東海大・駅伝戦記 第54回

 日本学生個人選手権大会、5000m2組は壮絶なラストスパートの掛け合いになった。ラスト1周までローレンス・グレ(札幌学院大2年)が先頭を走り、一時は後続に20mほど差をつけて独走。トップのままフィニッシュするレース展開だと思われたが、ラスト250mぐらいで失速。そこから名取燎太(東海大3年)がギアを一段上げてスパートし、トップに躍り出た。



秋の3大駅伝に向けてアピールを続ける東海大3年の名取燎太

 しかし、昨年のこの大会の優勝者で、2組でトップのタイム(13分45秒65)を持つ石井優樹(関西学院大4年)が猛烈に追い上げ、残り100mでかわされる。名取は必死で粘るも、最後は中村友哉(青山学院大4年)にも抜かれ3位(14分06秒92)に終わった。

蒸し暑さのなか、大粒の汗が流れる。

「いやー、悔しいですね。最後、止まってしまいました」

 名取はほとんど表情を変えずにそう言った。

「第2集団でついていって、ラストこのまま前に出て、あわよくば……と思ったんですけど、ラスト100mがきつくて。でも、タイム的にはまずまずでしたし、走れているので調子は悪くないと思います」

 その言葉どおり、今シーズンの名取はコンスタントに結果を残している。3月の学生ハーフでは1時間03分31秒(27位)で自己ベストを更新すると、優勝した4月14日の焼津みなとマラソンでは1時間03分04秒と、また自己ベストを更新した。

 5月の関東インカレのハーフでは、東海大では3位の西田壮志(3年)に次いで5位入賞を果たした。30度近い暑さにもかかわらず、留学生を相手にレースを展開。その時、名取は次のように語っていた。

「留学生に最後、差を広げられてしまった。仙台ハーフを走らず、このレースをメインにやってきたのでもう少し結果を残したかった。調子自体は悪くなくて、昨年よりも走れているので3位以内に入りたかったんですけど……」

 名取は入学時から大きな期待を受けていた選手だった。両角速(もろずみ・はやし)監督から「駅伝に強いタイプ」と言われ、名取自身も「トラックよりもロードで勝負したい」と語っており、駅伝シーズンに意欲を燃やしていた。

 だが、常にケガがつきまとった。

 佐久長聖高校(長野)から入学前の3月に入寮して、すぐに疲労骨折。復帰するのに約3カ月を要した。それが影響し、1年時は同期の塩沢稀夕(きせき)が全日本大学駅伝を走ったが、名取は3大駅伝を走るチャンスすら得られなかった。

 2年時も大会に向けて調整しようとすると、無理して故障という悪循環を繰り返し、秋からはチーム練習から離れて両角監督からもらった個人練習メニューを消化する日々が続いた。

「悔しい思いをしていますし、だいぶ時間を棒に振ってきているので、慎重にやらざるを得なかったんです」(名取)

 練習はタイムを重視するというよりも、距離重視でペースを上げず、30キロほどの距離を1キロ5分ぐらいでゆっくりと走り、走れる足の下地づくりに励んできた。

 その成果が今シーズンようやく結果として表れるようになった。本人は悔しさをにじませたが、関東インカレでのハーフ5位は、今季好調の西田とともに最後まで粘って走るなど、地道な練習の成果が出た。

 ただその時点では、完全復帰の目安となるチーム練習に合流していなかった。一緒に練習することも多くなったが、調整は別メニューで進めていた。

 関東インカレが終わったあとは少し休養し、6月に入ってからポイント練習を2回やって、個人学生選手権に向けて調整してきた。朝練習の集団ジョグには完全合流し、チーム練習にもほぼ出られるようになった。

「ここまで順調にこられているのは、別メニューでの調整というのも大きいですが、やはり故障なく継続して練習できているからだと思います。ようやくみんなと一緒に練習できるようになってきたので、このまま故障なく夏合宿を乗り越えて、秋は駅伝のメンバーに絡んでいきたいですね。これまでまったく走れていないので……」

 名取は、西田、塩澤と並んで3年生”3本柱”のひとり。ロングに強かった湊谷春紀、湯澤舜が卒業し、その穴を埋める選手として松尾淳之介(4年)とともに両角監督の期待が大きい選手だ。

 7月にはホクレン・ディスタンスチャレンジ2019の5000mと1万mの出場を予定しており、「しっかりと結果を残したい」と名取は言う。このまま故障なく、調子を上げていけば全日本大学駅伝の7、8区。そして箱根駅伝の8~10区、もしくはいま以上に力をつければ2区も見えてくる。名取の”完全復活”は東海大の目標である「大学駅伝3冠」を達成するうえで欠かせない。

 この日、5000mの1組には、昨年の箱根メンバーである河野遥伎(はるき/4年)と本間敬大(けいた/2年)、そしてハーフでメキメキと頭角を現している鈴木雄太(3年)らが出場していた。そのなかで、鈴木らを抑えて1組1位、5000m全体で10位(14分22秒17)に入ったのが、竹村拓真(1年)である。

 出身校は、前主将の湊谷や4年の松尾と同じ秋田工業高校。朴訥とした雰囲気を漂わせるフレッシュな1年生だが、走りは強気だった。

 ラスト1周の鐘が鳴ると鈴木のうしろから飛び出し、グングン加速していった。そして2位に2秒差をつけてトップでフィニッシュした。

「今日のレースはタイムも少しは気にしていたんですけど、一番は勝ち切ることだったので、勝ちに徹する走りを心がけました。勝てたのはよかったんですが、自己ベストが14分13秒で、その近くで走ることが本当の力になっていくと思うので、(今日のタイムの)14分22秒というのは課題が残ったレースだったと思います」

 この春に入学したばかりで、トラックシーズンはまず大学の生活環境に慣れることだが、竹村は東海大独特のスピード練習をいかに自分の走りに生かすかをテーマにしてきたと言う。

「練習は高校に比べて負荷がかなり大きいですが大丈夫です。今後の自分の目標は、5000mと1万mを走って結果を出していくことです。5000mでは13分台、1万mでは29分30秒を切れるようにしたいです。駅伝は先輩方が強いんですけど、ただ『強いなって』あきらめるのではなく、日々の練習から食らいついて、メンバー争いに絡めるように頑張っていきます」

 表情はまだあどけなさが残るが、自信がみなぎっている。同じ1年生には関東インカレの1500mで館澤亨次(たてざわ・りょうじ/4年)を破った飯澤千翔(いいざわ・かずと)らがおり、実力も肝っ玉も据わった選手が多い。

 東海大は4年生の”黄金世代”が注目を集めているが、「大学駅伝3冠」を達成するには下級生の突き上げが必須である。竹村が夏合宿を乗り越えて、出雲駅伝、全日本大学駅伝のメンバー争いに絡んでくるようだと、部内競走がより激しくなり、層はより厚くなる。秋の駅伝シーズンに向けて、まだひとり楽しみな選手が出てきた。