12日の阪神戦で、球団を通じて脊髄内腫瘍を患う16歳の浅井陽翔くんを招待  6月12日、ソフトバンク対阪神戦を控えたヤフオクドームのグラウンド。試合に備えて汗を流すソフトバンクナインの脇、練習見学エリアにホークスOBで“平成唯一”の三冠王と…

12日の阪神戦で、球団を通じて脊髄内腫瘍を患う16歳の浅井陽翔くんを招待

 6月12日、ソフトバンク対阪神戦を控えたヤフオクドームのグラウンド。試合に備えて汗を流すソフトバンクナインの脇、練習見学エリアにホークスOBで“平成唯一”の三冠王となった松中信彦氏の姿があった。

 その脇には移動式のベッドに身を預けながら、1人の青年が試合前の練習を見つめていた。浅井陽翔(はると)さん、16歳。脊髄内腫瘍を患い、闘病中の青年だった。今回、松中氏が球団を通じて依頼し、グラウンドでの練習見学が実現した。

 千賀滉大や甲斐拓也、アルフレド・デスパイネなどチームの中心選手たちが、練習中、そして練習を終えると、松中氏の呼びかけに応えて次々に陽翔くんの元に歩み寄る。記念写真を撮り、サイン色紙にペンを走らせ、そして激励の言葉をかけていった。

 松中氏は語る。

「自分の次男も難病を抱えていたこともあって、現役時代から難病を抱えた子供や、小児がんの子供に対しての色々な支援活動をしていたんです。スーパーボックスの部屋を1室借りて、普通の座席にはなかなか来られないような子供を招待していました。陽翔くんが大のホークスファンだということで。いま病気と戦っていて、なかなか元気がなくて落ち込んでいると。でも、ホークスのことになると元気になるので、なんとか球場に行けないかという話を当時の繋がりでもらいまして、今回、グラウンドに招待することが出来ました」

 松中氏自身も「ネフローゼ症候群」という難病と戦う息子を持つ父親。病と戦う子供の辛さや大変さ、そして、それを支える両親や家族の大変さを身をもって感じている。現役時代はドームのスーパーボックスを1室、シーズンを通して借り、そうした難病と戦う子供たち、小児がんと闘病している子供たちとその家族を招待し、少しでも元気付けられるようにと支援活動を行っていたという。

松中氏自身も難病「ネフローゼ症候群」の息子を持つ父親

 引退後は、現役時代と同じような活動を続けるのは難しくなった。それでも、今でも小児がんの子供たちを慰問したり、そういった子供にプレゼントを贈ったり、演奏会に脚を運んだりと、地道に活動を続けているという。

「支援したいし、なんとか治ってほしいという気持ちもあるし、少しでも元気付けられたらなという思いもある。工藤監督もオフに病院に行かれている。自分の中でも子供が難病になって、初めて親の大変さも分かるし。親の負担はすごいし、一生懸命介護している。そういった親御さんにも、こうやってきて、子供と一緒に写真を撮って、少しでも元気になってもらいたいんです」

 昨年10月、突如として脊髄内腫瘍を患った陽翔くん。ホークスの選手が歩み寄る度に表情を崩し、そして、家族も嬉しそうにその時間を噛み締めていた。この様子をみた松中氏も「練習中に選手たちには本当に申し訳なく思いましたけど、選手たちが協力してくれて、選手が来た時の陽翔くんの顔を見ると、やっぱり良かったなと思いましたね」と語った。

「僕は息子が難病でなかなか人と接することができない状況だった。そういう子供達は結構多くて、なんとかしたいという思いで支援していました。ただ現役を退いてからは、なかなか現役のようには出来なくて。でも、そういう声は凄く聞くんです。『行きたいけど、行けないんです』と。そういう子供たちに対して、現役の選手たち、今日陽翔くんと接してくれた選手たちが、ひと肌脱いで何か支援をやってもらえたらな、と思います。球団にもスーパーボックスを1部屋提供してくれるようなことがあれば有難いなと思いながら、いまも活動しています」

 平成唯一の3冠王、松中信彦。ホークスに、そして球界に、より一層、こうした病児支援の輪が広がることを願っていた。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)