1年前、チャンピオンズリーグの決勝戦でレアル・マドリードに敗れたリバプールのメンバー、DFフィルジル・ファン・ダイ…

 1年前、チャンピオンズリーグの決勝戦でレアル・マドリードに敗れたリバプールのメンバー、DFフィルジル・ファン・ダイクとMFジョルジニオ・ワイナルドゥムは、失意のままオランダ代表合宿に加わった。フィジカル的にもメンタル的にも疲労を隠せなかったふたりは、6月最初の国際試合、スロバキア戦の出場を見合わせている。



自らのミスを同点弾で帳消しにしたマタイス・デ・リフト

 だが、今年のふたりは違う。トッテナム・ホットスパーとの戦いを制し、CL優勝メンバーの一員となったファン・ダイクとワイナルドゥムは、自信とオーラとやる気をみなぎらせて、オランダ代表の合宿に加わった。

 ネーションズリーグ準決勝、イングランド戦の試合前日記者会見。ロナルド・クーマン監督はうれしそうに、「去年と違って、ファン・ダイクもワイナルドゥムも試合に出たがっている。イングランド戦はふたりを含めてフルメンバーで挑む」と宣言した。会見直後に行なわれた練習でも、このふたりのコンディションのよさは際立っていた。

 1年前と比べて自信をつけたのは、このふたりだけではない。

 MFマルテン・デ・ローンはセリエAで3位となったアトランタの大躍進を支えた。PSVはCLグループリーグで「死の組」に入り、結果こそ出せなかったが個々の試合で善戦し、SBデンゼル・ダンフリース、FWステーフェン・ベルフワインがブレイクした。そしてなにより、CLベスト4進出を果たしたアヤックスのDFマタイス・デ・リフト、DFデイリー・ブリント、MFフレンキー・デ・ヨング、MFドニー・ファン・デ・ベークは、一気に世界で知られる有名選手になった。

 こうした個の成長と、チームの成長がリンクしているのが、現在のオランダ代表だ。クーマン監督がチームの指揮を初めて執ったのは2018年3月、イングランドとの親善試合だった。

 当時のオランダは、2016年ユーロと2018年ワールドカップの出場権を連続して逃し、国全体が自信をなくした時期だった。クーマン監督も、強豪国相手にポゼッションで優位を作れないと悟り、5−4−1のフォーメーションで後ろに重心を置き、カウンターサッカーでチームビルディングを始めた。

 つまり当時のオランダは、イングランドに対して「アンダードッグ」の立場だった。その試合はホームゲームであったにもかかわらず、ほとんど見せ場を作れぬまま、0−1で敗れている。

 しかし、アヤックスとPSVが若手層の底上げを図り、他国で切磋琢磨する主力選手たちとうまくミックスされた結果、オランダはネーションズリーグで躍進を遂げた。戦前の予想をいい意味で大きく裏切り、フランスやドイツを破ってベスト4に進出。ネーションズリーグ準決勝を前に、クーマン監督は「1年数カ月前にイングランド戦を戦ったオランダ代表と、今のオランダ代表は大きく違う」と胸を張った。

 こうして迎えた、6月6日のネーションズリーグ準決勝。イングランドとの一戦は、まさにオランダが著しい成長を証明した試合となった。

 結論から言うと、オランダは延長戦の末にイングランドを3−1で破り、9日のポルトガルとの決勝戦に進むことになった。FWメンフィス・デパイはノーゴールながら3ゴールすべてに絡み、デ・ヨングは献身的な守備をベースにチャンスメイクの起点となっていた。

 一方、守備では30分、CBのデ・リフトが自陣のペナルティエリア内でトラップミスを犯してしまった。
相手FWマーカス・ラッシュフォードにボールを奪われ、慌ててスライディングタックルをした結果、ファウルとなってイングランドのPKに。先制されるきっかけを与えてしまった。

 だが、ミスをしたデ・リフトに対し、クーマン監督はハーフタイムに叱ることも励ますこともしなかったという。すると後半、デ・リフトはミスを引きずることなく落ち着いて守備陣を統率すると、73分にはコーナーキックから完璧なタイミングでヘディングシュート。同点弾を決めて、自身で試合を振り出しに戻したのだ。デ・リフトのメンタルコントロールは、19歳とは思えぬものがある。

オランダ代表が暗黒期の真っ只中だった2017年3月、当時17歳だったデ・リフトはワールドカップ予選のブルガリア戦の先発に大抜擢された。だが、その試合で2失点に絡んでしまう。あれから2年、デ・リフトはアヤックスのキャプテンを務めるほどのDFになった。ひとつのミスで崩れるほど、デ・リフトはヤワではない。そのことを証明した同点弾だった。

 オランダはイングランド戦にベストメンバーで臨んだが、途中出場した選手たちのパフォーマンスもすばらしかった。97分、FWクインシー・プロメスはデパイのシュートのこぼれ球に対してダッシュで詰めて、決勝点となるゴールに貢献(記録はカイル・ウォーカーのオウンゴール)。さらに114分にも、ダメ押しとなる3点目を決めた。

 68分からピッチに立ったファン・デ・ベークも、技術の高さ、ラインの間に入るポジショニングのよさを見せ、今後のレギュラー争いに割って入りそうな出来だった。今季の開幕時はアヤックスでレギュラーから外れてしまい、移籍を志願するコメントを残していたが、やがてトップ下としてブレイク。CLベスト4に加え、オランダリーグとオランダカップの国内二冠に大きく貢献した。今のオランダサッカー界の勢いを象徴するMFと言えるだろう。

 6月9日の決勝戦は、休養日の少ないオランダにとって不利になるかもしれない。しかも、相手のポルトガルは地元開催というメリットがあり、エースのクリスティアーノ・ロナウドは準決勝のスイス戦でハットトリックを記録している。

 だが、どうしてもオランダは優勝したい。ネーションズリーグは「ミニ・ユーロ」という位置づけではあるものの、オランダはサッカー大国復活の証(あかし)がほしいのだ。