文=丸山素行 写真=野口岳彦「自分は絶対に落ちないと思っている」4月26日、バスケットボール女子日本代表は第2次強化合宿をスタートさせた。コンディション調整がメインの第1次合宿では、本人曰く「前ももの筋肉痛のひどい版」で走ることもままならな…

文=丸山素行 写真=野口岳彦

「自分は絶対に落ちないと思っている」

4月26日、バスケットボール女子日本代表は第2次強化合宿をスタートさせた。コンディション調整がメインの第1次合宿では、本人曰く「前ももの筋肉痛のひどい版」で走ることもままならなかった宮澤夕貴だが、今回は何の問題もなく元気なプレーを見せた。

6連覇となった皇后杯で2年連続のMVP、11連覇中のWリーグでもプレーオフMVPと、JX-ENEOSサンフラワーズのエースへと成長した。日本代表でも、まだ若手だったリオ五輪では活躍の機会が少なかったが、その後は3ポイントシュートをモノにしてエースとして覚醒している。それだけに、これからの合宿は生き残りを懸けたチーム内競争ではあっても、「落ちる落ちないって言われたら、自分は絶対に落ちないと思っている」と、エースの気概をのぞかせた。

そうした自信は、一つひとつ結果を残すことで絶対的なものになってきた。「去年のスタートはあまり良くなかったんですけど、代表の終盤の方に成果が出始めて。自分の役割はディフェンスリバウンドや3ポイント。自分で言うのもあれですけど、チームに必要だと思っています」

宮澤は181cmと長身ながらスピードも備え、クイックリリースから放たれる3ポイントシュートは高確率でリングをとらえる。さらに身体も強く、ミスマッチを作らせないサイズと軽快さもあり、世界で通用する2ウェイプレーヤーとしての評価を高めつつある。ディフェンス面でスイッチを多用する日本のバスケットにおいて、オールラウンドな宮澤はなくてはならない存在だ。

代表当確ではあっても「ヘジテーションとか、自分に足りないことを練習でやっています」と、スキルアップの努力は怠らない。「今はシューターとしてコートに立ってると思うんですけど、オリンピックではスコアラーとして金メダルを取りたい」と、さらなる進化に貪欲だ

「早くこっちのレベルに持ってきてあげたい」

今回の代表はこれまでの仕様と異なり、男子代表がワールドカップ予選を戦ったプール制を用いている。そのため、今回選ばれた26名の中から、コンディションや調子を見極めて、大会に臨むメンバーを決めていく。

宮澤自身は「そんなに意識することはない」と言うが、「自分のコンディションをどこの試合に合わせるか調整できるので、それは良かったです。いろんな人にチャンスがあるから、チームとしてモチベーションが上がるんじゃないかなと思います」と、メリットも感じている。

先述のとおり、自身のスキルアップはもちろん続けていくが、宮澤にとっての仕事は、いかにチームの底上げをするかにあり、「若い子たちはトム(ホーバス)さんのバスケットがまだ分かんない人もいるので、その子たちにまずは教えてあげたいです。早くこっちのレベルに持ってきてあげたい」と言う。

今でこそチームの中心となり、周りを見る気持ちの余裕のある宮澤だが、「前は選考に落ちないようにしなきゃって考えてました」と自分のことで精一杯。そのため練習中に集中が途切れる場面があった際も、それを指摘できなかったという。

「去年いきなりチームが若返って、本当は言わなきゃいけない立場だったんですけど、今まで言わない立場だったから自分じゃなくてもいいのかなって。そういう遠慮があったので」

遠慮が生んだ綻び「それでああいう結果になった」

そうした遠慮がチームの緩みに繋がり、ワールドカップでメダルを逃したのではないかと、宮澤は後悔の念に駆られていた。「練習中でハーフまで走らなかったりとか、そういう本当にちょっとしたことが気になってたけど、言わなかったんです。やっぱり細かいところができていなくて、それでああいう結果になったと思います」

1年を通して抱えた後悔の気持ちが、宮澤にリーダーシップを取らせる。「だから、今年は先輩後輩関係なく言っていかなきゃいけない。それをやっていくと自然とそういうチームになっていくと思いますし、レベルアップにも繋がるんじゃないかなって。声を一つ出すこととか、ポジションの一つひとつのこととか、手の動かし方とか、そういう細かいところから気にするようにしています」

チームメートへ指摘することは嫌われ役を買うことでもあり、抵抗のある作業ではある。だが、誰かがそれをやらなければ、チームは引き締まらない。エースの次に、チームリーダーという重責をまた新たに背負うことになるが、宮澤にはその準備ができている。頼もしい成長ぶりのその先に、金メダルがあることを願いたい。