今しかできないことって、何だろう。福田咲絵選手(慶應義塾大学)の場合、それは自転車競技だった。大学に入学した当初は「身体を動かしながら視野を広げたい」との思いから、ロードバイクで旅をするサークルに所属していた。色々な場所を巡り、様々な景色を…

今しかできないことって、何だろう。福田咲絵選手(慶應義塾大学)の場合、それは自転車競技だった。大学に入学した当初は「身体を動かしながら視野を広げたい」との思いから、ロードバイクで旅をするサークルに所属していた。色々な場所を巡り、様々な景色を心に刻む。楽しく活動していたある日、ふとした疑問が脳裏に浮かんだ。今やっていることは社会人でもできるのではないか。今しかできないことに、全力で打ち込めているだろうか。

サークルの先輩に連れて行ってもらったクラブチーム大会をきっかけに、2年生になってから體育會自転車競技部の門を叩いた。入部直後は完走すら難しかったが、たゆまぬ努力の結果、その年のインカレを制覇できるまでに成長した。最後の力を振り絞ってゴールへ向かう瞬間を、彼女は今でも憶えている。約1kmの坂を登りながら、嬉しさのあまり涙が止まらなかった。思い出したのは、練習についていけなかった自分を見捨てず、励ましてくれた部の仲間たちの支えや言葉。どうしても結果で恩返ししたかった。今でも、応援してくれる人たちの喜ぶ姿を見ることが、何より彼女の原動力になっている。

※福田選手の“愛車”。「自分の自転車を好きになることが1番良い」と考える福田が、色使いに一目惚れして購入を決めた

福田が取り組む種目は、ロードレース。国内ではサーキットや公道など約40kmのコースの中で速さを競う。福田は「景色が変わるのが楽しい」と、旅行サークル出身者ならではの魅力を見出している。彼女の強さの秘密は「継続すること」にある。1日だけの努力なら誰にでもできる。辛い時、苦しい時、自分の弱さと向き合いながら努力できるかどうか。短期・中期・長期それぞれで「常に少し上の目標」を自分で作り、達成するために努力を重ねることで、福田は女王としての地位を確立してきた。

「今しかできないことを全力でできているか」という問いの答えを探して、彼女がたどり着いた未来。あの時勇気を出して飛び込んだことで、多くのものを得た。中でも自分を新しい世界へ連れて行ってくれた自転車は、思い出が詰まった宝物だ。まだ見ぬ景色もあるが、福田なら絶対に手に入れられるはず。苦楽を共にしてきた、“愛車”と一緒なら。

※大学アスリート1日密着動画「THE STARS」にて、福田選手を特集しています。
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福田咲絵(ふくだ・さえ)
東京都出身。1995年7月7日生まれ。158センチ。神奈川県立湘南高校を経て、現在は慶應義塾大学経済学部4年。2年生時にインカレロードレースを制した。昨年は大学を休学し、自転車競技の本場フランスで武者修行。世界大学選手権タイムトライアル6位入賞、ロードレース7位という成績を残した。他にも全日本学生選手権個人タイムトライアルや個人ロードレースを制している。