「クルマはとてもいい仕上がりだった。ポールポジション争いができたはずだ。これには驚いたよ」 第4戦・アゼルバイジャンGPの予選を終えて、マックス・フェルスタッペンはそう語った。 予選の結果は4位。トップのバルテリ・ボッタス(メルセデスA…

「クルマはとてもいい仕上がりだった。ポールポジション争いができたはずだ。これには驚いたよ」

 第4戦・アゼルバイジャンGPの予選を終えて、マックス・フェルスタッペンはそう語った。

 予選の結果は4位。トップのバルテリ・ボッタス(メルセデスAMG)には0.574秒の差をつけられた。それなのになぜ、フェルスタッペンはポールポジションも狙えたと言ったのか?



予選・決勝ともに4位でアゼルバイジャンGPを終えたフェルスタッペン

 それは、フェルスタッペンが単独走行でアタックを行ない、長い直線区間で前走車のトウ(スリップストリーム)を使って空気抵抗を減らすことができなかったからだ。もしそれができていれば、さらに0.5秒くらい稼ぐことができていた。

「6〜7秒前にマシンがいれば、ターン2の出口(からターン3までの直線)で0.1秒、(ターン11から)上り坂の区間でも0.1秒稼げる。そしてメインストレートでは、前走車の5秒後方でフォローしているだけで少なくとも0.3秒は稼げる。

 今年のクルマはすごくドラッギーだからね。僕より前の3台は、いずれもトウを使って記録したタイムだ。だから純粋なラップライムの比較で言えば、僕らはかなりいい位置にいる。行列のなかで走っていたら、僕もポールポジション争いができていたはずだ」

 開幕3戦でマシンのグリップ不足に苦しんできたレッドブルRB15だが、バクーの市街地サーキットでは絶好の仕上がりを見せていた。その好パフォーマンスには、ホンダが投入したスペック2パワーユニットも貢献していたのだろうか。

 信頼性を向上させるための変更が施されたスペック2のICE(内燃機関エンジン)は、従来型に比べて”若干の”性能向上も果たしている。走行データ上でも、その向上は確認できたという。

 ただし、この予選の好走はパワーユニットのアップグレードによるものではないと、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは明確に否定した。

「性能向上は”若干”ですので、パワーユニットがよくなったからこの結果になったということはありません。今週はクルマとしての仕上がりがいいんだと思います。ただし、中団グループは0.1秒以下の差で、ポジションがいくつも変わるほど大接戦ですから、こうした小さな進歩の積み重ねが効いていることも確かです」

 トロロッソ・ホンダの2台も好走を見せ、ダニール・クビアトは予選6位に飛び込んだ。

 ただ、ホンダの若干の性能向上は、信頼性向上目的の改良によって、パワーユニットのコンポーネント個体ごとに存在する性能や特性のばらつきの中心値が上がったもの。だから、それは目に見えてラップタイムを向上させるようなものではない、というのが田辺テクニカルディレクターの説明だ。

 それでも、レッドブルは今季のホンダのパフォーマンスに満足している。

 ルノー製パワーユニットを搭載していた昨年は、その非力さをカバーするためにフロントウイングのフラップの一部を取り払うなど、極端なドラッグ削減策を採らなければならなかった。しかし、今季はライバルチームと同レベルの前後ウイングを使い、最高速を周りと合わせ込むのではなく、純粋なラップタイムを優先できているという。

 レッドブルのテクニカルディレクター、ピエール・ヴァッシェはこう説明する。

「去年のウイングとは大違いだ。ホンダのパワーがあるから、今年は通常の空力セットアップができる。(車重計測無視によるペナルティで)後方から追い上げなければならないピエール・ガスリーもダウンフォースを削る方向ではなく、2台ともラップタイム最優先の普通のセットアップだ。セクター2で前走車に着いていけば、メインストレートでトウとDRS(※)を使って抜くことも十分に可能だろう」

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。



決勝でもレッドブル・ホンダはチグハグな戦いを見せてしまった

 ただし、それだけのパフォーマンスがありながらトウを使うことができなかったのは、予選Q3で単独アタックをしなければならなかったからだ。

 Q1ではフェルスタッペンがタイヤを激しくロックさせてしまい、Q1突破のために2セット目のタイヤを使わなければならなかった。Q3でのアタック機会が一度きりとなった以上、渋滞にひっかかってタイムが出せず下位に沈むリスクは冒せなかった。

 そしてガスリーも、フリー走行中の車重計測指示を無視したことでピットレーンスタートが義務づけられた。また、予選Q1では前走車のトウに入って想定以上の速度とエンジン回転数で走行した際、燃料系システムに共振が生じ、燃料のフローが瞬間的に規定の100kg/hを超えてしまうという事態も起きた(これにより予選失格)。

 こうしたレッドブルらしくないチグハグな戦いは、決勝でも続いてしまった。

 スタートで出遅れたフェルスタッペンはセルジオ・ペレス(レーシングポイント)に先行され、ポジションを取り戻すのに5周を要した。前のセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)には5秒の差を開けられ、先にピットインをしてアンダーカットを仕掛けようとした矢先、ベッテルが目前でピットイン。慌てて作戦を変更し、3周後にピットインしたが、ギャップは10秒に広がってしまった。

 ガスリーは後方からオーバーテイクを連発し、6位まで追い上げてきたが、39周目にドライブシャフトが破損してリタイア。この車両回収のために出されたVSC(バーチャルセーフティカー)で、フェルスタッペンのタイヤは冷えてグリップを失い、さらに同じトラブルを避けるために縁石を使わないように走ったため、最後に予定していたプッシュも控えることになった。

 こうしてアゼルバイジャンGPは、マシンが持っていたはずのポテンシャルを結果に結びつけることができず、4位で終わってしまった。

「僕らは速かったと思う。でも、その速さを生かすことができなかった。第1スティントを少し長くしたことで、かなり前の集団から離されてしまった。でも、その一方で、VSCがなければもっと接近した戦いができていたはずだ」(フェルスタッペン)

 マシン挙動がよくなったのはポジティブな要素だが、高速コーナーがないバクーでは弱点が出にくかっただけ、という見方もできる。フェルスタッペンはレース途中にエンジンブレーキングの違和感を訴えていたが、実際はパワーユニット側の問題ではなく、リアグリップの変化による安定感の欠如だった。

 開幕からドライバーたちがずっと訴えてきたグリップ不足の症状は、基本的にリアの空力の不安定さによるもの。まだ根本的な解決は見ていないと、ヴァッシェは説明する。

「バーレーンGP後のテストでさまざまなデータ収集を行ない、かなり改善されたとはいえ、これはかなり時間のかかるプロセスだ。根本的な改良は、スペインGPに投入するアップグレードを待たなければならない」

 シーズン中盤戦を占うことになるアップグレードに向けて、レッドブル・ホンダらしくないレースのあと、あらためて見つめ直すべき課題も見えてきたと言えそうだ。