かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の新連載「FINEPLAY INSIGHT」がいよいよスタート。今回は新連載ということで、頑張って第二回目まで一気に公開させていただきまし…

かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の新連載「FINEPLAY INSIGHT」がいよいよスタート。

今回は新連載ということで、頑張って第二回目まで一気に公開させていただきました。

第一回では「『スポンサー』という言葉を禁句にしてみよう」という、少しトガった言い方をしてしまったのですが、この第二回目では、それに関連して僕が勝手に提唱している「実業団ストリートチーム構想」について今回は記したいと思います。

本当のイシューは、スポンサーではなく「食えないこと」

第一回でご紹介したように、僕の所に寄せられる個人的な相談の多くは、「スポンサー」もしくは「キャリア」についてのものです。スポンサーについてはその捉え方についての提言を第一回で述べましたが、実はこの2つは密接に繋がっている表裏一体のイシューです。

というのも、この2つの相談はどちらも、根本的に「ほとんどみんな食えていない」というところに元のイシューがあるのです。まず食えないという根本的なイシューがあり、その表出として「スポンサーを獲得したい」「自分のキャリアをどうにかしたい」という悩みが出てくるのではないかと思っています。

スポンサーを獲得したいという背景には、イベントや大会を成立させたいという思いももちろんありますが、ぶっちゃけて言えばスポンサーを獲得することで食いたいわけです。キャリアをどうにかしたいというのは、就職や進学をして将来の食い扶持を確保したいという悩みです。


アスリートとして「食う」ことと「キャリア」を両立させる仕組み

さてこの「食う」ということについて、アクションスポーツの界隈ではなぜか浸透していない仕組みがあります。それが実業団です。企業にアクションスポーツのトップアスリートが社員として所属し、働きながら活動出来る実業団の仕組みは、ラグビー、野球、柔道など多くの人気スポーツに整備されている仕組みですが、なぜかアクションスポーツでは「プロでナンボ」という固定観念に縛られている人が大変多い。

まずは小中高→(大学→)社会人という、アマプレイヤーとしてのキャリアパスがしっかりと整備されていて、その上で世の中の需要(人気、影響力、観客数、放映権、スポンサーなど)に応える形で「プロ」というものが成立する、と考えるのが最も健全ではないでしょうか。

今年ワールドカップ開催を控え、テレビや大企業もこぞって応援しているラグビーですら、実業団、つまりアマ選手を主体として日本代表チームが純粋に成立しているのに、なぜまだまだ小さいアクションスポーツのアスリートたちがいきなりプロを目指すのか、僕にはちょっと理解しがたいのです。

この実業団という仕組みは実によく出来ていて、冒頭申し上げた、プレイヤーとして「食う」という問題を、社会人として企業に所属することで解決してくれる仕組みになっています。アマチュアとは決して何かに劣るものではないのです。柔道、水泳、スピードスケート…枚挙にいとまがないほど実に多くのスポーツで、金メダリストや世界選手権のチャンピオンが実業団の所属です。世界一で最も尊敬されるアスリートが社会人であることに、何の気後れを感じる必要もないはずです。

仕組みをつくるのは、シーン側から

このようなお話をすると、企業にアクションスポーツのチームを作ってもらおう!と呼びかけているように見えるかもしれませんが、順序としては逆ではないかと思っています。つまり、シーンのほうから「社会人でトップアスリート」というロールモデルをより多く輩出する風土を作っていくことではないでしょうか。

そのためにはまず、プロ>アマという固定観念を捨てること。働くことや就職することへの後ろめたさやアレルギーを捨てて、社会人としてのキャリアを築きながらトップアスリートとして活躍する、引退したら社員のまま会社に恩返しを行う。ときには指導者やスポークスマンとして世の中に出ていくこともあり得るでしょう。

さらにそのためには、キッズアスリートの親やシーン全体として、「プロ」という意味をもっと慎重に考えることでしょうか。プロというのはアマチュアの仕組みで有り余る社会的な需要があって、初めて生まれるもの。eスポーツなどはいきなりプロが出てきているように見えるかもしれませんが、多くのゲーマーが長いアマチュアの時代を経て出来たシーンを土台としてあることを忘れてはいけない。


このようなシーン全体としての意識改革がまずあってから、ぜひ企業の側も、ストリートやアクションスポーツの実業団チームを検討してみてほしいと思います。第一回でも説明したように、ストリートやアクションスポーツの界隈では、いまの企業活動で求められる非常に重要な才能を持った若者がたくさんいます。インターンシップからでも、いきなりの正規採用でも、ストリート枠でも、色々なチャンスと社会人としての成長機会をアクションスポーツの出身者に与えてみることは、企業のダイバーシティ(多様性)や社会的意義としても大変大きな注目を集めるのではないでしょうか。

例えばレッドブルなどでは、こうしたシーン出身の人材がユニークネスを発揮して、マーケティングなどでよりエンゲージメントの高い企業活動を成功させています。2030年代のオリンピックでは、すっかりアクションスポーツが世界中継の主役になっているかも知れません。その時にどういう活動が本当の「サポート」なのか、今一度振り返るタイミングではないでしょうか。

次回:アクションスポーツのためのマーケティング思考法とは | FINEPLAY INSIGHT 第三回

AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)
大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪やNPO法人設立を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール等の企業やブランドに対して、事業戦略やマーケティング戦略の策定と実施を行う。
現在、戦略ブティックBOX LLC代表、NPO法人Street Culture Rights共同代表、(公財)日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス部広報委員長。建築学修士および経営管理学修士。