文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE熊本ヴォルターズは今度こそ悲願のB1昇格を果たすはずだった。勝てば昇格だったB2プレーオフ準決勝で群馬クレインサンダーズに敗れ、さらに3位決定戦でも勝てば昇格だったにもかかわらず今度は島根スサノオマジッ…

文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

熊本ヴォルターズは今度こそ悲願のB1昇格を果たすはずだった。勝てば昇格だったB2プレーオフ準決勝で群馬クレインサンダーズに敗れ、さらに3位決定戦でも勝てば昇格だったにもかかわらず今度は島根スサノオマジックに敗れた。レギュラーシーズンでは群馬にも島根にも勝ち越しており、ホームの後押しを受けられる状態で、どうして昇格を逃してしまったのか──。誰もがそんな思いを抱えながらオフに入った。あれから1カ月、司令塔の古野拓巳は、様々な思いを抱えたまま、新たなシーズンに向けて第一歩を踏み出そうとしている。

「プレーオフは別物だと分かっていなかった」

──最後の最後でB1昇格を逃してシーズンが終了してから約1カ月が経過しました。ショックは大きかったと思いますが、落ち着いて振り返ることができるようになりましたか?

気持ちの整理はなかなかつかなかったです。アーリーカップで優勝して西地区で優勝して、B1昇格を目指して自分たちが階段を上がっていた、目標としていたものを成し遂げていたので、一番上から一番下まで落ちたという気持ちでした。

プレーオフで昇格を勝ち取れなかった最大の要因は(セミファイナル)群馬戦の1戦目だったと思います。相手はアウェーでのプレーオフへの心構えができていたのに対し、こっちはシーズンとあまり変わらない入り方をしてしまった。ロッカールームの雰囲気やゲームの入りで、群馬さんはしっかり構えていました。その1戦目の負けが最後まで響いたと思います。

昨シーズンの横浜アリーナ(入替戦)での負けもそうだし、1年目の広島戦も最後に僕がブロックされてプレーオフに行けなかったりとか、「あと一つこうしていれば」という思いが僕にはいっぱいありました。ちょっとした気持ちの差かもしれませんが、プレーオフは別物だとチームとして分かっていなかったんだと思います。

──今回、例えば試合前のロッカールームで「いつもの試合とは違うよ」とチームメートに声を掛けていたら、結果は変わっていたかもしれないということですか?

少なからずあると思います。僕も含めて各チームのエースだったかもしれませんが、上位で戦ってきた選手ではありません。その一つの勝ち負けでプレーオフに行けるのか行けないのかが決まるような経験をしていないので、もうちょっと声掛けでフォローできたとは思います。

──Bリーグでの3シーズン、すべて昇格争いに絡みつつ、昇格を逃しています。でも、今回が一番昇格に近かった、チャンスが大きかったと思うのでは?

それはみんな思っていましたね。僕だけじゃなく会社も、熊本県民のファンの皆さんもそう思っていたと思います。だから、なかなか立ち直れませんでした。群馬さんに負けた後、まだ島根戦があるにもかかわらず「これでもう終わりだ」と思ったんです。もちろん、そこから気持ちは立て直したんですけど、いろんな葛藤がありました。「3位で昇格してみんな喜ぶのかな?」と、すごく考えました。

B1で活躍する同世代の選手に「負けたくない」

──そこから、心境はどのように変化していったのでしょうか。

考えれば考えるだけ「あの時ああしていれば」というタラレバが出てしまうので、現実と向き合えない時期が2週間ぐらい続きました。でも、そこからは見ずにはいられなくて、何度も試合を見直しました。

見ても楽しくはないですね。しかも、ただ見るのではなく何回も巻き戻して「なんでここでこうだったんだろう」って。本当に気持ちとしてはマイナスでしかないです。でも、見ずにはいられなかった。バスケット人生はまだ続くし、そこで次に成長するための一歩かもしれないと思いますし。だから、島根との2試合は5回ずつぐらい見ました。

今も気持ちが切り替えられたかと言われれば、そうではありません。だから今、残留するのか移籍するのかの話も、その気持ちが必ずかかわってくることなので、すごく悩みます。

──移籍については話しづらいことも多いと思いますが、素直に「自分はいつまでもB2でやる選手じゃない」という思いはありますよね?

いや、それよりも熊本でB1に上がって、熊本の主力メンバーとしてB1を戦いたい気持ちが強いです。それと同時に考えるのは、同じ年代の選手たちがB1で活躍しているのを見て、自分が置いていかれているという感覚ですね。それはやっぱりあります。富樫勇樹であったり、笹山貴哉、安藤誓哉、晴山ケビン、野本建吾が同期のライバルですね。NBLの時にはマッチアップしていた選手たちですし、負けたくないって気持ちがあります。

──同じ舞台で戦ったら負けないぞ、と?

「負けないぞ」というか「負けたくない」ですね。そこは意地もありますし、ファウルがこんでも止めてやるという気持ちがあります。ファイナルで富樫選手が追い上げるシュートを決めるのを見て、僕はどちらの応援をするわけじゃないんですけど、「ここで決めるのか!」と感動したんです。やっぱりあの舞台に立つことをすごいと思ったし、「B1っていいな」と思いました。

「チームを引っ張るポイントガードでありたい」

──それと同時に、熊本に育ててもらったという気持ちもあるわけですよね。Bリーグになってからの3シーズンで、自分がどのように成長できたと思いますか?

昨シーズンはアシスト王で、外国籍選手が常時オン2になった今シーズンも数字は落としていません。これはチームメートのおかげでもあるし、ヘッドコーチが僕を使ってくれたのが一番ですけど、少しは結果を残せたと思っています。それと、Bリーグが始まってアシストは増えているんですけど、ターンオーバーが毎年10とか15ずつ減っているので、そこに成長を感じます。

──移籍云々は別として、この先にどんな選手になっていきたいと思いますか?

チームに必要とされる選手でありたいです。ポイントガードとしてのリーダーシップでもあり、ディフェンスでもオフェンスでも。僕が一番理想とするのは橋本竜馬さんみたいな、ハッスルして要所で仕事ができて、なによりリーダーシップが取れる。それがチームを引っ張るポイントガードとしては一番だと思っています。

──古野選手は得点でもアシストでもスタッツを残すタイプのポイントガードですよね。スタッツには残らない部分で存在感を発揮するタイプの橋本選手とは似ている感じがしません。

そうですね。だから両方を持ち合わせることができれば橋本さんを超えるポイントガードになれるんじゃないかと思います。でも、橋本さんを超えるには、もっともっとチームを鼓舞できるようにならなきゃいけない。負けている時こそ、自分の調子が悪い時こそ、声も出さないといけない。そういう部分が必要だとすごく感じています。

橋本さんと一緒にプレーしたことはないんですけど、同じ福岡県飯塚の出身なんです。狩野祐介さんもそうです。あの2人って似てますよね。キャプテンシーがあって声を出して。そういう選手になりたいです。

シーズンが終わってしばらく落ち込んでいましたが、「こうしてはおられん」という気持ちになっていて、徐々に来シーズンに向けた身体作りを始めています。あのファイナルを見て「置いていかれるのは嫌だ」とすごく思いました。その気持ちを持って動き出しています。