4月に行なわれた高校野球U-18の合宿で、高校生史上最速となる163キロを記録した大船渡高校(岩手)の佐々木朗希。日本のみならずメジャーのスカウトも視察に訪れるなど、注目度は増すばかりだ。そこで今回、メジャーでプレーする選手、関係者に…

 4月に行なわれた高校野球U-18の合宿で、高校生史上最速となる163キロを記録した大船渡高校(岩手)の佐々木朗希。日本のみならずメジャーのスカウトも視察に訪れるなど、注目度は増すばかりだ。そこで今回、メジャーでプレーする選手、関係者に佐々木の映像を見てもらい、感想をもらった。

話を聞いたのは、元日本ハムの監督で、現在マイアミ・マーリンズのコーチであるトレイ・ヒルマン、メジャー最速となる105マイル(約169キロ)を記録したジョーダン・ヒックス(セントルイス・カージナルス)、そして2017年にメジャー9番目の早さで1000奪三振を達成したクリス・アーチャー(ピッツバーグ・パイレーツ)の3人だ。彼らの”佐々木評”とは?



高校生史上最速となる163キロをマークした大船渡高校の佐々木朗希

トレイ・ヒルマン(元日本ハム監督/現マイアミ・マーリンズコーチ)

―― 佐々木朗希投手の印象は?

「いい顔をしている。謙虚な顔だ。この映像からしかわからないが、伝わってくる才能や成功を考えれば、かなり謙虚に見える。それが第一印象ですね。あの年齢で、しかも才能があればあるほど態度が大きくなるものだけど、彼にはそれが見えない」

―― 映像を見て、彼のどんな才能が見えましたか。

「えげつない球。フォームがきれいで、スムーズに流れる。しかも腕の振りもいいし、ボールに回転をかける能力も高い。あの腕の振りから放たれる速球は、相手が高校生だと不公平だよ。レベルが全然違うんじゃないかな」

―― アメリカで佐々木投手と似ている高校生はいますか。

「長い間、アメリカの高校野球を見ていないので比べられない。ただ言えるのは、今のアメリカでは高校生の集中力を削ぐものがたくさんある。ビデオゲームなどはその最たる例だ。それに才能あるアスリートは、サッカー、アメリカンフットボール、バスケットボール、陸上など、たくさんの選択肢がある。最近はラクロスも人気があるし。季節が変わると違うスポーツをやってみたい気持ちになるみたいだ。

 それに対して日本は、野球ならそれだけに集中してやるだろ。そういう意味で、世界一の環境かもしれない。だから、佐々木みたいな青年が高校生になって、こんなボールを投げられるまで成長するというのは、日本だからだと思う。野球の才能を持っている子どもにとって、技術を磨き、成長するという意味では、日本の環境が一番すばらしいかもしれない」

ジョーダン・ヒックス(セントルイス・カージナルス)

―― 佐々木投手を見た印象は?

「フォームがすごくいい。とくに印象的なのは右足の使い方。右投手は、右足の使い方によって力が発揮されるんだ。ほとんどの高校生はまだそれを理解していないはずなのに、彼は完璧にそのことをわかっているように見える。私は高校生の時、右足の使い方なんてまったく理解していなかった。プロになって少ししてからやっとわかるようになった」

―― それは何年の話ですか。

「2015年にドラフトされて、球の速度と足の使い方の関係がわかったのは2017年のシーズン途中かな。翌年の2018年からメジャーに昇格した。だから、高校の時は足を使うなんて、まったく知らなかった」

―― 高校での球速はどれくらいでしたか。

「高校の時は最高で96マイル(約154キロ)だね」

―― 足の使い方を知ったことで、105マイル(約169キロ)まで投げられるようになった?

「もちろん、それだけじゃないけど。体の成長もあったし、どうやってその体を効率的に使うかを理解するようになったのが2017年のシーズン中なんだ。佐々木を見たら、僕が高校を出て2年後に覚えたことを、現時点ですでに理解している印象だね。技術も理解力も高いと思う」

―― 高校の時の身長と体重はどうでしたか。

「身長は今とあまり変わらない(190センチ)ぐらいかな。ただ細くて、185ポンド(約84キロ)だった。今は215ポンド(約98キロ)だね」

―― 意識して体重を増やしたのですか。

「意識した部分もあったし、自然に体が身長に追いついていった部分もあった」

―― ルーキーイヤーの昨年、シーズン最速となる105.1マイルの球を投げました。しかも1球だけではなく、同じバッターに5球中全球が103マイルを超えるボールでした。

「理由は2つあるんだ。まずひとつは、先発したジャック・フラハーティがすごくいいピッチングをして交代になった。マウンドを降りる時、セントルイスのファンから熱狂的なスタンディングオベーションを送られていて、それを見て気合いが入った。ジャックのために勝利を守りたかった。

 もうひとつは、相手バッターが打席に入るまでにすごく時間がかかったんだ。オドゥベル・ヘレーラ(フィラデルフィア・フィリーズ)だったんだけど、片足だけボックスに入れてすごくゆっくり準備をしていたんだ。それですごくイライラして……絶対に打たれたくないと思った。そこからもエネルギーをもらったんだ」

クリス・アーチャー(ピッツバーグ・パイレーツ)

―― 佐々木投手の映像を見て、どんな印象を持たれましたか。

「えぐい……18歳で101マイルを投げるなんて、本当にえぐい。5年後にどんなピッチャーになっているのか、末恐ろしいよ」

―― ピッチングフォームについてはどうですか?

「非常にいいです。下半身と上半身が連動している。とても18歳には思えない。動きがスムーズで感動したよ」

―― 佐々木投手にアドバイスを送るとしたら?

「高校生でありながら、そこまで成長しているというのは、一生懸命野球をやってきた証なので、これからもやり続けてほしい。アドバイスというより、酷使しないように、指導者がしっかりと彼の成長を見守ってほしいと思います。まだ18歳ですし、これからもっと成長するはず。特別な才能を持っていると思うので、長いキャリアを過ごせることを願っています」

―― あなたは子どものために慈悲活動したり、寄付したりすることで有名ですが、佐々木投手は2011年に起きた東日本大震災で父親を亡くされました。父親の思いも込めて野球に打ち込んできたと思います。

「ええっ、そうなのですか。それは非常に悲しい話です。大変だったと思います。それでも野球に打ち込み、ここまで成長しているというのはすごいことだと思いますし、気が強いのでしょう。お父さんのためにも頑張ってほしいですね。彼のお父さんは、絶対にここまで頑張ってきた息子のことを誇りに思っているはずです」