試合終了のホイッスルが鳴ると、プレミアリーグ昇格を決めたアストン・ビラの選手たちは喜びを爆発させた。 5月26日、…

 試合終了のホイッスルが鳴ると、プレミアリーグ昇格を決めたアストン・ビラの選手たちは喜びを爆発させた。

 5月26日、サッカーの聖地ウェンブリー・スタジアムで行なわれたチャンピオンシップ(イングランド2部)プレーオフ決勝。アストン・ビラがダービー・カウンティを2−1で下し、来季プレミアリーグ行きの切符を掴んだ。



就任1年目でダービーをプレミア昇格寸前まで導いたランパード監督

 アストン・ビラの大ファンで知られるイギリス王室のウィリアム王子もウェンブリー・スタジアムに駆けつけ、勝利に拳を固めてガッツポーズ。スタジアムでは4季ぶりの1部昇格を決めたアストン・ビラのサポーターの大声援が鳴り響き、クラブカラーの「えんじ・青」のフラッグが揺れた。

 一方、ダービーのフランク・ランパード監督は肩を落とした。ピッチに倒れ込む自軍の選手たちに声をかけていくと、ゴール裏に陣取るダービー・サポーターに拍手で感謝を示した。こうして、ランパードの監督挑戦1年目は幕を閉じた。

 ランパードが英2部のダービーの監督に就任したのは、約1年前の2018年5月31日。MLSニューヨーク・シティとの契約終了後、2017年2月2日に現役引退を表明してから約1年4カ月後のことだった。

 監督経験のないランパードが抜擢されたという一報は、英国でも少なからず驚きをもって伝えられた。しかし、招聘理由についてダービーのメル・モリス会長は、「フランクほどの実績を持った選手は、このクラブにいない。フランクは真の勝者であり、成功を掴むために何が必要かを知るリーダーでもある。偉大な指揮官になるための素質とカリスマ性を備えている」と、クラブ首脳陣が満場一致でランパードの起用を決めたことを明かした。

 そして、この1年でランパードは自身の哲学をダービーに落とし込みながら、クラブ首脳陣の期待に応えていった。

 ランパード監督の志向を簡単に要約するなら、縦に速く、球際では激しいインテンシティの高いサッカー。それでいて、時間帯によってはボールを保持して厚みのある攻撃も奏でる。チェルシー時代の恩師ジョゼ・モウリーニョ監督のスタイルを踏襲しつつ、MF出身の自身のエッセンスも多分に加えている印象だ。

 また、チーム全体に浸透しているハードワークも大きな特長のひとつ。選手たちがエネルギッシュに動き回り、ボールロスト後は素早くボール奪取に走る。しかし、奪還のタイミングを逃せば、リトリートして自陣深くでブロックを構築。こうしたメリハリの効いた守備も、ランパード政権の武器だ。

 加えて、英BBC放送が「ランパードの選手補強は効果的だった」と評したように、選手の高齢化が進んでいたダービーにフレッシュな戦力を入れて若返りを図った。

 実際、チームの中心選手は、古巣のチェルシーからレンタルで獲得したMFメイソン・マウント(20歳)やCBフィカヨ・トモリ(21歳)、リバプールから期限付き移籍中のMFハリー・ウィルソン(22歳)といった20代前半の若手に移った。サポーターによるクラブ最優秀若手選手に選ばれた右SBのジェイデン・ボグル(18歳)も、ランパードによって下部組織からトップチームに引き上げられた逸材だ。こうした若手たちが、ランパード監督の志向するアグレッシブで力強いサッカーを体現するようになった。

 途中経過は上々だった。昨年10月には、恩師モウリーニョ監督率いるマンチェスター・ユナイテッドとリーグカップ3回戦で対戦。2−2の同点に持ち込んでPK戦を8−7で制すると、4回戦では古巣チェルシーと接戦を演じた。2−3で敗れはしたが、勇敢な戦いを見せたランパード監督とダービーは英メディアに高く評価された。

 さらに、冬の移籍期間に入ると、チェルシー時代にチームメイトだった38歳のアシュリー・コールを半年の短期契約で獲得。勝利の方程式を知るベテランを入れ、チームの経験値を引き上げた。

 しかし、戦力的にはリーグ中位の粋を出ないダービーは、最終的に6位でリーグ戦を終える。プレーオフに駒を進めると、準決勝でマルセロ・ビエルサ監督率いるリーグ3位のリーズを破り、決勝まで勝ち進んだ。

 こうしてプレーオフ決勝を迎えたが、古豪アストン・ビラとの力の差は大きく、59分までに2ゴールを奪われる苦しい展開に陥った。試合終盤に猛攻を仕掛けて1点を返したものの、それで精一杯。試合後、ランパード監督は「敗戦には落胆しているが、選手にこれ以上は求められない。粘り強く最後まで戦った」と気丈に話した。

 さて、今回のプレーオフ決勝は、アストン・ビラでアシスタントコーチを務めるジョン・テリーとの「チェルシー・レジェンド対決」としても注目を集めた。だが、それだけではなかった。

 その理由は、チェルシーのマウリツィオ・サッリ監督に退任論が渦巻いているからだ。本稿執筆時では明らかになっていないが、現地時間5月29日に行なわれるヨーロッパリーグ決勝の結果次第では解任の可能性があると報じられている。

 そして、後任の有力候補とされているのがランパード監督だ。プレーオフ敗退後、記者たちは質問の内容を変えながら複数回、チェルシー監督の就任の可能性について尋ねたが、そのたびにランパードは、「噂について話すつもりはない。ダービーとの契約はあと2年ある。私としても、ダービーで仕事を続けたい」と噂を明確に否定していた。

 ランパードの口調と表情から察するに、ダービーに残留する線が強そうだが、何かのきっかけで話が進んでいくのも、欧州サッカー界である。ランパードの去就は、しばらく世間を賑わせそうだ。

 そんなランパードを今季ダービーの躍進から評するなら、上々の滑り出しといえる。指導者1年目のダービーで説得力のあるパフォーマンスを披露したからこそ、チェルシーでの監督就任の噂も浮上したのだろう。

 来季の居場所はダービーか、またはチェルシーか。それがどちらになろうとも、イングランド黄金世代の名手が今後も注目を集める存在であるのは間違いなさそうだ。