福田正博 フットボール原論■アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキ、そして今季からダビド・ビジャを加えた『V.…

福田正博 フットボール原論

■アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキ、そして今季からダビド・ビジャを加えた『V.I.P.』で、開幕から大注目のヴィッセル神戸が低迷している。大金を投じた強化がうまく進まない神戸について、元日本代表の福田正博氏が考察した。

 開幕から神戸の指揮を執ったフアン・マヌエル・リージョ監督が4月17日に解任され、昨年も指揮を執った吉田孝行監督が再び就任した。だが、リージョ前監督のもとで7戦3勝1分3敗の10位だったチームは、吉田体制に移行後に上昇気流をつかめず、カップ戦も含めて公式戦9連敗。J1第13節で湘南に勝利して連敗を脱出したが、不振に喘いでいる。



イニエスタ擁する神戸だが、苦戦が続いている

 神戸は「バルサ化」を掲げ、イニエスタを獲得した。しかし、選手の役割はクラブに哲学を浸透させることではなく、さらに言えば、組織をつくる力も権限もない。イニエスタにできることは、自らがプレーしていたバルサというクラブの哲学をピッチ上で表現することなのだ。彼が育ったクラブであるバルセロナの哲学を神戸に浸透させ、構築・継続していくのは、監督やクラブ幹部、そしてすべてのクラブスタッフの仕事である。イニエスタがフィールドの外でもすべてをやってくれるわけではない。

 プロのサッカークラブとは、会長やGM、強化担当やスカウトらクラブの幹部はもちろん、スタッフ全員でそのクラブの哲学を築いていき、その方針をもとに選手を育成・獲得していく。それが、クラブの歴史と伝統となり、強化にもつながる。

 その最初の一歩が、優秀な監督に長期間継続して指揮を執ってもらうことだろう。たとえば、アレックス・ファーガソン監督の指揮下で多くのタイトルを獲得したマンチェスター・ユナイテッドは、監督の方針をクラブが十分理解したうえで、選手獲得にも大金をかけてチーム強化を長年継続していき、結果を手にしてきた。

 Jリーグでは名古屋グランパスが、そうしたアプローチでチーム改革とクラブの強化を進めつつある。昨年はJ2降格の危機に陥りながらも、風間八宏監督の手腕にかけ、現体制の継続を決定した。そして今季、名古屋は上位争いを続けている。

 では、神戸はどうかといえば、大金をかけてバルサの哲学を知る選手を連れてきたあとに、その選手を率いるにふさわしいとクラブが判断した監督が就任したものの、すぐに交代させてしまった。クラブはもっと長期的な視野に立って辛抱強く監督をサポートすることも検討すべきだったのではないか。マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラや、リバプールのユルゲン・クロップほどの手腕を持つ監督でさえ、就任1年目は苦労していた。どんなに優秀な監督であっても、ある程度の時間は必要だ。

 しかも、「結果を出す」「組織に哲学を植え付ける」ことを同時に遂行していくことは、サッカーに限らず、どんな仕事でも難易度が高いもの。その両面で実績を残してきた監督となると、世界を見渡しても数えるほどしかいない。

 また、バルセロナが現在のスタイルになるには、50年近い歳月を要していることを忘れてはいけない。1973年にヨハン・クライフが選手としてバルセロナに移籍してきて、その後、監督としても自らの理想とするスタイルをクラブに植え付けて結果を出した。そして、その薫陶を受けて育ち、チームの主力選手へと成長したペップが、その後バルサの監督になったことでさらに大輪の花を咲かせた。現在のバルサは、1、2年で築き上げられたものではない。

 つまり、神戸がバルサのようなクラブになるのは、一朝一夕でできることではない。ならば、イニエスタとの契約がある間に、短期的な「結果」を出しながら、同時に長期的な視野に立って「バルサ化」を推し進めることを重視すべきだろう。理想としては、結果も残せる「バルサ化」にふさわしい指揮官に長期間チームを託す必要がある。ただし、その任にうってつけのペップ・グアルディオラのような監督は世界に何人もいないはずだ。元アーセナル監督のアーセン・ヴェンゲル氏にオファーをしたという報道もあるが、神戸の監督選びは非常に難しいものにならざるを得ないだろう。

 また、神戸が目指している世界のトップクラブであるバルセロナは、監督と選手の獲得にお金を使っているだけではない。トレーニング設備、スカウト、育成組織、医療体制、広報活動など、ピッチだけではなくピッチ外のありとあらゆる分野にも多額の資金を投じ、多くの優秀なスタッフ・人材を獲得し続けている。

 それも考えると、神戸が取り組んでいる「バルサ化」が容易でないことは理解してもらえるのではないだろうか。もちろん、この「バルサ化」が成功したら、日本サッカー界にとってこれ以上ないほど魅力的であることは間違いない。新しい風を吹かそうとしている神戸が、『産みの苦しみ』を乗り越えて「バルサ化」を推進し、ビッグクラブへと成長していくことができるか、引き続き注目していきたい。