福田正博 フットボール原論■今季からヴィッセル神戸に加わったダビド・ビジャ。ワールドカップで得点王にも輝いたベテランFW…
福田正博 フットボール原論
■今季からヴィッセル神戸に加わったダビド・ビジャ。ワールドカップで得点王にも輝いたベテランFWが、Jリーグ13節終了時点で5ゴール。苦境の神戸にあって、得点のペースが上がってくることに期待したいストライカーについて、元日本代表FWの福田正博氏がそのすごさがどこにあるのかを語った。

着実にゴールを重ねている神戸のダビド・ビジャ
ビジャの一番のよさは、DFラインの裏への抜け出しだ。そして、ゴールを簡単に決めているように見せてしまうほど、ボールを止めて蹴るという基本的な技術力が高い。元スペイン代表で、2010年W杯南アフリカ大会の得点王という看板に偽りのないプレーぶりだ。
彼のプレーをつぶさに観察してもらいたいのだが、彼は試合中に全力疾走をそれほどしない。DFラインの裏へ抜け出すときも、全力のスピードで走り込むわけではなく、その前段階でのタイミング勝負で抜け出している。逆に言えば、全力で走らないから、トラップもコントロールでき、シュートの正確性が高くなるのだ。
ストライカーというのは、自分勝手に動けばいいというポジションではない。パスが出る前にDFラインの裏に抜け出してもオフサイドになるだけなので、ボールを持っている味方がパスを出せるギリギリのタイミングを見計らう。言葉にすると簡単だが、実際にプレーするとなると難易度は相当に高い。
では、ビジャがどうやって出し手とのタイミングを合わせているのかと言えば、ボールを持つ味方の姿勢や体の向きなどから見極めている。
たとえば、アンドレス・イニエスタにボールが渡ったときのビジャに注目してもらいたい。イニエスタにボールが渡って、トラップして止めて、イニエスタが頭を上げているときに、ビジャはしっかりイニエスタの方を見ている。同時に、DFと駆け引きをしながらラインの裏を突く。
基本的に、パスの出し手はパスを出す前に予備動作をするのだが、超一流のパサーになればなるほど予備動作が速い。相手DFも察知できるようなタイミングなら、パスは通らないからだ。
私は現役時代に浦和でウーベ・バイン(元ドイツ代表)と一緒にプレーしたが、彼のパスが出てくるタイミングは、それまで一緒にプレーした日本人選手より格段に早かった。バインは、1990年のW杯イタリア大会で西ドイツ代表が優勝したときの主力で、94年から97年まで浦和でプレーし、私は彼とのコンビネーションで得点を量産できたことで、95年にJリーグで最初の日本人得点王になれた。
しかし、当初はまったくタイミングを合わせられなかった。自分のタイミングでDFラインの裏に抜け出してパスを受けようとしても、彼のパスの方が先に行ってしまう。私は彼がパスを出すタイミングが早すぎると感じていたし、彼からすれば、私の動き出しが遅いと考えていた。
そこで私は、ウーベにボールが渡ると常に彼を観察し続けた。次第に彼がパスを出す前に見せる予備動作がわかり、そこから彼のタイミングでDFラインの裏に抜け出してパスを受けられるようになった。
ただし、FWというのは常にパスが出てくるのを待っているわけではない。ボールを持った味方の頭が下がっていたり、悪い体勢だったりすると、動き出したりはしない。FWというものは、できれば無駄走りを避けたい。だから、パスが出せない姿勢の選手をすぐに見抜かなくてはいけない。
一方で、DFラインの裏側でパスを受けるために、オフサイドラインと駆け引きしながら走り込むことも忘れてはいけない。ジュビロ磐田にいたサルバトーレ・スキラッチ(元イタリア代表/W杯イタリア大会得点王)は、オフサイドになろうとも、1試合のなかで何度もDFラインの裏を狙い続けた。
もう少しタイミングを遅くすればいいと考えがちだが、レベルの高いストライカーになるほど、オフサイドになるギリギリのタイミングを狙い続ける。なぜなら、それが相手DFに対するプレッシャーになって、守りの意識が強まることでDFラインをじりじりと下げることができるからだ。
そうなったらスキラッチのものだ。よりゴールの近くに生まれたスペースへ侵入できるようになり、駆け引きをして、シュートを打つ。もちろん、その瞬間にパスが足元にスパンと来る必要がある。そして、当時のジュビロ磐田には名波(浩)や(藤田)俊哉がいて、パスを出せる選手が複数いた。
その点で、サガン鳥栖のフェルナンド・トーレスはストレスを溜めている可能性が高い。FWは一歩、二歩の動きで自分が得点するためのスペースをつくる。その時にパスが入るからシュートに持ち込めるのだが、現状でサガン鳥栖にはそのパスを出せる選手が少ない。
いまのトーレスは、欲しいタイミングでパスが出てこないから、パスの出し手に無理に合わせて動いているのではないか。ただ、それだと、スペースのない状況では相手を崩せず、ゴールにつながりにくいのは言うまでもない。
この気持ちも、個人的にはわかるつもりだ。私自身、ウーベが浦和を去ったあと、ウーベのときと同じタイミングでDFラインの裏に出ていくと、ほとんどがオフサイドになるかタイミングがズレた。この時も、チームメイトと呼吸を合わせることがいかに難しいかを実感した。
苦しんでいるトーレスに対して、ビジャにはイニエスタに加えて、セルジ・サンペール、CBのダンクレーというパサーもいる。これがバルセロナになると、ボールを持つ選手ほぼ全員から常にパスが出てくる可能性がある。FWは常にパスガ出てくると考えて動き出すことができる。
神戸は監督交代があり、次の監督人事の可能性についてもいくつか報道があるが、ビジャとイニエスタのホットラインは変わらずに続くはずだ。そこにドリブルで突き進めるタイプの選手が神戸に加われば、ビジャの使えるスペースが増えると私は考えている。神戸の今後の補強やチーム作りに注目したい。
今シーズンも混戦模様のJ1で、試合を観戦するファンには、ビジャの動き出しと、イニエスタの予備動作に注目して、世界トップレベルで戦ってきた超一流のすごさを体感してもらいたい。