ヨーロッパラウンド開幕のスペインGPには、ほぼすべてのチームがアップデートを持ち込んでくる。開幕からの遠征が終わり一段落のついたこのタイミングで、シーズン中盤戦を戦うために車体の空力やメカニカル面、そしてパワーユニットに大きな改良を加…

 ヨーロッパラウンド開幕のスペインGPには、ほぼすべてのチームがアップデートを持ち込んでくる。開幕からの遠征が終わり一段落のついたこのタイミングで、シーズン中盤戦を戦うために車体の空力やメカニカル面、そしてパワーユニットに大きな改良を加えてくるのだ。

 今年は前後ウイングなど空力レギュレーションが変更されただけに、どのチームも伸びしろは大きい。つまり、開発競争の勝ち負けは例年以上に大きな意味を持つことになる。



ウイングなどにアップデートを投入してきたレッドブル・ホンダ

 ホンダは前戦アゼルバイジャンGPで一足先にスペック2のパワーユニットを投入し、信頼性と性能を向上させてきた。そして今週末のスペインGPでレッドブルは、前後ウイングやフロアなどにアップデートを投入することになる。

 しかし、これが勢力図をガラリと変え、レッドブル・ホンダがメルセデスAMGやフェラーリを抜いてトップに立つとは思わないほうがよさそうだ。

 それほど大きなアップグレードではないと、マックス・フェルスタッペンは冷静に語る。

「上位2チームとのギャップが小さくなればと思っているけど、正直言って今回のアップグレードで彼らを追い越せるとは思っていない。ただ、どんな小さなアイテムでもパフォーマンスをもたらすことは間違いないから、僕としては喜んで使いたいけどね。ライバルたちもアップグレードは持ち込んでくるはずだから、僕らのアップグレードのほうが少しでもうまく機能してくれることを願っているよ」

 当然ながら、メルセデスAMGやフェラーリもアップデートパーツを投入してきている。とくにフェラーリは、第7戦・カナダGPで投入予定だったスペック2のパワーユニットを前倒しして持ち込み、開幕から4連敗を喫しているメルセデスAMGに対して反撃に打って出るつもりだ。

 レッドブルにとっては、彼らの向上幅以上のものを持ち込まなければ、追いかけるどころか引き離されてしまうことになる。

 開幕戦で3位表彰台を獲得した後は、3戦連続で4位と、表彰台に手が届かないレースが続いている。再び表彰台に舞い戻るためには、2強より大きなアップグレードで彼らの間に割って入らなければならない。

「フェラーリが思っていたほどコンペティティブではないのは驚きだけど、メルセデスAMGだってマシンをインプルーブ(改善)させるために必死で開発を進めているはず。バーレーンではメルセデスAMGがラッキーで優勝したけど、それ以外の3戦は非常にコンペティティブだったし、ミスもなかった」(フェルスタッペン)

 ただし、見た目ほど大きな差があるわけではない、とも語る。

「実際のところは、それほど(差は)大きくはない。バクーでも、第2スティントでは僕らが最速だった。問題は予選だけど、バクーではトウを使わずにあのタイムを記録したので、それができていれば0.3~0.4秒は稼げたはず。つまり、実際の差は0.2秒ほどだったということになる」

 レッドブルが開幕から抱えていたリアの不安定さはかなり解消してきたものの、タイヤに優しいがゆえに熱が入りにくいという特性は、依然として課題であり続けている。ただ、ダウンフォースが増えればタイヤへの入力が増え、熱も入りやすくなり、その問題は解決に向かうとみられている。

「タイヤのことを完璧に理解するのはかなり難しいし、とくに今年は市街地サーキットがトリッキー。バクーではウォームアップするのがものすごく難しかった。ここのサーキットではそこまで苦労しないだろうけど、それでもタイヤを正しいウインドウ(適正温度)に入れるのは難しいだろう」(フェルスタッペン)

 これは今季、多くのチームが直面している問題で、とくにハースは予選でQ3に進むなど中団グループトップの速さを見せているにもかかわらず、タイヤを適正作動温度に持っていくことができず、決勝では大きくデグラデーション(性能低下)が進んでしまっている。メルセデスAMGですら、「マシンにポテンシャルがあるのはわかっている。それを引き出せるかどうかは、タイヤをきちんと機能させられるかどうかだ」(トト・ウォルフ代表)と言うくらいだ。

 そう聞けばタイヤがすべてなのかと考えがちだが、レースでプッシュし続けられる硬めのコンパウンドタイヤは投入されており、それにしっかりと入力をかけて熱を発生させるためには豊富なダウンフォース量が必要になる。また、前後バランスの調整できる幅も広くなければならない。

 結局は、マシンの空力性能がモノを言う。それがF1なのだ。

 その点、今のレッドブルはかつてのような圧倒的な空力性能を誇る最速シャシーではなく、空力性能でもライバルを追う立場になってしまっている。昨年のモナコではMGU-K(※)が壊れ、120kw(約160馬力)のパワー差を背負ってでも勝ってしまったレッドブルだが、今年はこのままではモナコでも勝つのは難しそうだ。

※MGU-K=Motor Generator Unit-Kineticの略。運動エネルギーを回生する装置。

「シーズン前半戦で勝つことはできるのか?」と聞かれたフェルスタッペンは、こう答えた。

「間違いなくいずれチャンスは来るだろうから、モナコではコンペティティブであってくれれば。でも、僕らがやるべきことはまだまだたくさんある。それは間違いない」

 パワーユニットに関しても、フェラーリがスペック2を投入してきたことで再び差を広げられ、ルノーも新スペックによってホンダを上回ってくる可能性もある。

「例年、ここ(スペインGP)では何チームかが新スペックを投入するのは予想していたことですけど、その中味に関しては明日走ってみてからでしょう。最終的にはどこのチームが伸びてくるのか、それとも変わらないのか。それが見えてくるのは予選・決勝になってからだと思います」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはそう語る。

 ホンダは、開幕仕様のスペック1に信頼性の懸念が見つかったため、第4戦でスペック2を投入することになった。そのスペック2も性能向上はほとんどなく、信頼性確保のための改良にとどまっている。フェラーリやルノーの開発の成否によっては、ホンダは次のスペック3投入まで苦しい戦いを強いられる可能性も十分にある。

 想定よりも早くスペック2を投入しなければならなかったがために、ホンダ勢は金曜フリー走行では基本的にスペック1を使用し、スペック2の走行距離をセーブすることもやらなければならない。

 さまざまな速度域のコーナーが存在するバルセロナでは、マシンパッケージの総合的な力が問われる。スペインGPの予選は、開幕からここまでで最もトータルの車体性能がはっきりと評価される機会となる。

 またそれは、開幕から約2カ月間の努力と成長が問われる二次試験でもある。ヨーロッパラウンドに突入したここから先は、その勢力図のまま、あっという間にシーズンが進んでいくことになるだろう。つまり、シーズン中盤戦の行方を占う重要な局面なのだ。

 ここでレッドブル・ホンダがどのような戦いを見せるのか、ぜひとも注目してもらいたい。