前回に続き、さらに深い話を聞いていこうと思う。(前編はこちら>>https://sportsbull.jp/p/5402…

前回に続き、さらに深い話を聞いていこうと思う。(前編はこちら>>https://sportsbull.jp/p/540215/)
福岡ソフトバンクホークスの場内アナウンス・佐々木里紗さん(8年目)は、一体いつからアナウンスを目指し始めたのか。
アナウンスというより野球の仕事がしたかったんです。
この答えは意外であった。
「実はホークスのファンクラブであった父の携帯に、場内アナウンス募集のメールが届いたんです。それがきっかけです」
佐々木さんは高校時代、野球部のマネージャーをしていた。それもあって将来、野球に関わる仕事をしたかったそうだが、女性でそのような仕事はなかなか見つからなかった。
「本来はダメかもしれませんが、記念受験みたいな感じで受けました(笑)」
それで受かるのは偶然ではなく、必然であったのだろう。ちなみにだが、佐々木さんが採用試験を受けた2012年の倍率は約100倍だったそう。前職は市役所で勤務しており、さらに驚かされた。
では、その当時のアナウンス採用試験はどのようなものだったのか?
「試験は書類選考から始まり、面接と実技でした。あとスコアの書き方と簡単な野球のルールのテストもありました」

ただ、採用試験は毎年あるわけではないんです。
やはりだと言うべきか、予想はできた。採用枠は少ない為に、誰か欠員が出れば採用するシステムだそうだ。
「実は今年の採用試験を担当したんです。みんな熱意があり良かったですが、熱意があるが故に独学で勉強し変な癖をつけて採用試験に来る子が多いんです。あとなまりが強かったり、そうなるとまた一から癖を無くし、そこからホークスのやり方を教えることになるので採用しにくくなるんです」
納得できる答えであった。前回の話でも出たように、個性を必要とはせず、ホークスとしての伝統をいかに大切にしているかがわかった。
現在のホークスは5名で1軍から2・3軍までの全てのホームゲームでアナウンスをしている。佐々木さんは昨シーズンだけで、75試合もの試合を担当したそうだ。またオフシーズンは選手の野球教室でのMCなども行う。これに加え日々の練習、遠征などの帯同もある。想像していたよりもハードだと感じた。
そういえばホークスには、のどかな場所に突如として現れる、かなり豪華な2軍球場がある。やはり2軍になると、仕事としては少し楽なのか?

1軍より2軍の方が仕事量は多い!!
「2軍は1軍と違い全てを一人で行うんですよ。もちろんプレッシャーとかは1軍の方がありますが、2軍の方は全ての業務を一人で行うので、1軍とは違う意味で大変です」
1軍の場合はホークスの選手を男性DJが担当をする為である。2軍になると佐々木さんの声でのホークスの選手紹介が聞ける。この違いを聞きに行くだけでも2軍を観戦しに行く価値はある。
また2軍は選手とファンの距離も近い上に、観戦チケットが安いのだ。
話を戻し、では野球は試合中に色々と動きがある中で、一体アナウンスの方はどこを中心に見て仕事をしているのか。

実は試合というよりも審判さんを一番見ています。
そういえばよく見られていた気が…というのは冗談で、なぜなのか?
「私たちは審判さんのコールを見てアナウンスを入れたり、選手交代を見極めます」
全てのアナウンスは、試合の動きが一段落してから必ず入る。決してプレーしている時にはアナウンスは入らない。色々と奥が深い。
佐々木さんが経験した中で一番困った試合は、2014年の日本シリーズだそうだ。
阪神に対し3勝1敗と王手をかけた第5戦、9回表1アウト満塁。1-0でホークスがリードしており、あとアウト2つで日本一が決まる場面。秋山監督が辞任を発表した後の日本シリーズ、また勝てばこの試合が秋山監督の最後となる試合でもあり、ドーム内は日本一への異様な盛り上がりを見せていた。
佐々木さん自身も初の日本シリーズで緊張していたが、最後はダブルプレイが成立し日本一が決定した。ホッとしようとした瞬間、事件は起きた。
最後のアウトは西岡選手の守備妨害でのダブルプレイという、非常に珍しい形でのゲームセット。
ホークスナインが胴上げを始めようとした瞬間、阪神側の守備妨害への抗議が始まった。ホークスナインも胴上げを待っている状態。日本一決定のアナウンスを入れるタイミングは佐々木さんに全てを託された状態だったのだ。
「まぁ今となれば笑い話ですね(笑)当時は正直焦りました」
こんなエピソードも普通では決して体験できない、アナウンスならではの出来事だ。
最後に生まれ変わってもホークスの場内アナウンスになりたいですか、と聞いてみた。

できるチャンスがあるなら、生まれ変わってもしたい。
想像を超えるプレッシャーがある中で、本当に佐々木さんは場内アナウンスという仕事に「誇り」と「愛」を持っていると感じた。
多くの方はどうしても選手に注目する。それは仕方がないことである。しかし、表にあまり出ない「裏方」と言われる方も紛れもなく、プロフェッショナルである。そのような人にも少し目を向けては見てはどうだろうか。また新たなスポーツの楽しみ方に気が付くはずだ。間違いなくそこには『志事人』が存在する。
文:元プロ野球審判 坂井遼太郎