の家並みが見える手前あたりは、右も左も一面のりんご畑だった。

 この町で外崎修汰(西武)が高校野球の3年間を過ごしたのか……と思っていたら、野球部のバッグを荷台にくくりつけて疾走していく自転車の高校球児を見つけた。その彼が本当に外崎に見えてくるから不思議なものだ。

 フレッシュオールスターの舞台は”はるか夢球場”という立派なスタジアムで、そこにウエスタンリーグ、イースタンリーグそれぞれ21人の期待の若手が集結した。

 ラジオ放送の解説をさせていただくことになり、試合前も報道陣のひとりとして選手のウォーミングアップを眺めていた。



昨年まで0勝だったが、今季すでに4勝をマークしているロッテ・種市篤暉

 ルーキーの清宮幸太郎(日本ハム)、村上宗隆(ヤクルト)、安田尚憲(ロッテ)、中村奨成(広島)、清水達也(中日)と”甲子園のスター”たちがズラリ揃い、本家のオールスターに負けない豪華な顔ぶれだった。

 外野の芝生で思い思いにストレッチをしている選手たちのなかに、こちらの顔をじーっと見ている選手がいて、「オレのこと!?」と自分の顔を指差したら、「ハイッ!」とばかりに立ち上がって駆け寄ってきてくれたのが、当時プロ2年目の種市篤暉(あつき/ロッテ)だった。

「安倍さんですよね。僕のこと覚えてくれていますか?」

「覚えているに決まってるじゃないか。少しは話す時間があるかなと思って、楽しみにしてきたんだ。今日、投げるよね?」

「はい、先発なんです」

 うれしそうに笑った顔が輝いて見えた。

「全然緊張してないな。やっぱり……」

 堂々とした姿を見て、安心した。

 種市と初めて会ったのは、彼が八戸工大一高の3年秋。ある雑誌の”ドラフト隠し玉探訪”という企画で、その年の夏の投げっぷりに惹かれて、ぜひ種市を取り上げたいということで学校に訪れた。

 もう現役を上がって何カ月が経っていたので、前もって長谷川菊雄監督に種市の様子を聞いておいた。

「県大会で負けた翌日から、1日も欠かさず練習に出てきていますよ。現役の選手たちよりも練習しているぐらいですから」

 その話を聞いて、「東北人らしくないな……」と思った。

 私自身、東北人だからわかるのだ。新チームになっても、毎日練習に出てくる。これはまさしく”東北人”である。しかし、現役より練習している……これは”東北人”じゃない。

 センバツを目指して練習に励む下級生に遠慮して手伝いにまわるのが、良くも悪くも、東北人の奥ゆかしさというものだ。もしかして、ほかの土地からはるばるやって来たのかと思って聞いたら、生まれも育ちも青森・下北だという。

 グラウンドを見たら、種市が新チームのエースを横にしたがえ、ブルペンの真ん中で気持ちよく腕を振っていた。とにかくフォームが見事だった。長身からビュンと投げ下ろして、フィニッシュで体がばらつかない。

 種市の投げる真うしろから見せてもらったが、ストレートの角度がすばらしかった。とくに、右打者のアウトコース低めに決まるボールは、すでにプロの球だった。

「次、フォーク」と球種を変えようとしたから、思わずおせっかいで言ってしまった。

「ダメダメ! いいボールがいったら、それを何球も続けて、リリースの感覚とか、球筋を覚えちゃうんだよ」

 アドバイスをしっかり受け取ってくれたようで、「よし、ストレート!」と気合いを入れ直した表情でこっちを見て、種市が投球を続けた。驚いたのは、そこから8球続けて外角低めに投げ込んだことだ。

「このピッチャーただものではないな……」と思っていたら、その矢先、今度はフォークに度肝を抜かれた。ただ落ちるだけじゃなく、構えたミットに決められる。高校生でフォークをこんなに操れるピッチャーを見たのは初めてだった。

 ストレートもフォークも一級品。これだけのものがあれば、プロでも大丈夫と言いたいところだったが、不安がないわけではなかった。そのことを長谷川監督にぶつけてみた。

「投げることに関しては何も心配していないんですけどね。ただ、青森の子はどうも引っ込み思案っていうのか、そこのところだけが気になって……」

 そう言うと、長谷川監督が間髪入れずにこう返してきた。

「まったく心配ないと思います。アイツはただの東北人じゃないですよ」

 その言葉に妙に合点がいったものだ。

 そして昨年のフレッシュオールスター。先発した種市は立ち上がりから150キロを連発。「ずいぶん練習したんだろうなぁ」とうれしかった。

 1番の福田周平(オリックス)、2番の熊谷敬宥(阪神)とふたりの左打者にストレートを合わされレフト前に運ばれたが、3番の川瀬晃(ソフトバンク)をどん詰まりのセカンドゴロ併殺打に仕留め、4番の西村凌(オリックス)は勝負球のフォークで三振。変な言い方だが、堂々とピンチを切り抜けてみせた。

 あれから1年が経とうとしている。すでにローテーション投手となり、6月13日の交流戦でのDeNAとの試合は、7回1失点の好投で今季4勝目を挙げた。筒香嘉智から3三振なんて、もう立派なエース級の投手である。切り札のフォークを意識させておいて、堂々のストレート勝負。やっぱり種市は”ただの東北人”ではない。