2019年のNBAファイナル第5戦、第6戦で起こったことは、末永く語り継がれていくに違いない。 3連覇を目指すゴールデンステイト・ウォリアーズが絶対有利と目されていた今年のファイナルだったが、蓋を開けてみれば意外な展開となった。開始からシ…

 2019年のNBAファイナル第5戦、第6戦で起こったことは、末永く語り継がれていくに違いない。

 3連覇を目指すゴールデンステイト・ウォリアーズが絶対有利と目されていた今年のファイナルだったが、蓋を開けてみれば意外な展開となった。開始からシリーズを押し気味に進めたのは、創設24年目にして初めてイースタン・カンファレンスを制したトロント・ラプターズ。カナダのチームとしても初めてファイナルに進んだラプターズは、大舞台でものびのびしたプレーで3勝1敗と王手をかけた。その後、窮地に立ったウォリアーズに追い打ちをかけるような不運が襲ったのである。

 右ふくらはぎのケガで1カ月ほど離脱していたケビン・デュラントが、現地時間6月10日に行なわれた第5戦で復帰するも、第2クォーター途中に再び右足を痛めて退場。2日後にはアキレス腱を断裂したことが明らかになり、手術を受けたデュラントの今シーズンは終わりを告げ、来シーズンにも暗雲が立ち込めた。

 エースをゲーム中に失う厳しい状況下で、敵地での第5戦を大逆転で制したウォリアーズの闘志と粘りは見事と言うしかない。ところが、アクシデントはこれで終わらなかった。

 6月13日の第6戦では、ステフィン・カリーとともにチームの屋台骨を背負ってきたクレイ・トンプソンが、第3クォーター途中に左膝を痛めて離脱。後に左膝前十字靭帯の断裂と発表された。盟友が倒れる絶望的な場面を目の当たりにし、試合中にコートに座り込んだカリーの姿がすべてを象徴しているようだった。




ケガ人が続出したウォリアーズを最後までけん引したカリー

「ケガをしてしまった選手たちのことを思うと、不憫でならない。ケガはNBAのシーズンには付き物で、いかなるプロフェッショナルスポーツでも起こること。しかし、酷い話だ。彼らが直面していることは酷い話でしかない」

 ウォリアーズのスティーブ・カーHCはそう述べたが、実際にファイナルの2試合連続でエース級の選手が重症を負うことなど前代未聞だろう。それでも最後まで死力を尽くしたウォリアーズだったが、より健康で、フレッシュで、層の厚いラプターズを相手に持ちこたえられるはずがなかった。

 第6戦も、最終クォーター残り18.5秒で110-111と1点差まで迫ったが、最後はウォリアーズ黄金期の象徴でもあったカリーのシュートが外れて万事休す。5年間で4度目の優勝を目指したウォリアーズの夢は潰えた。同時にそれは、現代の最強チームが築いた一時代が終わりを迎えた瞬間でもあったのかもしれない。

 ウォリアーズにとって今シーズンは、なかなかリズムに乗り切れない厳しいシーズンだった。

 デュラント、カリー、トンプソン、ドレイモンド・グリーンというスーパースターを擁したチームは、昨オフにオールスター通算4度出場のデマーカス・カズンズを獲得。空前絶後の”ビッグ5誕生”と騒がれた。しかし、全ポジションにオールスターを経験した選手を揃えたにも関わらず、シーズン勝率.695(57勝25敗)はこの5年間では最低だった。

 レギュラーシーズンを通じてケガ人が多発し、エースのカリーは13戦、守備の要のグリーンも16戦を欠場。この傾向はポストシーズンに入っても変わらず、プレーオフでも第1ラウンドでカズンズ、カンファレンス・ファイナルではデュラント、ファイナルでは貴重なビッグマンのケボン・ルーニーがそれぞれ新たに故障した。こういった流れを振り返っていくと、ファイナル第5戦、第6戦で起こったことはもう単なるアクシデントとは言い切れないように思えてくる。

 これだけケガ人を出しながら、群雄割拠のウェスタン・カンファレンスを制し、絶好調のラプターズを最後まで追い詰めた。デュラントの再離脱とトンプソンのケガがなければ、ウォリアーズは悲願の3連覇を達成できていたのだろうか。

 そう思うファンもいるだろうが、そういった考え方は適切だとは思わない。コンディション調整、維持もチーム力の一部。今シリーズに照準を合わせ、ファイナルの時点でより優れたチームだったのは、間違いなくラプターズだった。

 無敵に思えた王者は少しずつ崩れていった。カーHCは「疲労の蓄積が(故障者続出に)関係しているのかは、私にはわからない」と述べていたが、シーズン開幕前の時点でスター軍団の疲れを懸念する声が出ていたのも事実だ。5年連続で6月までプレーし、プレーオフだけでも合計105戦。数多くのバトルを乗り越えてきたウォリアーズは、確実に消耗していると感じられた。

 歴戦の疲れが何らかの形で出てくるのは必然。それらが最悪の形で、ファイナル第5戦、第6戦で露呈したということなのだろう。

「自分たちのDNA、チームの気持ちの部分などを考えると、来シーズンも、これから先も、この舞台に戻って来られないとは思わない。最後まで戦った自分たちを誇りに思うし、この5年間の歩みはすばらしかった。自分たちの時代はまだ終わっていない」

 試合後の会見時にカリーはそう述べ、”ウォリアーズ時代”の継続を宣言していた。しかし、王者の意地は確かに侮れないが、来シーズン以降に立て直していくのは容易な作業ではない。デュラント、トンプソンはFAになり、特にデュラントは移籍が有力視されてきた。再契約が濃厚なトンプソンも、全治までに8カ月以上かかるとみられていて、年内復帰は絶望的。だとすれば、ハイレベルなチームが揃うウェスタン・カンファレンスでの苦戦は必至だろう。

 デュラントとトンプソンの両方、あるいは、どちらかひとりでも再契約できれば、彼らが健康体に戻る2年後にはコンテンダー(チャンピオンに挑む挑戦者)に戻れる可能性がある。ただ、その2年でウォリアーズの主力メンバーが年齢を重ねることを忘れるべきではない。ピーク時の魅力的なチームプレーを取り戻せるかどうかは不透明だ。

「このチームのHCになれた私は幸運だった。選手たちにも、ロッカールームで同じことを伝えた。彼らと一緒にやれて、指導できる立場に就けたことへの感謝の気持ちは十分に伝えられない。彼らと日々を過ごし、競い合う姿を見られて、これ以上幸運なことはなかった」

 カーHCのそんな言葉に、多くのバスケットボールファンは納得するだろう。過去5年間、ウォリアーズは美しく、献身的で、独創的なバスケットボールを見せてくれた。デュラント加入後は悪役になったが、それでも常に”リーグ最大のショー”であり続けた。カーHCとウォリアーズのファンだけでなく、アンチでさえも、彼らのプレーをオンタイムで見られる時代に生まれたことは幸運だったに違いない。

 しかし、今も昔も盛者必衰の理は変わらない。どんな最強チームにも、いつか失墜のときが訪れる。今年のNBAファイナルで、故障に苦しみながら最後まで降伏を拒否した誇り高き姿は、現代のスーパーチームの最後の輝きになってしまうのか、それとも。