福田正博 フットボール原論■森保一監督が就任して以来、多くの選手が招集され、中盤のポジション争いもさらに活性化してき…

福田正博 フットボール原論

■森保一監督が就任して以来、多くの選手が招集され、中盤のポジション争いもさらに活性化してきている。その中盤のキープレーヤーについて、元日本代表の福田正博氏が分析した。森保ジャパンのかじ取り役は誰になるのか?

 3月のコロンビア、ボリビアとの親善試合で山口蛍(ヴィッセル神戸)が日本代表に復帰した。山口は、森保一監督の初陣となった昨年9月の親善試合に当初は招集されていたが、ケガのために不参加。8カ月遅れで日本代表に加わった。

 ロンドン五輪、W杯ブラジル大会、W杯ロシア大会を経験した山口は、まだ28歳。老け込むには早く、若手が増えている日本代表のなかで、彼の積んできた豊富な経験を取り込みたい狙いも森保監督にはあったのだと思う。そして、ここから代表のセントラルMFのポジションは競争がいっそう激しくなっていくだろう。

 このポジションについて、森保監督が現時点で中心と考えているのが柴崎岳のようだ。W杯ロシア大会の全試合に先発出場した26歳は、森保体制で2度目の合宿で新体制に初選出されると、そこからすべて招集されてきた。W杯ロシア大会とアジアカップの両大会で代表入りした選手のうち、3月の親善試合にも招集されたのは柴崎のみ。所属するヘタフェで出場機会に恵まれていない状況でも招集していることから、森保監督の期待の大きさがわかる。



森保ジャパンで中盤のカギを握る柴崎岳

 柴崎は3月の親善試合ではコロンビア戦に先発出場、ボリビア戦には途中から起用され、彼がピッチに立つと日本代表の攻撃は縦パスが入るようになり、活性化した。ただ、私も柴崎の能力の高さを買っているだけに、あえて要望したいことがある。

 柴崎の特長は、パスを出すときに必ず縦パスを狙っているところだ。縦パスはDFにカットされる確率も高いが、通ればチャンスに直結する。しかし、日本サッカーはボールを奪われないことを重視しがちなため、縦パスを入れるのを怖がって相手守備網の外側でボールを回すだけになってしまう傾向もある。そうしたとき、相手守備陣が嫌がる縦パスを入れる技術と戦術眼を持った柴崎は貴重な存在だ。

 だが、柴崎にも課題はある。動きがピッチの左右ばかりで、自らが相手ゴールに向かう「縦への動き」をもっと増やしてほしい。中盤の低い位置で相手のプレッシャーから逃れるように左右に開きながらボールを受けて長短のパスを出す。もちろん、キック精度が高くなければできないものなのだが、日進月歩のサッカー界にあっては、ややクラシックなスタイルに見えてしまう。

 現在の世界最先端のサッカーはトランジション、つまり「攻守の切り替え」がさらに重要になり、中盤の自陣でも相手から強いプレッシャー受けるようになっている。そのため、中盤の選手はフリーで攻撃の起点となるパスを出せなくなってきており、代わりにその役割をセンターバックが務めるようになっている。

 この3列目の選手に求められる役割は、自陣から敵陣までのペナルティボックスをプレーエリアにする『ボックス・トゥ・ボックス』の動きだ。この3列目のポジションを日本では「ボランチ」「守備的MF」「アンカー」「セントラルMF」などと表現するが、現在は守備と攻撃の組み立てだけをしていれば評価されるポジションではなくなってきている。

 そして、W杯ロシア大会後にイビチャ・オシム元日本代表監督が、日本代表が世界トップ8以上を目指すために欠けているものとして指摘したのも、この『ボックス・トゥ・ボックス』の動きだった。

 中盤のプレースタイルの世界基準は、ボールを持ち、縦パスを入れたら前線の選手を追い越して相手ゴール前に飛び出していくという『エネルギッシュ』な動きができること。これがあることで、相手DFの陣形は崩れ、トップや2列目の選手たちがゴールに直結するプレーができる時間とスペースが生まれる。

 相手陣でボールをロストしても、攻め上がった3列目の選手が前線から激しくボールを奪い返しに行けるメリットもある。これが現代サッカーでトランジションが重視されている理由のひとつだ。相手陣でボールを奪われれば、相手は攻撃に転じようとポジションを攻撃に切り替えるが、その時、即時回収、つまりすぐに相手陣でボールを奪い返せれば、相手守備網は揃っていないために、得点機になる可能性が一気に高まる。

 柴崎にはこの動きがまだ少ない。所属クラブで出場機会を多く得られないのも、こうした動きの質を物足りなく思われている面もあるのではないか。柴崎がステップアップしていくためには、自らの特長を生かしながら、この能力を伸ばしていってほしい。

 もちろん、柴崎と同時に起用する3列目の選手を前線に飛び出していくタイプにする手もあるが、その場合、柴崎は守備力を現状より高めることが必要になる。

 柴崎の課題をクローズアップするのは、彼の成長が、日本代表が強豪国と肩を並べるためには不可欠なものだからだ。あれだけのポテンシャルを持ち、志も高く、経験値もあって、年齢的にもベテランと若手の中間に位置する。柴崎には、もっと突き抜けた存在になって名実ともにチームの中軸になってもらいたい。

 その3列目には、ほかにも注目選手が多い。遠藤航(シント・トロイデン)や守田英正(川崎フロンターレ)は『ボックス・トゥ・ボックス』のプレーができる。柴崎同様にパスを評価される大島僚太(川崎)は、昨シーズンからは縦への動きが増えてきた。ただ、守田も大島もケガがちなため、コンディションを万全にして、少しでも早いタイミングで森保監督のもとで存在感を発揮してほしい。

 チームに躍動感を与える選手としては、井手口陽介(グロイター・フュルト)もいる。昨年9月末に右ひざ後十字じん帯断裂の重傷を負い、今年1月には新たに半月板を損傷。長期離脱をしていたが、4月頭に練習試合に出られるまでに回復した彼には、焦らずしっかりと故障を治してもらい、代表に戻ってくることを期待している。

 柴崎が圧倒的な存在になれるのか。山口がベテランの味を発揮するのか。それとも若手が一気に中核を担うまでに飛躍を遂げるのか。攻撃でも守備でもチームの中心的なポジションである中盤の選手たちの高い次元でのレギュラー争いが、日本代表を高みへと導いてくれるはずだ。