写真=Getty Images

「狂人」と表現するほど練習を繰り返したリラード

2019年4月23日は、デイミアン・リラードのNBAキャリアハイライトの一つとして、生涯語り継がれていくだろう。サンダーとのプレーオフ・ファーストラウンド第5戦で、彼が決めた超ロングクラッチ3ポイントシュートは、NBA史に残るブザービーターの一つになった。

リラードは、自信を持ってあのシュートを放った。昨年からの弛まぬ努力により身につけた、彼の新たな武器だったからだ。

『Yahoo Sports』によれば、昨シーズンのファーストラウンドでペリカンズを相手に1勝もあげられず敗退が決まった後、リラードは、ウェバー州立大時代から指導を受けているフィル・ベックナーに連絡を入れ、選手としてレベルアップする方法を尋ねたという。シリーズを通じてペリカンズの守備に苦しみ、フィールドゴール成功率35.2%に抑えられたリラードは、新たな武器が必要と感じ、ベックナーに助言を求めた。ベックナーからの提案は、シーズンオフにシュートレンジを広げる練習に取り組むことだった。具体的には、ミッドレンジからのシュートを放つように、ゴールから約9.2m離れた位置からでもシュートを打てるようになることだった。まるでステフィン・カリーのようなレンジだが、もしリラードが同じ類のシュートを身につけられれば、エリートプレーヤーの一人から、ベストプレーヤーの一人になれるという考えがベックナーにはあった。

ベックナーは「ステフのような選手とマッチアップする場合、その選手がハーフコートラインから一歩でも先に足を踏み入れた瞬間から、ディフェンスは意識せざるを得なくなる。これこそ、スペーシング、ピック・アンド・ロールからのプレー、とにかくすべてが今までよりも楽になる新たな武器になるんだ」と、『Yahoo Sports』に語った。

プロ入り後もオフにベックナーの指導を受けていたリラードだが、今シーズンは初めてフルシーズンで指導を受けられるよう、彼と年間のトレーナー契約を結んだ。ベックナーは、通常の3ポイントシュートラインより約1.2mも手前の位置にテープでシュートラインを作り、その位置からリラードにキャッチ・アンド・シュート、ステップバック、左右どちらかの足を軸にしてのシュートなど、あらゆるシュートの練習を課した。その練習量はベックナーも驚くほどだったようで、彼はリラードを「狂人」と形容している。

実際、この練習の効果はレギュラーシーズン、そしてプレーオフでも数字に表れている。レギュラーシーズン中、リラードはゴールから約9.2m〜12m離れた位置からのシュートを47本放ち、16本も成功させている(成功率は34%)。プレーオフではさらに精度が増し、同じ位置から放った5本のシュートを全て成功させている。

この短期間でのレンジ拡張には、指導しているベックナーも驚愕した。「こんなに早く成長するとは思っていなかった。もし彼に『君にはできない』と言えば、彼はそれをやれるようになるんだ」

サンダーとの第5戦でのブザービーターを決めた直後も、リラードは表情一つ変えなかった。これまでに費やした努力があったからこそ、成功して当然という気持ちが伝わってくるような表情だった。ベックナーは、リラードに対する尊敬の気持ちとして、このシーズンオフにある一枚の写真を贈る予定だという。その一枚とは、例のブザービーターをリリースした瞬間を収めたものではない。シリーズ期間中の試合がなかった日の夜、誰もいない練習場でほぼ同じ位置からのシュートを繰り返し練習していた彼の姿を、ベックナーがiPhoneで撮影したものだ。

「彼には、その時の写真を額に入れてプレゼントして、努力が実ったことを伝えたい」と、ベックナーは言う。

「試合前日の夜にシュート練習を繰り返す選手なんて、彼以外に誰がいる?iPhoneで撮影したので画像は粗いだろうが、その画像こそ、彼が将来バスケットボール殿堂入り選手になれる証なんだ」