3月29~31日(現地時間)の3日間にわたって、アメリカのイリノイ州・ロックフォードでウィルチェアーラグビーの全米選手権が行なわれた。今回、ウィルチェアーラグビーの強豪国のひとつである米国で、No.1を決める全米選手権に出場した日本人選手は…

3月29~31日(現地時間)の3日間にわたって、アメリカのイリノイ州・ロックフォードでウィルチェアーラグビーの全米選手権が行なわれた。今回、ウィルチェアーラグビーの強豪国のひとつである米国で、No.1を決める全米選手権に出場した日本人選手は、過去最多の4人。池透暢(ゆきのぶ)、池崎大輔、島川慎一、官野一彦。いずれも昨年の世界選手権の日本代表で優勝メンバーだ。

結果は、池崎が所属するワイルドキャッツ(アリゾナ)が連覇を達成。さらに池崎は昨シーズンに続くMVPに輝いた。果たして、2020年東京パラリンピックを目指す4人は、米国でどんなシーズンを過ごし、何を得たのか。それぞれの思いを訊いた。

4チームずつ2つのプールに分かれた予選で全勝し、準決勝でも快勝して決勝進出を決めたのがワイルドキャッツと、ハリクインズ(デンバー)。ワイルドキャッツは3人の米国代表と池崎の4人が主力となっていた。一方のハリクインズにも4人の米国代表が所属しており、なかでもチャック・アオキは米国代表のエースで世界トッププレーヤーの一人。世界ランキング2位の日本のエースと、同3位の米国のエースを擁する強豪2チームが対戦するとあって、決勝のコートは観客や選手たちであふれていた。

試合は第1ピリオドで2つのターンオーバーを奪い、得点につなげてリードしたワイルドキャッツがそのまま勢いに乗った。一方、ハリクインズは早く追いつきたいという焦りからか、ミスが目立った。ミスの誘引の一つとなったのが、ワイルドキャッツの好守備だった。ゴール前のキーエリアまでラインを下げて守るキーディフェンスでは、クロスしながらトライを狙う相手を、しっかりと連携の取れた動きでブロックする場面が何度も見られた。

結果はワイルドキャッツが50-45で快勝し連覇を達成。2年連続でチーム、個人の両方で最高の成績を残した池崎は「今回の結果は、自分にとって大きな自信となる」と語った。

また、過去最多の4人の日本人選手が米国でプレーしたことに対しては、「レベルの高い米国でプレーする経験を積んだ日本人選手が4人もいるというのは、すごく心強い。日本代表のレベルも上がると思います」と述べ、代表への好影響を期待した。

この池崎擁するワイルドキャッツに準決勝で敗れたのが、島川が絶対的エースとして君臨したヒート(フェニックス)。予選プールを2勝1敗とし、2位で準決勝に進出。昨シーズンの決勝と同じカードとなったワイルドキャッツとの対戦となり、雪辱に燃えたヒートだったが、50-58で敗れた。さらに3位決定戦では、米国代表のジェームス・ガンバートHC率いるスタンピード(テキサス)に敗れ、今シーズンは4位となった。それでも島川は、チーム唯一のフル出場で得点を量産し、存在の大きさを示した。

日本代表活動もあり、シーズン中は米国と、日本や遠征先などを行き来する。移動は決して楽ではない。しかし、それ以上に怖さを感じていることがあるという島川。

「動くことを止めることって、44歳の僕にとってはとても怖いことなんです。一度止めてしまったら、この年齢ではもう戻すことはできない。だから試合が多くできる米国でプレーすることは、とても大切なサイクルになっているんです」

今シーズン初めて米国でプレーしたのが、池だ。今大会では初戦で敗れたことが大きく響き、結果的にチームは5位となったものの、最後の5、6位決定戦で勝って終わることができたのは大きいと感じている。

彼が所属するデモリッション(レイクショア)には今シーズン、代表クラスの選手は不在だった。そんな中、「池が来てくれたおかげで、より良いチームになった」とトミー・サリバンHCが語るように、日本代表のキャプテンを務める池の存在は大きく、チームに与えた影響は決して小さくはなかったはずだ。そして、それは技術的なことだけではない。

池は自身の加入によってチームが「変わる」のではなく「成長できる」、そんな存在でありたいと考えていたという。だからこそ、どんなに劣勢な場面においても、チームメイトに声をかけ続け、そしてプレーでも鼓舞することを心掛けた。

そんな熱いキャプテンシーを持つ池の存在が、チームメイトのマインドに変化をもたらした。あるチームメイトから送られてきたメッセージには、こう書かれてあったという。

“池と一緒にプレーすることでたくさんの学びがあった。おかげで、自分の目標はもっと大きなものに変わったよ”

それまでミスをすると他人に責任転嫁することが多かった若手選手が、途中から「自分が悪い」と言って、課題解決に取り組むようになった。プレーにも変化が生じ、粘り強さが出てきたという。それは若手選手がミスをした時も、決して責めることなく「大丈夫。悪いのは自分だから」と言う池から学んだものだったに違いない。

昨シーズンに続いて米国でプレーした官野一彦が所属したジェネラルズ(タンパ)は、今大会、5、6位決定戦で池を擁するデモリッションに敗れ、6位となった。試合後、池に「もうちょっと、いけたよね」と声をかけられたという。それを受けて官野もプレーを振り返ったという。

「自分自身、改めて振り返ってみると、ミスを怖がって思い切ってプレーできなかったなと。それは自分に自信がないからだと思うので、日本に帰ってしっかりとトレーニングしていきたいと思います」

2020年東京パラリンピックまであと1年半。果たして米国での貴重な経験を、どう生かしていくのか。彼らにとって、本当の勝負はここからだ。

*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。