なでしこジャパンにとって2大会ぶりの頂点を目指すFIFA女子ワールドカップが、アルゼンチンとの対戦で幕を開けた。初戦、何としても手にしたかった勝ち点3は痛恨のスコアレスドロー。終了のホイッスルが鳴った瞬間、両極端な光景が広がった。アル…

 なでしこジャパンにとって2大会ぶりの頂点を目指すFIFA女子ワールドカップが、アルゼンチンとの対戦で幕を開けた。初戦、何としても手にしたかった勝ち点3は痛恨のスコアレスドロー。終了のホイッスルが鳴った瞬間、両極端な光景が広がった。アルゼンチンの選手たちは勝利を手にしたかのように歓喜し、一方のなでしこたちは肩を落とす。



後半に入って出場した岩渕真奈だが、思うようなプレーはできなかった

 これほどまでにゴールは遠いのか――。主導権は完全に日本が握っていた。立ち上がりから右サイドを清水梨紗(日テレ・ベレーザ)が駆け上がり、何度も揺さぶりをかけた。左サイドも鮫島彩(INAC神戸)が効果的に攻撃に参加する。前半は両チームに硬さがあり、アルゼンチンの守備にもズレが生じやすかった。その時間帯に日本がゴールを奪えれば、あとの流れは違っていたかもしれない。

 しかし、アルゼンチンは緊張がほぐれてきてからも、ボックス内の守備をさらにガチガチに固めた。日本がバイタルエリアに侵入しようとすれば、最終ラインが一気に距離を詰めてくる。トップに入った菅澤優衣香(浦和レッズレディース)も、これだけ囲まれてしまうとキープが難しい。ボランチの三浦成美(日テレ・ベレーザ)もミドルシュートを狙うが、枠を捉えきれない。それだけアルゼンチンのプレスは速かった。

 日本はボールを回して何度も組み立て直したが、あくまでも”外堀”での動きであり、”本丸”を守る相手の守備ブロックは左右にスライドする程度で対応できてしまっていた。引いている相手の守備陣をロングボールでは崩せない。日本は相手DFを何とかボールに食いつかせようと揺さぶりをかけるも、その手には乗らないと持ち場を離れずに、組織的な守備を粘り強く続けるアルゼンチン。結局、なでしこは突破口を見つけることができないまま90分が過ぎてしまった。

 たしかに”ドン引き”していたアルゼンチンだったが、それも想定としていたのは途中交代で入った岩渕真奈(INAC神戸)だ。前日の練習後には「引いてきた相手をどう崩していくのかが大事になってくる」と語っていた。ケガ明け間もない岩渕も、ノーゴールに終わったことに悔しさを滲ませた。

「情けない。もっと個々が自信を持って相手をはがせればボールは回ったと思う」

 もちろん、一瞬一瞬に穴を見つけて、いかに攻め切るかがチーム全体でイメージできていなかったという問題が大前提にある。

 停滞しそうな雰囲気が芽生えたのは前半15分ごろ。アルゼンチンの守備陣は、日本の最終ラインや下がり気味の杉田妃和(ひな/INAC神戸)、三浦がボールを持ったとき以外は、フリーでのパスはほぼ出させていない。確実にボールホルダーの足元へ、すべてにプレスがかかっていた。

 アルゼンチン守備陣の足がよく伸びてきていたことで、長谷川唯(日テレ・ベレーザ)や菅澤、横山久美(AC長野パルセイロレディース)らは、いつものタイミングで仕掛けても相手の守備の網に引っかかっていた。引っかかれば、すぐに少なくとも2人は寄せてくるため、あっという間に囲まれてしまう。日本はペナルティエリア付近での縦パスを封じられてしまっていた。

 守備ブロックを崩すのが困難な展開に陥ったもうひとつ原因は、ファーストタッチの悪さだろう。それは、出し手に迫るアルゼンチンのプレスの影響があることは明らかだが、精度を上げるためにマークをもっとうまく剥がす必要があった。

 1秒でも早く、ゆとりを持って正確にボールを出すことができれば、必ず前線の足元にピタリとおさまるはずだった。また、受け手のコントロールにも焦りが見えていた。いつもなら収まるタイミングでも、この日はボールひとつ分パスがズレれてしまい、ブロックされてしまった。25分の菅澤のトラップや、その流れからフィニッシュに至った三浦のボールの置き位置にもそれが現れていた。

 絶妙なコントロールで好機が生まれたのは50分。長谷川からのパスを受けた横山は、もっとも体に近い位置にボールを置いてターン、そこからミドルシュートを狙った。GKが弾いたところを菅澤が詰める。ゴールにはならなかったが、ファーストタッチでボールが収まれば、得点に近づくことを証明した。アルゼンチンの守備網を破れなかった要因は、日本攻撃陣のフィニッシュに持ち込むまでの最後の精度だったと言える。

 アルゼンチンは攻撃をカウンターのみに絞り、残る力のすべてをゴール前での守備に注ぎ込んでいた。日本はそれを最後まで崩すことができなかった。この試合を簡潔にまとめると、そうなる。ただそこには、3度目のワールドカップで初の勝ち点を得ようと、戦術を明快かつ強固なものにしてそれを最後まで貫いたアルゼンチンの執念と大健闘があり、日本の多彩なパスを駆使した攻撃力は、それを上回ることができなかったということだ。

 アルゼンチンのカウンターを危なげなく処理していた日本の最終ラインは、安定感を増してきているが、初戦を分けたことで、決勝トーナメント進出に向けて残り2戦は厳しい戦いになる。

 次のスコットランド戦は、攻撃的に出ることで守備面のリスクもあるが、そこは十分に対策を練ってきた。アルゼンチン戦より攻守の切り替えがスムーズにできれば、攻撃陣もよさを出しやすいはず。気持ちを切り替え、勝利を掴むしかない。