「可愛すぎる」「美人すぎる」と騒がれたのは、いつのことだったか。最近は、その名前をすっかり聞かなくなった。 森美穂(26歳)のことである。 1992年生まれで、同学年にはレギュラーツアーで活躍するプロがたくさんいる。成田美寿々をはじめ、福田…

「可愛すぎる」「美人すぎる」と騒がれたのは、いつのことだったか。最近は、その名前をすっかり聞かなくなった。

 森美穂(26歳)のことである。

 1992年生まれで、同学年にはレギュラーツアーで活躍するプロがたくさんいる。成田美寿々をはじめ、福田真未、葭葉ルミ、香妻琴乃、青木瀬令奈ら、ここ数年の間、女子ツアーを引っ張ってきた”中堅”世代だ。

 森は今、そこからポツリと取り残された感がある。



厳しい状況にある森美穂

 アマチュア時代から「美少女ゴルファー」として脚光を浴び、2015年に念願のプロテストに合格すると、「美人プロ」としてあらためてその活躍が期待された。ただそれは、容姿だけでなく、アマチュア時代からの実績があるからだ。

 2005年から中部ジュニア(12歳~14歳の部)で3連覇を達成。2007年からはナショナルチームの一員としても活躍し、2009年には日本ジュニア選手権(15歳~17歳の部)も制している。そして、プロツアーに出場した際には、何度となく予選突破を果たしてきた。

 そんななか、やや歯車が狂い始めたのは、2011年にアマチュア資格を放棄してプロ宣言してからだ。TPD(単年登録)によって2013年からツアーに参戦するも、思うような結果を残せず、レギュラーツアーと下部のステップ・アップ・ツアーを行き来する戦いが続いた。

 その間、プロテストには4度も失敗している。晴れて合格を勝ち取ったのは、前述したとおり2015年。5度目の挑戦での悲願達成だった。そして、同年のファイナルQTで44位となって、翌年のツアー出場権を得た。

 しかし、実質”ルーキーイヤー”となった2016年シーズン、周囲の期待に応えることはできなかった。31試合に出場するも、開幕から11試合連続予選落ちを喫するなど、トータル23試合で予選落ち。目標の賞金シードを獲得できず、2017年シーズからはステップ・アップ・ツアーが主戦場となった。

 以降、ステップ・アップ・ツアーでも苦しい戦いが続いている。ゴルフがうまくかみ合わない状態が続いて、2018年シーズンにはレギュラーツアー出場4試合のうち3試合で予選落ち(1試合は棄権)。ステップ・アップ・ツアーでも10試合に出場して予選落ち4回、棄権が1回あって、パッとした成績を残せずに終わった。

 それでも、昨季まではプレーする場所があるだけ救いだった。QTランキング306位という今季、レギュラーツアーはもちろんのこと、ステップ・アップ・ツアーの出場さえままならい状況にある。

 そんな森が、ステップ・アップ・ツアーの開幕戦に出場。話を聞いてみた。

「今年はQTランキングで出られる試合がないので、主催者推薦されて出られる試合があれば、そこにチャレンジすること。あとは、マンデートーナメント(レギュラーツアーの出場権を得られる予選会)にどんどん出場していきます」

 厳しい現状にあるが、久しぶりに見た彼女の表情は意外とハツラツとしていた。

 話を聞くと、昨年末から大山志保などを教えていたこともある、韓国系アメリカ人のユン・ジェイコーチから指導を受けているという。

「ずっと誰かに自分のスイングやプレーを『見てもらいたいな』と思っていたのですが、なかなかそういう方がいなかったんです。ジェイコーチは過去にいろいろな選手を見てきた方だということで、大山さんに話を聞いてみたんです。それをきっかけにして(ジェイコーチに)声をかけさせてもらいました」

 そう語る森の声は、心なしか明るかった。少しずつ、何か新たな”気づき”があるのかもしれない。

「(ジェイコーチは)細かいことを言う人ではなく、試合を想定した実戦的なプレーの中でのことを教えてくれます。こうなったらこうなるとか、そのときの考え方とか、いろいろなケースを想定して指導してくれ、試合の中で実際に使えることがすごくたくさんあります。そうした(プレー中の)考え方とか、対応の仕方とかがメインで、スイングに関してはシンプルなポイントを教えてくれる感じです」

 ジェイコーチの指導によって、今では練習ラウンドでも常に実戦を意識したプレーを心がけているという。

 彼女は現状に嘆いたり、腐ったりしてはいなかった。先を見据えて、やる気に満ちていた。その姿には、少々驚かされた。

「これからの目標ですか? 絶対に優勝したいので、そこは諦めていません。今置かれている状況ではなかなか難しいかもしれませんが、出られる試合があれば、どの試合でも優勝を目指してやっていく、という気持ちはあります。

 そのためにも、また『レギュラーツアーに戻りたい』『その舞台に立ちたい』という思いが強いです。ですから、今年こそは『QTを絶対にクリアする』というのが、一番の目標です」

 チャンスが限りなく少ない現状にあっても、「がんばれば状況は変わるし、悲観的に考えていません」と、森は前向きな姿勢を崩さない。

 このオフには、昨季初のツアー優勝を遂げた同学年の香妻とラウンドする機会があったという。

「こっちゃん(香妻)の優勝は、よかったですね。ずっと期待されながら、なかなか勝てなかったですし。優勝したら、周囲のみんながとても喜んでいた姿を見ながら、私も『本当によかったな』と思いました。私も同じ光景が見せられるようにがんばりたいです」

 苦労をともにしてきたからこそ、香妻の気持ちが痛いほどわかる。そして、”次は自分の番”--森は、自らにそう言い聞かせているようだった。

 彼女はまた、今年は「健康第一でシーズンを過ごしたい」と言って笑った。

「今は本当に元気なんですよ。なんなら、『今が一番元気!』っていうくらい(笑)。昨年は首が痛くなったりして、1カ月半くらいゴルフができなかった時期もあったので、それからすると、今は心身ともにすこぶる健康です(笑)。そうした状態を維持して、今年は”健康第一”でいこうと思っています。体の調子が悪くなると、気持ちも下がってしまうので」

 コンディションは万全だ。その状態を生かして、出られる試合に出場し、来季の出場権を勝ち取るための準備を進めていく森。最後にこんなことも言っていた。

「(私は)周囲に期待してもらって、自分にプレッシャーを感じたほうがうまくいくタイプかもしれません。だから、自分にどんどんプレッシャーをかけていきたいし、あらためて多くの人に注目されてプレッシャーをかけてもらえるようになれたらいいな、と思っています」

 現状を踏まえれば、目標のQTを突破して来季の出場権を獲得することは、決して簡単な道のりではない。それでも、今の彼女からは、それを実現しそうな活気が感じられる。

 無論、彼女の戦いはそこで終わりではない。再びレギュラーツアーの舞台に戻ってきたとき、森美穂の本当の勝負が始まる。