開幕から9試合負けなしと躍進を遂げ、その後もコンスタントに勝点を積み重ねて、一時は2位に10ポイント以上の差をつけて優…

 開幕から9試合負けなしと躍進を遂げ、その後もコンスタントに勝点を積み重ねて、一時は2位に10ポイント以上の差をつけて優勝街道を独走していた。ところが、シーズン終盤に突如失速。残り9試合で2分7敗という惨憺(さんたん)たる成績に終わり、川崎フロンターレに逆転優勝を許してしまった。

 昨季、サンフレッチェ広島に訪れた悲劇である--。



浦和戦で3得点に絡む大活躍を見せた森島司(右)

 失速の原因は、得点力不足にあったことは否定できない。9試合でわずか6得点しか奪えない攻撃面のパワーダウンこそが、昨季終盤の広島の大きな課題となっていた。

 就任2年目を迎えた城福浩監督のもと、今季の広島はその課題を修正しようと、システムを4-4-2から3-4-2-1へと変更。守備ブロックを構築しながら、ポゼッションの向上を目的とした変化であり、これは広島が3度の優勝を成し遂げた時期にも採用されていた布陣である。

 原点回帰とも言えるフォーメーション変更は、開幕から奏功していたように見えた。開幕2試合の清水エスパルス戦とジュビロ磐田戦は勝ち切れなかったが、第3節から怒濤の5連勝を達成。7試合負けなしで、失点はわずかに3つのみ。昨季と同様に、スタートダッシュに成功した。

 ただ、昨季を上回る強固な守備組織を備えた一方で、ポゼッションの向上という大テーマをクリアできていなかった。第8節にFC東京との首位攻防戦に敗れると、そこからまさかの5連敗。この間わずかに1得点という貧打が浮き彫りとなり、昨季と同様の停滞感がこのチームに漂い始めていた。

 そんななかで迎えた、第13節の浦和レッズ戦。このまま、ずるずると順位を下げてしまうのか。それとも上位に踏みとどまり、再浮上のきっかけを見出すことができるのか。広島にとって、まさに正念場の一戦と言えた。

 結論から言えば、広島は4-0と浦和を一蹴し、危機的状況を乗り越えた。いや、そもそも昨季のような危機的状況など、今季のこのチームにはなかったのではないか。

 試合は開始早々のMF森島司の一撃を皮切りに、怒濤のゴールラッシュを展開。実に4ゴールを奪っての快勝劇である。5試合で1得点の決定力不足はどこへやら。その要因のひとつに、選手起用が挙げられるだろう。

「5連敗の最初の頃とは、メンバーが代わっている。そういうなかで、今日に関しては代わった選手の特長が出た試合になった」

 そう語るのは、ボランチを務める川辺駿だ。そして「特長が出た」選手とは、先制点を奪った森島である。

 4年目を迎える22歳のアタッカーは、これが今季初スタメン。待望のJ1初ゴールとなる先制点で勢いに乗ると、25分にはCKからFWドウグラス・ヴィエイラのゴールをアシスト。さらに、63分には絶妙なスルーパスでMFハイネルのゴールもお膳立てし、実に3得点に絡む活躍を見せたのだ。

「今日はいいプレーができました。スペースがあったので、自分の持ち味を出せました」

 殊勲の森島は笑顔で振り返ったが、そのプレーの特長は鋭いドリブルにある。

 スペースがあれば果敢に仕掛け、相手の守備ブロックに風穴を開けていく。その積極性はリスクと表裏一体であり、失敗すればカウンターの温床になりかねない。したがって、リスク管理を徹底するこれまでの広島では、なかなかお目にかかれなかったプレーである。

 しかし、リスクを負わなければ、ゴールを奪うことは難しい。大胆不敵な森島のプレーこそが、広島の停滞感を振り払う要因となったことは間違いない。

 もっとも、5連敗中の広島と、この日の広島の戦いぶりに、大きな変化があったわけではない。内容は決して悪くなく、あと一歩という戦いが続いていたからだ。そのあと一歩を埋めたのが森島であり、ちょっとしたきっかけで復調できる要素はすでに備わっていたのだ。

 危機的状況ではなかったことは、選手のコメントからもうかがえる。

「去年の終盤は、ゲームをコントロールすることができなかった。今季は5連敗したけど、ゲームをコントロールしたなかで、点が獲り切れていない状況だった。そういう意味では、敗戦後の感覚は、去年とはまったく違うかなと思います」(川辺)

 指揮官も、連敗中の戦いをネガティブに捉えていたわけではなかった。

「我々の直近5試合は、自分たちの手応えと勝ち点が、どうしても一致しなかった。受け入れるのが非常に難しい、ここ5試合でした」

 何もできずに失速した昨季終盤の苦境と、手応えを掴みながらも結果がついてこなかった今季の5連敗。結果は同じように見えて、その中身はまるで異なる。その意味で、今季の広島は危機的状況に陥っていたわけではなかった。

 昨季との違いをさらに紐解けば、「若返り」というキーワードが挙げられる。森島だけでなく、日本代表に選ばれたGK大迫敬介とMF松本泰志、さらにはU-20ワールドカップに参戦中のMF東俊希、大卒ルーキーのDF荒木隼人ら、20歳前後の若手たちが主力として試合に絡んでいる。

 それには、ACLでの好結果も無視できない。広島はこのアジアの戦いで若手を積極的に起用し、グループステージの首位通過を成し遂げた。そのなかでアピールに成功した森島や荒木が、リーグ戦のメンバーに食い込んできている。

「ACLは、リーグ戦とはメンバーを変えて臨んでいました。ただ、ACLでがんばった選手は必ずリーグ戦のメンバーに割り込んでくると信じてやってきた。今日の彼(森島)の活躍は、ACLのメンバーに非常に多くの刺激を与えたと思います。この競争こそがチームの生命線なので、シーズンの中盤で強固なチームを作るためにも、彼の活躍はひとつの大きなトリガーになる」

 指揮官が言うように、今季の広島には絶対的なレギュラーが存在しない分、正当な競争が生まれており、若手が成長できる環境が整っているのだ。

 ボランチの川辺や、この日はメンバーから外れたMF野津田岳人も、20代前半のタレントだ。ここ数年、世代交代という難題を突きつけられてきた広島だが、ようやくそのテーマがいい形で現実のものとなっている。

 平均年齢30歳近い固定メンバーでACLとリーグ戦との両立に挑み、季節外れの暑さのなかで苦しんだ浦和のパフォーマンスとは、あまりにも対照的。3度の優勝を成し遂げたメンバーは少なくなったが、新たな時代を築こうとする若手が自らの存在を主張し、躍動する--。現在のサンフレッチェ広島の理想的な状況に、大きな希望を感じとった。