取材=鈴木栄一 構成=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

チーム再編には痛みは付き物、チャンピオンシップを逃す

2018-19シーズンはシーホース三河にとって厳しい1年となった。橋本竜馬と比江島慎、長く主力を務めたガードコンビが揃って移籍を選択し、十分な補強もできないまま開幕を迎えると、まさかの5連敗スタート。その後は持ち直したものの、過去2シーズンで46勝、48勝を挙げた『常勝軍団』の盤石の強さはなかった。上位チームに勝ちきる試合もあれば、下位チームにあっさり敗れる試合もあるなどパフォーマンスが安定しない。それでも何とか自力でチャンピオンシップ進出を決められる位置につけていたが、最終節にホームで連敗したことで、その可能性も潰えた。

レギュラーシーズン60試合で31勝29敗。チーム再編には痛みは付き物だが、これほど痛い思いをするとは誰も思っていなかったに違いない。

シーズン最終戦を終えて、鈴木貴美一ヘッドコーチは安定しない戦いぶりを「ダメな時に頑張れるチームが強いチーム。これまではそうでしたが、今年は違うチームになってしまった」と表現した。ケガ人が相次いだことも「チームの実力不足。余裕があればプレーにも余裕が出るので、ケガはなかなかしない。追い詰められて一生懸命になってケガをする。それも実力」と語る。

それでも、厳しいシーズンなりにチーム作りの面での収穫はあった。シーズン途中に加わった岡田侑大と熊谷航をスタメンに据えて、経験を積ませることにシフト。「天皇杯が終わった直後からギャンブルに出て、彼らを使いました。そこがどれだけ成長するかにかかっている。ポイントガードとシューティングガードはチームの心臓部ですから、そこが新しくなって苦しみました。彼らがどれだけバスケットを熟知して、接戦でしっかりフィニッシュできるところまで持っていくかが来シーズンのポイントになります」

鈴木ヘッドコーチは続ける。「その2人は本当に成長したし、チームのことを理解しようと努力してくれた。僕にとっては彼らに期待した分、いろんなリスクがありました。それで試合に出れない選手もいるし、コーチを嫌いになる選手もいます。でも僕はその覚悟で日本を背負っていくような選手を育てることにした。それは後悔していないし、応えてくれた彼らは立派だと思います。彼らのファンになった人も多くて、『岡田君のプレーが面白い』、『熊谷君は小さいのにすごいね』という声をたくさんいただきました。それが今シーズンの良かった点です」

金丸の受難「やりたいプレーは全くできなかった」

三河がレギュラーシーズン最終節を終えた時点では他の試合が残っており、プレーオフ進出の可能性は残されていた。しかし、チームの誰にも他力本願の気持ちはなく、連敗した時点でチャンピオンシップ出場がないことを感じ取っていたようだ。そんな中、鈴木ヘッドコーチの言う『リスク』について、ありのままの気持ちを語ったのがエースの金丸晃輔で、「一言でいうとモヤモヤしたシーズンでした。ほとんどうまくいかなかったです」とシーズンを振り返る。

「うまく行かないだろうとは思っていましたが、シーズン途中でメンバーが代わったのが僕にとっては大打撃でした。築き上げたケミストリーがまた振り出しに戻って、それは正直、相当キツかったです。僕はパスの精度、スクリーンの精度と小さいことを大事にしていて、そこをしっかりしないと良いプレーは生まれないと思っている。その共通理解が全くできなかった。やりたいプレーは全くできなかったです」

若手育成の『ギャンブル』には負の側面もある。序盤戦は三河での在籍が長い加藤寿一、日本代表経験を持つ西川貴之、若い生原秀将がプレータイムを得ていたが、岡田と熊谷を育てると決めたことで彼らはベンチに回った。それは特に生原の起用法に顕著で、開幕から46試合続けて先発ポイントガードとして起用されながら、スタメンを外れた後の14試合でのプレータイムは合計で28分しかなかった。シーズン終了から1週間後、生原は自由交渉選手リストに載った。

岡田と熊谷に切り替える前と後で、チームの勝率はさほど変わらない。ただ、三河の勝負強さの肝であった連携がなくなったことで、主力選手はフラストレーションを溜める結果となった。金丸は続ける。「後半戦の前にメンバーが代わり、そこから平日の試合が多くて練習が全然できなかった。チームプレーをするには練習が必要です。結果に対してもストレスはありますが、一番思うのは今まで僕らが普通にやってきたバスケットができなかったことです」

その金丸は、アキレス腱の痛みを抱えながらも52試合に出場。1試合平均17.9得点、フィールドゴール成功率は45.3%と、Bリーグになってからの3シーズンで最も良い数字を残しているが、本人の手応えは「全然」とのこと。「パスのタイミングとか、ここにパスをするとここが空く。そういう予想をしたオフェンスが全くできていなくて、パスしてダウンスクリーンで、スペースを使ったシュート。ほとんどそれしかやっていない。それで何とかボールをもらって、ディフェンスとの間合いを作ってねじ伏せた感じです」

指揮官は「非常に苦しいながらも、幸せなシーズン」

金丸の厳しい言葉は、選手の多くの気持ちを代弁したものだろう。鈴木ヘッドコーチもそれは理解しており、「新しい選手の伸びしろを信じてやった結果、良いケミストリーが少しはできました。ただ、その過程においてスタートが代わったので、選手は大変だったと思います。3回も代えたのでは、正直できるはずがない」と、選手たちの苦労を認めてはいる。

それと同時に、決意を持って実施したチーム刷新でもあった。「前からいる選手を使えば、多分もうちょっと勝てた。ギリギリでプレーオフにも進出できたと思います。ただ、僕は何を言われてもいいと思って、岡田君と熊谷君を育てなければこのチームは前に進まないと考えました。当然、パスのタイミングが合わないとか、ミスが出るとか、前からいる選手たちはやりづらさを感じたと思います。ただ、チームがもっともっと先に行くには必要な選択でした」

だからこそ、鈴木ヘッドコーチは選手たちの姿勢を称える。「3回ぐらいスタートを代えた中で本当に選手が良くやってくれたと思います。プライドも含めて不満もあるでしょうが、その部分では誰も態度が悪くなかった。全員です。そういった意味で非常に苦しいながらも、幸せなシーズンでした。こういうプレッシャーの中でみんなと一緒に勝負に挑むっていうことが、非常に幸せなことだと思っています」

「何回も心は折れました。何回折れたことか……」

もっとも、選手にとっては決して長くない選手キャリアの1年1年が勝負である。シーズン終了まではプロフェッショナルとしての責任を果たし、次の選択として移籍を選ぶ者もいる。では、エースの金丸はどう考えているのだろうか。

「何回も心は折れました。何回折れたことか……」と、金丸は苦しかったシーズンを振り返る。それでも「折れてやらなくなったら、ちゃんとしなかったら良いことはないので。折れた試合も正直いくつかありました。でもプロとしてちゃんとやらなきゃ、という繰り返しです。腐ったら負けなんです。腐って何もやらなくなったら自分に負けてしまう。そう考えながら60試合をやってきました。それを乗り越えたことで、精神的に少しは強くなれたと思います」

三河にとって再起の年となる来シーズンに向け、金丸はこう話す。「どんなメンバーになるかも分からないので、どういうチームにしていくべきかは集まったメンバーで判断したい。でも、チームプレーは徹底したいです」

『常勝軍団』復活のために、やることはまだまだ多いが、ひとまず今シーズンは60試合のみで終了。それぞれが様々な思惑を抱えて、予定より早いシーズンオフを迎えている。