「王者の覇気」 それは、ポルトガルから生まれ、世界サッカーに君臨した選手に共通する要素かもしれない。何かをやってのける気配があり、チームを救い、勝利に導く存在と言えるかもしれない。 1980年代から1990年代初頭のパウロ・フットレ、1…

「王者の覇気」

 それは、ポルトガルから生まれ、世界サッカーに君臨した選手に共通する要素かもしれない。何かをやってのける気配があり、チームを救い、勝利に導く存在と言えるかもしれない。

 1980年代から1990年代初頭のパウロ・フットレ、1990年代から2000年初頭のルイス・フィーゴ、そして現在までのクリスティアーノ・ロナウド。それぞれ所属クラブ(フットレはポルト、フィーゴとロナウドはレアル・マドリード)で、エースとして欧州王者を経験している。3人はそれぞれのキャリアの最後と最初で重なり合っており、ポルトガル代表としても世界にその名を轟かせた。

「ルイス(フィーゴ)はうまかったですが、それ以上に、誰にも負けないという気概を持っている子どもでした」

 筆者はかつて、フィーゴのルーツを辿って、当時、スポルティング・リスボンで育成部長だったアウレリオ・ペレイラに話を聞いたことがあった。フットレ、フィーゴ、そしてロナウド。3人とも、スポルティングの下部組織出身である。

「ルイスはどんな試合でも失敗を絶対に怖れなかった。ボールを持ったら無敵。簡単に聞こえますが、すごいことなんです。子どもはたいてい失敗すると逡巡し、萎えてしまう。でも、ルイスは決して弱気にならなかった。その強い心が彼を上り詰めさせたのでしょう。面白いことに、とてもよく似ていたのが、クリスティアーノ(ロナウド)です。クリスティアーノはフィーゴよりも、身体的な強さがありましたが」

 そしてポルトガルに、次代を担うひとりの新鋭が現れた。今度は、スポルティング出身者ではない。



今季、ベンフィカのリーグ戦制覇に貢献したジョアン・フェリックス

 ジョアン・フェリックス。スポルティングの永遠のライバルであるベンフィカ所属の19歳だ。

 6月5日のUEFAネーションズリーグ準決勝で、ポルトガルはスイスと対戦する。ジョアン・フェリックスは代表選手23人のリストに名を連ねている。出場の見込みだったU-20W杯は回避。すでにユース年代の選手ではないという判断だろう。

 2018-19シーズンは、ベンフィカで颯爽とプレーしている。ヨーロッパリーグ、フランクフルト戦でのハットトリックなど20得点を記録。チームのポルトガルリーグ制覇に貢献し、10代のルーキーとして突出した才能の輝きを見せた。

 真骨頂は、一瞬で敵の裏をかくプレーにあるだろう。相手の重心をずらしながら、その逆方向へ、ボールをずらし、すり抜ける。パスコースを見抜き、そこに速いボールを通す技術も必見だ。一瞬にして流れを変えられる、魔法の杖を振るようだ。

「俺が現役でプレーしていたら、まず踏みつけて黙らせるよ。そうすれば、勢いは収まる。(ジョアン・フェリックスは)おとなしくなるはずさ」

 元ポルトガル代表DFで、ユベントスやデポルティボ・ラコルーニャで活躍したジョルジェ・アンドラーデはこうコメントした。だが、これが炎上騒ぎに発展。それだけ注目の存在と言えるだろう。

 1億2000万ユーロ(約156億円)。それがジョアン・フェリックスに設定された移籍金である。アトレティコ・マドリード、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッドなどのビッグクラブが、こぞって獲得を狙っている。

「自分は身体的に強いわけではない。だからいつも頭を使って、よりいいポジションを取ることを心がけた。いつも先のプレーを読んでね。自分はおとなしい性格だと思う。でも、ゴールして勝つと自信になるし、めちゃくちゃ楽しいんだ!」

 ジョアン・フェリックスはあどけなさの残る顔で、本性を垣間見せる。勝負に対し、物怖じするところはない。

 少年時代は、「華奢」であることを理由にプレーを断られたこともあったが、力に頼らなかったことで、ありあまる技術と予測力を磨くことができた。ボールをどのように叩けば、回転が起こり、曲がって、速度が出て、相手が嫌がるか――。それを知り尽くしているように映る。

「ジョアンは一流の選手だよ。すべてのシュートがゴールになる感覚がある。いつも冷静で、とんでもない決定力だ」

 ベンフィカのスペイン人DF、アレハンドロ・グリマルドの言葉である。

 19歳のルーキーは、点取り屋としても希有な才能も持っている。実像は、本人が憧れる元ブラジル代表FWカカに近いか。トップスピードに乗りながら、視界を得て、足を振れる。

 ネーションズリーグで、ルーキーは試合を決めるアタッカーの役割を果たせるのか。

「クリスティアーノ(ロナウド)は模範とすべき選手。長い間、世界最高の選手として戦ってきたし、これからもそうだろう」

 ジョアン・フェリックスは言う。しかし時代は巡る。40年ぶりにベスト4に進出したドイツW杯で、当時21歳のロナウドは、33歳だったフィーゴから、ポルトガルのエースの座を託された。

若き王の初陣となるか。