文=丸山素行 写真=鈴木栄一

アメリカの高い壁「最初は地獄のようでした」

6月13日から23日までの11日間、バスケットボール男子日本代表は若手中心の20選手を招集して『第1次育成キャンプ』を行っている。史上最年少となる中学3年生で日本代表候補に選出され、今はアメリカのIMGアカデミーに所属する田中力の姿もそこにはあった。

187cmの田中は卓越したドリブルスキルとシュート力を持ち、スピードやジャンプ力といった身体能力も高い。日本で田中に敵う同年代のガードはいなかったが、アメリカは違った。「最初は練習でも全然得点できませんでした。練習で何もできなくて、帰ってきて勉強も全然できず。毎日その繰り返しだったので、最初は地獄のようでした」

それもそのはず。田中が通うIMGアカデミーは世界最高峰のスポーツエリート養成機関として知られ、NBA選手も数多く輩出している。さらにチームメートには『五つ星』と評価される、全米トップクラスの評価を受ける選手がたくさんいるのだ。

「説明できない巧さです。ちょっとしたフェイクにもブレないし、空いてると思って打ったら、すぐブロックされます。最初は何をすればいいか分からなかったです」

だが、それは田中が自ら望んで飛び込んだ環境だ。「チームメートだから、すごいと言っちゃいけない」とライバル視し、必死に練習に励んだ。2カ月ほどすると環境にも慣れ、試合に出場する機会も増えていったそうだ。

「メンタルの問題はほぼなくなった」

バスケが大好きで、常に屈託のない笑顔を見せる田中だが、意外にも渡米前はネガティブ思考の持ち主だった。それでも、アメリカで揉まれたことで「メンタルの問題はほぼなくなった」と精神面の成長を挙げた。

「全然点が取れなかったり、コーチに怒られたりしていましたが、そのままだったらただのヘタレなので。怒られてもいいからバスケを楽しんでやっていきたいと考え方を変えて、悪いことをしても次があるから大丈夫って考えになりました」

成長したのは精神面だけではない。日本ではスコアラーとしてガンガン突っ込んでいくプレースタイルだったが、チームから求められたこともあり、プレーメイクの技術に磨きをかけた。

「前まではアホみたいにただ突っ込んでシュートしてましたが、今は考えながらスペースを見たり、周りを見てプレーしています。緩急をつけたり、シュートを我慢してパスをしたり、ガードとして良い判断ができるようになりました」

「最初はシックスマンだったんですけど、出なかったりスタートで出たり」と、現在のチームでの立ち位置は定まっていないという。そのため、「嫌われたり、好かれたり。本当に自分でも分からないです(笑)」と苦笑いを浮かべるが、「アメリカでどれだけ自分をアピールできるかが目標」と、常に上を目指している。

「日本代表に入りたくないという人はいない」

『第1次育成キャンプ』という名称の通り、このキャンプは若手の成長を目的としている。それでも、「こういった世代から少しでも上に上がれるように、新しい選手を発見したい」と、指揮を執るエルマン・マンドーレが言うように、このキャンプはA代表へと繋がる選考レースの側面も持っている。

「この合宿がAに一番近いので、そこで自分のプレーを出して、どれだけ活躍できるかが楽しみです」と、田中もその意味を理解している。

そして、田中はA代表への強い思いを語った。「日本代表に入りたくないという人はいないと思います。ここに呼ばれたいと思っている人もいるので、その人たちの気持ちを忘れずに。コンビニに行くときも、日本代表のプライドを持たなきゃいけないと思う」

アメリカで己を磨く田中は、順調な成長曲線を描いている。田中がA代表に名を連ねるのも、そう遠くないはずだ。