蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.62 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカ…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.62

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎--。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回のテーマは欧州CLの準々決勝レビューと準決勝プレビュー。マンチェスター・シティとの激戦を勝ち上がったトッテナムの戦力を分析します。

--今シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)は、トッテナム(スパーズ)、アヤックス、バルセロナ、リバプールの4チームがベスト4に勝ち上がりました。そこで今回は、お三方に準々決勝を振り返っていただきつつ、準決勝2カードを展望していただきたいと思います。まずは、4月30日(日本時間5月1日早朝)に第1戦が行なわれるトッテナム対アヤックスからお願いします。小澤さんは、現地で準々決勝を取材されたそうですね。

小澤 はい。トッテナム対マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド対バルセロナは、第1戦と第2戦の両方を現地取材してきました。

倉敷 トッテナムの新スタジアムはいかがでしたか?



CL準々決勝第2戦で2得点のトッテナムのソン・フンミン

小澤 すばらしい雰囲気でした。最近の大規模スタジアムは、アトレティコ・マドリーのワンダメトロポリターノもそうですが、大きいがために客席の傾斜が緩やかだったり、 声援が外に抜けてしまったり、熱気が薄まってしまったりするケースが多いと思いますが、スパーズのスタジアムは観客の声援が反響するんです。

 サポーターの歌声や声援が選手にダイレクトで伝わるという点で、とても優れていると感じました。スタンドの傾斜も国内の建築法で可能な最大の角度になっているそうで、観戦しやすさという点でも最高レベルだと思います。

倉敷 現地に行った人でないと知り得ない重要な情報ですね。スタジアムの良し悪しは、ピッチ状態云々よりも、いかにスタンドにいるサポーターの情熱が伝わるかがポイントです。予定よりかなり工期は伸びましたが、スパーズは「待って良かった」ということになりますね。

中山 たしかスタジアムに焼きたてのパンが食べられるベーカリーがあるとか。

小澤 そうらしいですね。ただ、観戦時に存在を確認できませんでしたがパン屋さんはありました。ほかにも、試合当日は稼働していませんでしたが、スタジアム内にはクラフトビール工場もあったりして、とにかくエンターテインメント性の高いスタジアムでしたね。スパーズにとっては、CLの大一番で新スタジアムを使えたというのは大きかったのではないでしょうか。

倉敷 壮絶な戦いの末にトータルスコア4-4でスパーズが勝ち上がった同国対決。現地で観戦した小澤さんが気付いた点はまずどこですか?

小澤 ポイントは、第1戦のペップ・グアルディオラ監督の選手起用にあったと思います。なぜあそこでターンオーバーを敷く必要があったのか? なぜフェルナンジーニョとギュンドアンをダブルボランチにした4-2-3-1を使ったのか? ダブルボランチのシステム、戦術が機能せず、失点した後もなぜ89分までケビン・デ・ブライネ、レロイ・サネの投入を待ったのか。そのあたりが解せなかったです。

中山 ペップの采配で言うと、第1戦では負けていたにもかかわらず、89分まで交代カードを2枚も残していました。失点は78分だったことを考えても遅すぎると思いますし、あの時間帯での2枚代えからは反撃の意欲が感じられません。おそらく1点差の敗戦ならホームで勝てると踏んでいたのでしょうね。

倉敷 四冠を狙っていたシティにとって、残された試合の中で唯一負けてもカバーが可能だったのがこのCL第1戦だったのではないか、それゆえにターンオーバーを採用して、システムも変更したのではないかと指摘されていましたね。

小澤 スペインでは、第2戦の前にペップが「自分はチャンピオンズリーグを獲るためにシティに来たわけじゃない」とコメントしたことが、試合前の言い訳に聞こえるということで話題になっていました。たぶんペップは、CLはそのときのコンディションなどに左右されるノックアウト方式の大会であって、それよりも長いシーズンを戦うリーグ戦で勝つことのほうが本当の勝者が決まる、価値は高いと言いたかったのだと思いますけど、第1戦の選手起用を見ていると、その哲学が選手たちにうまく伝わっていなかったのではないかと感じました。

 それと、第2戦は壮絶な打ち合いになったことで、ペップが選手をコントロールできなくなっていました。ああなってしまうとペップも何もできないことを目の当たりにして、若干ペップの限界を感じましたね。たぶん自分が手なずけられる選手たちでチームを作るという意味では、今のシティは完璧に近い作品だと思うんですけど、CLを制するためには違う次元の選手がいないと難しいと思いますし、今後ペップがそれを受け入れてチームに特別な選手を迎え入れるのかどうか、そこは個人的に楽しみに見たていきたいと思います。

中山 それにしても、やっぱりシティは勝てなかったですね。あれだけの投資を続けて戦力を揃えていながら、また勝負弱さを露呈してしまいました。

小澤 スペインのメディアでも、「結局、ペップはメッシがいないと勝てない」と言われています。バイエルンで3年、シティ3年と、メッシのいるバルサを去って6年もCLを勝っていないという記事が出ていました。

倉敷 どこの国のリーグでも総合力で他チームを凌駕し、高い完成度を誇るチームを作れるペップですが、ノックアウト形式の戦いにおいては肝心なところで敗退するケースが目立ちます。ペップは自己中心的な大エースという意味で使うプリマドンナタイプの選手をよく思っていない様子ですが、それゆえに大きなゲームを動かす手段に限界を感じることもあります。大きなギャンブルができる監督ではないし、スーパーなモチベーションを与える特別な言葉も近年は持ち合わせていない様子ですね。

中山 たしかにシティはマヌエル・ペジェグリーニ監督時代の2015-16シーズンに準決勝に進出していますけど、ペップのシティに限って言うとベスト8の壁をまだ破っていないんですね。バイエルン時代も3季連続ベスト4。ペップにとっては、なかなか厳しい現実ですね。

 もちろん2試合を振り返ると、たしかに勝敗は紙一重だったとは思います。第1戦は1-0でホームのスパーズ、第2戦は4-3でシティが勝ちましたが、最後はアウェーゴールというギリギリの差でスパーズが勝ち上がったわけですから。それに、もし第1戦の序盤のPKをセルヒオ・アグエロが決めていれば、結果は違っていた可能性も十分にあったわけですし。

倉敷 慎重なペップがあの場面でアグエロにPKを任せたのは宝くじを買ったのだな、と思いました。最近チャンピオンズで優勝できないペップがこの先まで勝ち進めるかの運試し、なにかのプラスアルファを欲しがったのではないでしょうか。アグエロはPKをよく外します。他の人に蹴らせれば問題なかったところを、あえてアグエロで決めて運を引き寄せたかったけれど、結局、その小さな賭けに負けたところが勝敗の分かれ道だったように感じます。

 もうひとつ、ペップのチームは中心選手のバイオリズム、好不調の波が他のチームより大きいように感じます。たとえば、今回はアイメリク・ラポルテがとても悪い状態で、第2戦では彼のミスがソン・フンミンの2ゴールの原因になりました。ソン・フンミンは現在のスパーズの勢いの象徴ですから彼に決めさせてはいけませんでしたね。

中山 たしかに現在のソン・フンミンは別格ですね。2列目の左右中央、それに2トップや1トップでもプレーできて、スピード、強さ、そして何より決定力がある。昨シーズンの彼にも進化を感じましたが、今シーズンはまた一段上のレベルに行った印象です。とくに第2戦の立ち上がりに先制された直後に、連続2ゴールを決めてスパーズが逆転したときには鳥肌が立ちました。戦前は打ち合いになったらシティに分があると見ていましたが、それを覆すきっかけを作ったのが、ソン・フンミンだったように思います。

倉敷 そうですね。その舞台を作ったマウリシオ・ポチェッティーノの采配も見事でしたね。

中山 今シーズンは新戦力の補強をしなかったにもかかわらず、ケガ人が続出するなかでよくぞここまでの成績を残していると感心させられます。とくに第2戦では、試合の局面ごとに判断して、果敢なベンチワークを見せていました。システムもスタートは中盤をひし形にした4-3-1-2でしたが、立ち上がりから打ち合いが続くなかでデレ・アリのところがザルになっていたのを見て、2-2の後に4-2-3-1に変更してデレ・アリをトップ下、ビクター・ワニャマとムサ・シソコのダブルボランチにして修正を図っていました。

 ポイントになったのは、その直後に失点した後、前半41分にシソコが負傷交代したところにあったと思います。ここでポチェッティーノは、シソコに代わって守備力を維持するためにダビンソン・サンチェスを入れて5バックにする策ではなく、フェルナンド・ジョレンテを1トップに入れてデレ・アリをダブルボランチに移動させるという強気の采配を見せました。これまでポチェッティーノには守備力ベースの戦い方をするイメージを持っていましたが、ペップのシティに対してあの采配を見せたことは、いい意味で驚きでした。最終的には、その強気の采配がベスト4進出につながったような気がします。

倉敷 シソコが負傷したとき、ダビンソン・サンチェスという選択肢もありましたが、現地の小澤さんはどう分析していましたか。

小澤 他に駒が見当たらなかったので、あの場面ではジョレンテが出てくるだろうと思って見ていました。スパーズは選手層が厚くないですからね。

倉敷 スタジアムに大型ビジョンがありますが、どう活用されていましたか? この試合ではVARの是非が問われるデリケートなシーンが続出しましたね。

小澤 リプレー映像は見られないので、現場ではまったくわからないですね。トッテナムの新スタジアムにはイングランドでは珍しくモニターが4方向にあるのですが、問題になっているシーンは映りませんので、何が起きているのかを理解することは難しかったです。

中山 VAR判定が下されたときに、オフサイド、ゴールなど、そういう文字は大型モニターに映し出されるんですか?

小澤 はい、文字は出ます。でも、その過程がわからないから、なぜモニターをチェックしているのか、どのプレーを確認しているのかがわからない。そこはVARが抱えている問題点かもしれませんね。

中山 いちばん大切なスタンドで観戦しているファンがわからないというのは問題ですよね。他の3試合もそうでしたけど、この試合でも最後はVARが勝敗を分けた部分が多いわけですし。特に最後のアグエロの戻りオフサイドのシーンなどは、VARがなければ見逃されていたと思います。

倉敷 あれは目視ではわからないですね。スパーズの選手たちも諦めてオフサイドをアピールしていませんでした。そこははっきりとテクノロジーの勝利と言い切れますが、一方で73分のジョレンテのゴールシーンはどうでしょう。腰にボールが当たって入ったのか、ハンドだったのか。いくつかのカメラでそれぞれ印象が違って見えました。

中山 試合後、ジョレンテは「どっちに当たったとしても、自分は腕を身体につけていたから問題ない」といったようなコメントをしていました。でも、結局は最後に決めるのは主審ですからね。

倉敷 結局、主観がそこに残るんですね。VARもケーススタディで学んでいくしかありません。VARの対象になったシーンを全部集めて、検討して、全員で共有するしかない。

 サッカーに曖昧な要素が多いのは昔から変わらなくて、それは魅力でもあります。問題はサッカーの醍醐味であるゴールのカタルシスをVARが奪ってしまう危険がある点でしょう。土壇場で劇的なゴールを奪っても、しばらく時間をおいてからでなければ喜べないのでは楽しめない。なんとかしないとせっかくのテクノロジーも活かせません。

 さて、壮絶な試合を制し、スパーズが準決勝に駒を進めました。これは、チャンピオンズリーグになってからは初めてのことで、チャンピオンズカップ時代を含めても57年ぶりの快挙ということです。次回はその偉業を成し遂げた彼らと対戦するアヤックスについて、そして両チームによる準決勝をプレビューしようと思います。