5月25日、ヤンマースタジアム長居。セレッソ大阪は首位のFC東京を1-0で下している。最近6試合は、ルヴァン杯も含…
5月25日、ヤンマースタジアム長居。セレッソ大阪は首位のFC東京を1-0で下している。最近6試合は、ルヴァン杯も含めて4勝1敗1分。一時は降格圏を彷徨って空中分解寸前に追い込まれたが、調子は一気に上向いている。
「完璧でしたね。選手がロティーナの戦いを理解できているというか。これでいいんですよね!」
FC東京戦後、MF水沼宏太は朗らかな笑顔で答えている。
いったいセレッソは何が変わったのか。スペイン人指揮官、ミゲル・アンヘル・ロティーナが、試行錯誤するなかで最適解を導き出したのだ。

今季からセレッソ大阪を率いるミゲル・アンヘル・ロティーナ監督
今年2月、今シーズン開幕直前だった。J2レノファ山口とのトレーニングマッチに、セレッソが1-0で敗れた後、指揮官であるロティーナ監督にこう声をかけた。
「これこそ、あなたが目指していた戦い方ですよね?」
ロティーナは、否定も肯定もしなかった。いつものように不敵な笑みを洩らした。敗れた後だったのも、多分にあるだろう。
オーソドックスな4-4-2で戦った一戦は、敗れたものの、デザインは見えた。各選手がポジションを取ることで守りを安定させ、それによって攻撃を旋回させる。スペインで采配を振るっていたロティーナが、最も多く用いた戦い方だった。FW、MF、DFの各ラインが防衛線を作って、組織としてスペースを分担して守る。攻撃はサイドから、中に入るFWと呼吸を合わせ、クロスを仕留める形だ。
ロティーナ自身、現役時代はクロスを沈めるのを得意としたストライカーだった。
しかし、昨シーズンまで率いた東京ヴェルディでは、3-4-2-1、あるいは5-4-1とも言える陣形を選択している。とにかく後方に人を集め、後ろに重心があるバリケード戦術に近かった。
Jリーグはサイドバック、サイドアタッカーの人材が乏しく、このふたつを兼ねるウィングバックが多い。ロティーナは、3バックを採用してウィングバックを置くことで、自らのやり方を日本に適応させたのだ。
今季、人材が豊富なセレッソを率いるようになって、スペイン人指揮官は当初、4-4-2を選択していた。ただ、プレシーズンは思うような結果が出なかった。J2のクラブにさえ敗れた。
迷いのなかで、ロティーナはヴィッセル神戸との開幕戦で、急遽5-4-1での戦いを選択している。押し込まれながらも一発を放り込み、歓喜の勝利を飾った。そして、この日の戦いがスタンダードになっていった。
しかし皮肉にも、これが苦難の始まりとなる。
バリケードを作った人海戦術は、大崩れしない。セレッソの場合、前線に一発で試合を決められる選手もいる。しかし論理的な攻守ではないために、自信を持って拠り所とする戦いにならない。必然性に欠け、不安定で偶発的なのだ。
「ルヴァンは結果が出ていたので、それが大きかったですね」
水沼は分岐点をそう説明している。
「(5月4日の松本)山雅戦の前です。『まず守備のところで、サイドハーフとしてよさを出してくれ』と監督に言われた。やれる自信はありましたよ、ルヴァンでは(4-4-2で)バランスの取れた戦いができていたので。それで松本戦に勝てたのが大きかったですね。これがフツーだよって(笑)」
結局、ルヴァンでの戦いをリーグ戦に持ち込むことで、セレッソは息を吹き返した。
「自分たちの防御ラインを破るようなパスを出させない」
ロティーナは、そこを徹底させた。まずは2トップが高い強度の攻守を見せる。ボランチ、センターバックが中央を固め、サイドの選手は攻め口を封じる。そして、攻撃に転じるときには、一気に飛び出す。単純には蹴らず、ポゼッションを守備にも用いた。これでチームの戦いが安定し、好プレーも出てくるようになった。
FC東京戦の決勝点は象徴的だろう。水沼が中央へ動き、相手のサイドバックを中に引き連れる。これで右サイドバックの松田陸が、完全にフリーの状態に。時間的猶予を得たなかでクロスを入れると、FWブルーノ・メンデスが巧妙にFC東京DFの前のポジションをとって、ヘディングで流し込んだ。
「東京は中に絞るので、試合前から狙っていた形ですね」
リーグ戦で4試合連続先発出場の水沼はそう振り返っている。
「守備でも、ずれながら守って、そこでサイドチェンジされたとしても、走れる選手ばかりなので、どうにかなる」
セレッソは、見違えるほど戦術的なチームになった。たとえば、走力の高いMF奥埜(おくの)博亮はこの日、2トップの一角に抜擢され、13km近くを走っている。頭を使い、走れる選手で構成することによって、実に手堅いチームになった。
セレッソは9位まで順位を上げた。好調のルヴァン杯もプレーオフに進出。勝利の連鎖が生まれつつある。スペインの名将ロティーナが、いよいよ腕をふるう。