ただ、黄色い的の中心だけを見つめる。石川竜也選手(近畿大学)が弓を引き絞った。鋭く放たれた矢は、無駄のない弧を描き吸い込まれるように的に刺さった。アーチェリーは大きく「ターゲットアーチェリー」と「フィールドアーチェリー」に分けられる。山野に…

ただ、黄色い的の中心だけを見つめる。石川竜也選手(近畿大学)が弓を引き絞った。鋭く放たれた矢は、無駄のない弧を描き吸い込まれるように的に刺さった。アーチェリーは大きく「ターゲットアーチェリー」と「フィールドアーチェリー」に分けられる。山野に設置された的を狙うフィールドアーチェリーとは異なり、石川が取り組むターゲットアーチェリーは、屋内(インドア)もしくは屋外(アウトドア)の平らな場所に設置された的を狙う。アウトドアアーチェリーの場合は天候に左右されるため、より高度な技術が求められる。最も重要なのは緊張しないこと。緊張して余計な力が入れば、それがダイレクトに弓に伝わって結果に反映されてしまう。試合の時こそ普段通りを意識し、満点である10点を常に目指すことで、石川は好成績を残してきた。

初めてアーチェリーを見たのは中学校の部活動紹介。的の真ん中に矢を当てる、というシンプルなルールに惹かれた。しかし、これが最も難しい。入部当初はうまくいかなかったが、コツをつかむことで調子や成績が向上していった。大学入学後は日本代表にも選出された卒業生たちに刺激を受けたが、競技を極めていくうちに不安になった。自分は周囲についていけているのだろうか。もうやめたい。競技から離れたい。高校時代より低くなった点数を見た時、負の感情が石川の胸にこみ上げた。そこで逃げなかったのは、「0.1%でもアーチェリーを好きな気持ちがあったから」。もう一度、競技と向き合った。

※70m先に設置された的へ狙いを定める石川

再びアーチェリーに集中するようになってから、石川は変わった。「勝ちたい」という気持ちすら、もしかしたら雑念なのではないか。アーチェリーは精神状態によって左右される競技だ。ひたすら無心になり、目の前の的だけに集中することで、彼はさらなる強さを手に入れようとしている。

直近の目標は「11月に行われるオリンピック代表選考会に出ること」。現在、日本のアーチェリー界は次世代の選手育成が課題だ。「未来の日本のエースになって欲しい」という願いを、山田秀明監督は彼に託そうとしている。今までは感覚的にコツを掴んできたが、身体の使い方、筋肉の動きを理解できるようになれば次のステップに進めるはず。近畿大学から世界で戦うKINDAIの選手へ。石川の夢が、五輪への切符という名の的を射抜こうとしている。

※大学アスリート1日密着動画「THE STARS」にて、石川選手を特集しています。
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石川竜也(いしかわ・たつや)
山形県出身。176センチ、58キロ。山形県立鶴岡南高校を経て、現在は近畿大学経営学部2年。2018年10月に開催された、全日本学生アーチェリー個人選手権大会男子部門を当時1年生ながら制した。どんな時も動じず、平常心を保つメンタルの強さが持ち味。男子部門40連覇中の名門校を、中心選手の一人として牽引する。