文=神高尚 写真=Getty Images

指揮官ニック・ナース、失敗を重ねた先の『王者』撃破

ウォリアーズにケガ人が続出したとはいえ、ラプターズは『プレーオフでの強さ』を存分に見せて初優勝を果たしました。MVPに輝いたカワイ・レナードの存在はその象徴で、レギュラーシーズンは負担管理のために22試合を欠場し、プレータイムも34分と制限されていたのが、プレーオフになると全24試合、平均39分の出場で30.5得点を稼ぎ出しました。

「クラッチタイムに弱い」と言われたラプターズが、フランチャイズプレイヤーのデマー・デローザンとのトレードで手に入れたエースは、その目論見通り『プレーオフでの強さ』を発揮しました。エースをトレードするという昨オフの決断は、大きな結果に繋がったのです。

レナードが大いに目立つ一方で、ラプターズが昨オフに下した『もう一つの大きな決断』も重要でした。ラプターズを毎シーズン成長させ、昨シーズンはシーズン最高勝率に導いてコーチ・オブ・ザ・イヤーを獲得したドゥエイン・ケーシーを解雇し、NBAでのヘッドコーチ経験がないニック・ナースを指名した決断です。これもまた『プレーオフでの強さ』に繋がりました。

昨シーズンのラプターズ最大の特徴は『ベンチメンバー5人の強さ』で、それは長いレギュラーシーズンでは大きな優位点になりましたが、短期決戦のプレーオフではそもそも『ベンチメンバー5人に任せる』という決断をしにくい一面がありました。対して、このプレーオフで常時起用されるベンチメンバーはフレッド・ヴァンフリートとサージ・イバカくらいで、他には状況に応じてノーマン・パウエルが出場する程度でした。

プレーオフ前にOG・アヌノビーが離脱するアクシデントも関係するとはいえ、ナースが選んだのは「限られたメンバーを柔軟に起用すること」でした。多くの選手を起用する形はスタミナ面でメリットをもたらすのに対し、連携面ではデメリットになります。

対戦相手の特徴や選手個々のマッチアップの相性に合わせていくプレーオフでは、ディフェンスを考えると状況に応じた柔軟な選手起用をしたく、またオフェンス面では相手の弱点を活用したくなります。そのためには「どんな選手の組み合わせでも連携が機能する」必要があります。ナースの選択は、状況に応じた細かな戦略性を重視するヘッドコーチならではの特徴です。

ウォリアーズはGAME6でゾーンディフェンスを使ってきました。このように、ラプターズ対策に加えてケガ人が続出したことで、ウォリアーズはディフェンス戦略を毎試合細かく変化させており、ラプターズも試合の中での対応が求められました。レナードとカイル・ラウリーを中心に置きながら、試合終盤に周囲を固めるメンバーはウォリアーズの出方に応じて、試合ごとに違う選手を起用しましたが、それでも連携が失われることはなく、試合ごとに異なる選手が多くの得点を奪いました。

ナースはシーズンを通してトライ&エラーを繰り返しながら、常に対戦相手に応じた柔軟な選手起用を行い、選手にも対応していくことを求めました。上手く行かずに負ける試合もあり、それは前任のケーシーの『自分たちの良さ』を追求することで勝利をもぎ取る姿勢とは異なるものでした。ナースの戦略性とそれ故に勝ちきれない試合はプレーオフに入ってからも続きましたが、ラウンドが進むごとに効果を発揮し始めました。

GAME6の残り37秒、1点リードの場面でタイムアウトを使ったナース。普通に考えればレナードに託す場面であり、シーズン中にはそんな選択も多かったのですが、この試合ではそれまでフィールドゴール成功率44%、19得点と止められていたレナードではなく、警戒の薄いラウリーとシアカムのピック&ロールを選択し、見事に成功させました。

GAME5でも逆転を狙った最後のシュートは、ドライブを仕掛けようとするレナードにディフェンスを集めてからラウリーに打たせており、レナードへ最大限の警戒をするウォリアーズの戦略を逆手に取る選択でした。シクサーズとのGAME7で劇的なブザービーターを決めたレナードのクラッチタイムでの強さは突出していましたが、以降はむしろ重要な局面でレナードを囮に使うことが増えていきました。

ドゥエイン・ケーシーとニック・ナース。どちらがヘッドコーチとして優秀なのかではなく、これまでのラプターズが繰り返してきたプレーオフの敗戦から『プレーオフでの強さ』を発揮するための戦略を持つとして指名されたのがナースでした。

細かい戦略と連携、エースのレナードに頼っているようで囮にも使うしたたかさ。それは時に失敗も交えながら、優勝が懸かったファイナルの重要な局面でも自分が考える戦略性を優先したナースの『プレーオフでの強さ』がもたらした初優勝でもありました。