先週のスーパーGTに続き、国内最高峰のモータースポーツのひとつ「全日本スーパーフォーミュラ戦選手権」が開幕した。4月20日、21日に鈴鹿サーキットで行なわれた第1戦では、例年と比べて大きく変わった点が多々見受けられた。開幕戦を制したの…

 先週のスーパーGTに続き、国内最高峰のモータースポーツのひとつ「全日本スーパーフォーミュラ戦選手権」が開幕した。4月20日、21日に鈴鹿サーキットで行なわれた第1戦では、例年と比べて大きく変わった点が多々見受けられた。



開幕戦を制したのは昨年タイトル争いを演じたニック・キャシディ

 まず、使用マシンがダラーラ製の『SF19』に変更された。F1でも導入されている安全装置「HALO(ヘイロー)」が装着され、前年まで使用していたマシンとは外観が大きく異なっている。

 そして、ドライバー陣にもチーム間の大移動があった。

 一番のトピックは、昨年チャンピオンの山本尚貴が移籍したことだろう。長年在籍したTEAM MUGENを離れ、DOCOMO TEAM DANDELION RACINGに加入した。さらに、昨年ドライバーズランキング2位のニック・キャシディもKONDO RACING からVANTELIN TEAM TOM’Sに移籍。そしてキャシディの抜けた穴には2016年王者の国本雄資が加わるなど、ドライバーの移籍が目立った。

 今年のエントリーは、昨年より1台増えて計20台。そのうち、約半数は新人ドライバーという構成になっているのも特徴だ。

 レッドブルジュニアチームでF1ステップアップを狙う19歳のダニエル・ティクトゥム(TEAM MUGEN)、ヨーロッパの舞台で実績を積んできた24歳のアーテム・マルケロフ(UOMO SUNOCO TEAM LEMANS)、ゲルハルド・ベルガーを叔父に持つ24歳のルーカス・アウアー、現在レッドブルのチーフテクニカルオフィサーを務めるエイドリアン・ニューウェイの息子である20歳のハリソン・ニューウェイ(ともにB-Max Racing with motopark)、そして全日本F3選手権で19戦17勝の快挙を成し遂げた23歳の坪井翔(JMS P.MU/CERUMO・INGING)など、期待の新人たちが日本のトップフォーミュラに挑戦する。

 冬のテストでは、新人ドライバーのアレックス・パロウ(TCS NAKAJIMA RACING)がトップタイムを連発。それに刺激されたかのように、他の若手たちも好タイムを記録していた。王者・山本をはじめ先輩ドライバーを脅かすような走りは、開幕での波乱を予感させた。

 迎えた開幕戦の予選では、そのパロウと、昨年FIA F2で走っていたチームメイトの牧野任祐が見せ場を作った。Q1とQ2でパロウがトップタイムを記録すると、Q3では牧野がパロウを逆転。デビュー戦でポールポジション獲得という快挙を成し遂げた。新人ふたりがフロントローを独占するのは、シリーズ史上初の快挙だ。

 しかし、新人ドライバーがすぐに活躍できるほど、スーパーフォーミュラの世界は甘くない。ただ速いだけでは結果は残せない、ということを思い知らされる決勝となった。

 2番手スタートのパロウは、チームがグリッド上で輪止めを外し忘れるというミスを犯してしまった。作業禁止時間のタイミングで取り外しを行なったため、スタート手順違反でペナルティを受けてしまう。決勝ではアグレッシブな走りを見せたが、18周目にトラブルが発生してリタイアとなった。

 ポールポジションの牧野はスタートから順調に走ったが、27周目に右リアタイヤが突然外れるというアクシデントでクラッシュ。デビューレースはまさかのトラブルで鈴鹿を後にした。

 また、他の新人たちも「スーパーフォーミュラの洗礼」を受ける厳しい開幕戦となった。坪井、マルケロフ、ニューウェイはQ1で次々とアクシデントを起こし、ティクトゥムも他車との間隔を見誤って満足なタイムアタックができず、Q1敗退を余儀なくされた。

 スーパーフォーミュラは、ドライバーの速さだけではなく、チーム全体としてミスをせずに安定したパフォーマンスを引き出すかが重要になってくる。今年のマシンSF19はコーナリングスピードが上がり、ドライビングが難しくなったと言われている。ルーキーたちは、トラブルやアクシデントに巻き込まれないことの重要性を痛感した1戦だったのではないだろうか。

 そんな波乱の多いレース展開のなか、しっかりと結果を出してきたのは、昨年チャンピオン争いをした山本とキャシディだった。

 キャシディは予選で苦戦を強いられ、まさかの12番手からのスタート。だが、いち早くピットインしてソフトタイヤに交換する戦略が大当たりし、逆転で優勝を飾った。一方、予選3番手スタートだった山本も、レース序盤はミディアムタイヤでペースが上がらずに苦しんだが、最初のセーフティカー導入時のピットインで臨機応変に対応し、順位を上げて2位でフィニッシュした。

 そして、3位でチェッカーフラッグを切ったのは、スーパーフォーミュラ3年目の山下健太(KONDO RACING)。昨年の最終戦で表彰台に上がった3人が、今年の開幕戦でも表彰台を分け合った。

 今年の開幕戦はトラブルやアクシデントが多く、まだ全体の勢力図は見えづらい。ただ、この乱戦のなかで冷静さを保ち、結果を残してきたキャシディ、山本、山下の3人は今シーズンの中心的存在になりそうだ。

 それに対し、予選で他を圧倒する速さを証明した牧野やパロウなど、期待の新人ドライバーたちは次戦でどんなレースを見せるのか。今後の成長ぶりも、非常に楽しみなところだ。