サッカーは結果に対して運が3割ほど影響を及ぼすと言われる。だからつい、タラレバ話をしたくなる。チャンピオンズリーグ…
サッカーは結果に対して運が3割ほど影響を及ぼすと言われる。だからつい、タラレバ話をしたくなる。チャンピオンズリーグ決勝、リバプール対トッテナム・ホットスパー(スパーズ)戦も例外ではなかった。
試合開始わずか数十秒。左サイドでバックラインの裏にボールを運んだサディオ・マネが、真ん中に際どいクロスボールを送ろうとした瞬間だった。スパーズのムサ・シソコは、中央で構えるセンターバックに右手を挙げ、なにがしか指示を送るような仕草をした。
それはマネがキックをするタイミングと完全に一致してしまった。ボールはその右胸に直撃。さらに挙がった右腕にもヒットした。その結果、ボールはコースを大きく変化させた。この光景を目の当たりにした背後に陣取るスパーズサポーターも、さすがに沈黙せざるを得なかった。
ペナルティエリア内のハンドの判定は間もなく、「故意かそれに準ずるアクションでなければPKにはならない」に変更されると言われるが、このシソコのハンドはどうなるのか。手は挙がっていたが、故意ではなかった。いずれにせよ、残念ながら現行のルールではPKである。
このチャンピオンズリーグ(CL)決勝は、ロシアW杯後に行なわれた試合のなかで、最も重い、まさに大一番である。そこでいきなりこのハンドが発生した。両チームの前戦(準決勝)が歴史に残る大逆転勝利で、その余韻を引きずっていたと言えるのかもしれないが、サッカーの神様も罪作りなことをしてくれるものだ。
モハメド・サラーが蹴ったPKが決まったのは開始2分。下馬評で上回っていたリバプールが先制するという展開は、判官贔屓と好試合を期待する第三者にとって面白いものではない。このPKを「早すぎるゴール」と位置づけたくなった。

チャンピオンズリーグで優勝し、歓喜するリバプールの選手たち
このままリバプールがゲームを支配すれば、1枚も2枚も上手であることを意味するが、スパーズが押し返せば、お互いの戦力は拮抗していることを意味する。主導権を握るのはどちらか。注目はそこに集まった。
リバプールが激戦をモノにしてきた背景にあったのはプレッシングだ。グループリーグのパリ・サンジェルマン戦、決勝トーナメント1回戦のバイエルン戦、激闘となった準決勝のバルセロナ戦しかり。高い位置からガンガン迫っていったことが奏功した。強者を慌てさせる原因になった。だが、1-0でリードした決勝戦のリバプールには、そうした魅力はまったく拝めなかった。
リバプールと言えば挑戦者だ。大昔はともかく、少なくともCL史におけるキャラはこれだ。語り草になっているイスタンブールの一戦(0-3から3-3に追いつき、PK戦でミランに逆転勝ちした2004-05シーズン決勝)にしても、番狂わせの背景にあったのは、後半開始早々から仕掛けたプレッシングにあった。
リバプールらしさの象徴というべきこの高い位置からの仕掛けは、今回、ほぼないに等しかった。1-0でリードすると、すっかり受けて立った。CLの舞台では挑戦者の立場でいられるが、同じプレミアリーグのスパーズとの関係になると、そうはいかなくなるのだろう。CLでここまでおとなしいリバプールを見るのは、初めてだった。後ろで守る傾向は、時間の経過とともに顕著になっていった。
リバプールの代名詞をプレッシングとするならば、スパーズはその逆だ。5バックになりやすい3バックで戦うこともよくある話で、この決勝戦でもどう出るか、布陣に注目が集まったほどだ。マウリシオ・ポチェッティーノ監督が最終的に選択したのは4-2-3-1だったが、それはけっして攻撃的とは言えないものに見えた。
しかし、一発勝負の決勝戦で先制を許せば、そうはいかなくなる。攻めざるを得なくなる。ワンダ・メトロポリターノのピッチ上には、お互いの通常とは異なるキャラが描かれることになった。
リバプールが攻めて、スパーズがカウンターで応酬する。これが両者の通常の関係になるが、この決勝戦ではその関係が崩れることになった。スパーズが攻めてリバプールが守るという、噛み合わせのよくない試合になってしまった。リバプールの看板FW、サラー、ロベルト・フィルミーノ、マネの3人は、音なしの状態が続いた。
スパーズの時間が長く続くと、その攻撃力が問われることになった。その中心にいたのはソン・フンミンだ。4人いるスパーズのアタッカー陣の中で、最も可能性の高いプレーをしていたのがこの韓国代表選手だった。
韓国人選手としては、マンチェスター・ユナイテッドにいたパク・チソンに次ぐ2人目の決勝進出者だ。ローマのオリンピコで行なわれた2008-09シーズンの決勝戦(バルセロナ対マンチェスター・ユナイテッド)と同様、スタンドには大きな韓国国旗が揺れていた。
10年前のパク・チソンは、後半のなかば、0-1でリードされた状況でディミタール・ベルバトフと交代でピッチを後にしている。好選手ではあったが、追いかけなければならない状況では、攻撃力という点で弱みを抱えていた。一方、ソン・フンミンはチームの攻撃の中心として、このCL決勝のピッチに立っていた。10年前よりスタンドに揺れる韓国国旗は誇らしげにたなびいていた。
アジア人、隣国のよしみで買いかぶるわけではないが、スパーズの敗因は、この選手の能力を生かせなかったことにある。攻撃できる状況にもかかわらず、スパーズはキチンとした攻撃が最後までできなかった。具体的には、真ん中に固まってしまった。
それはリバプールの前線の並びと比較すれば一目瞭然だ。ソン・フンミン、クリスティアン・エリクセン、デレ・アリ、ハリー・ケインで構成する4-2-3-1の「3-1」は絶対的な幅に欠けた。ポチェッティーノが4-2-3-1と同じくらいの頻度で用いる3-4-2-1の「2-1」と同程度の幅しかなかった。
カウンター系の攻撃の幅で遅攻をしているような感じだ。よって、攻撃に立体感ができなかった。サイド攻撃も発揮できなかった。単純なゴリ押しサッカーに成り下がってしまった。
ソン・フンミンにも終盤シュートチャンスは再三訪れた。しかし真ん中から攻め入る形になるので、斜めから切れ込む形よりゴールへの視界は開けにくい。その攻撃のアクションには強引な印象がついて回った。
立ち上がりに得たPKだけで、欧州チャンピオンが誕生してしまうのか。リバプールに追加点が入ったのは、決勝戦の権威を心配し始めた矢先だった。87分、右CKにセンターバックのフィルジル・ファン・ダイクがゴール前で絡んだそのこぼれ球だった。交代で入ったディボック・オリギが左足シュートを突き刺し、ダメ押しゴールとした。
来シーズンのCLの決勝はイスタンブール。リバプールにとっては忘れることができない場所だ。そこにディフェンディングチャンピオンとして2連覇をかけて登場することができるだろうか。
繰り返すが、リバプールは受けて立つと危ない。手ぐすねを引いて待ち構える強敵は少なくない。チャンピオンになっても挑戦者のキャラを忘れずに、前から積極的に圧力をかけるサッカーを実践してほしいものである。