まっすぐ伸びてゆく美しい弾道だった。初回、1死無走者。1ストライクから投じられた内角直球にバットを振り抜いた。「打った瞬間にわかった」と稲生。打球は一直線に伸び、ライトスタンドに突き刺さった。■パナマ戦の初回に先制弾放った稲生賢二、決勝はキ…

まっすぐ伸びてゆく美しい弾道だった。初回、1死無走者。1ストライクから投じられた内角直球にバットを振り抜いた。「打った瞬間にわかった」と稲生。打球は一直線に伸び、ライトスタンドに突き刺さった。

■パナマ戦の初回に先制弾放った稲生賢二、決勝はキューバと激突

 6日に行われた「第3回 WBSC U-15ベースボールワールドカップ in いわき」のスーパーラウンド3戦目。予選リーグから8試合目で稲生賢二がチーム初の柵越えホームランを打った。全8試合で安打をマークするヒットメーカーの一撃で、日本はパナマに2-1で勝利した。

 まっすぐ伸びてゆく美しい弾道だった。初回、1死無走者。1ストライクから投じられた内角直球にバットを振り抜いた。「打った瞬間にわかった」と稲生。打球は一直線に伸び、ライトスタンドに突き刺さった。先制ソロ。「強い打球を意識して打席に入り、フルスイングで打った」と、ホームランボールを握りしめながら振り返った。

 5日のアメリカ戦。予選リーグ1試合目から全試合で安打を放ち、11打点を挙げていた稲生だったが、3点を追う9回、1死満塁で併殺に倒れた。2-2から勝ち越しを許した場面では、角度の浅いライナー性の当たりがセンターを守る稲生を襲った。惜しくも捕球できず、ランナーは生還した。

「昨日、アメリカに負けてしまい、この試合は絶対に落としてはいけないので、何としても勝ってやるという気持ちで挑んだ」

■兄の背中を追った日々、「フルスイング」で本塁打も増

 前夜はホテルに帰ると素振りを繰り返した。「それが今日の1打席目につながったのかなと思う」と自信を深めた。

 兄の背中を追って野球をしてきた。現在、中部大1年の兄・達也さんは大府高(愛知)時代に2年生から4番を打った強打者。兄のスタイルである「フルスイング」を心がけ、中学3年になってからは本塁打数も伸びている。6月にあった全国大会出場を決める大会ではサイクル安打も達成した。当時の指導者の助言で、小学5年から大人が使用する一般用のバットを握り、振る力を付けてきた稲生。現在は公式戦で83センチのバットを使用しているが、一時は兄・達也さんの影響で86センチのバットで打っていたという。

 そうした鍛錬の成果か、国際規格の打球が飛びにくいバットで見事な柵越え。父・悟さんは「いいホームランでしたね。昨日の9回、満塁でゲッツーだったので、本人は何とかいい結果をと思っていたと思います。本当によかったです」と安堵していた。

 稲生は、予選リーグでは3番、スーパーラウンドから2番を打ち、8試合連続で安打を放っている。不動のレギュラーとして戦い抜き、いよいよ、決勝戦だ。「ここまで来たので、金メダルだけ狙って、最後は笑顔で終われるように頑張りたい」。U-15侍ジャパンの安打製造器は、キューバとの決戦でも世界一に導くヒットを放つ。

高橋昌江●文 text by Masae Takahashi