サッカーのルールを決める国際機関IFAB(国際サッカー評議会)が、昨年3月の年次総会でVAR(ビデオ・アシスタント・レ…

 サッカーのルールを決める国際機関IFAB(国際サッカー評議会)が、昨年3月の年次総会でVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の正式導入を決定してから、もう1年の月日が経過した。

 VARは、それ以前からクラブワールドカップをはじめ、オランダ、ドイツ、イタリア、オーストラリアなどのトップリーグで試験導入はされていたが、それを世界的に周知させる大きなきっかけになったのは、ロシアで開催された2018年W杯だった。

 もちろん、VARを初めて体験した選手や監督、あるいは初めて見たファンやメディアが混乱したことはあったが、それでもVAR導入によってW杯での正しいジャッジの割合が95%から99.32%に上がったというデータが示すとおり、おおむね好意的に受け止められたことは間違いないだろう。



CLや欧州各国リーグなどですでに導入されているVAR

 実際、ロシアW杯以降は、ほとんどの国際大会や多くの各国リーグでVARが採用されるようになっており、Jリーグでも、いよいよ今年のルヴァンカップのプライムステージ(準々決勝以降)13試合とJ1参入プレーオフ1試合でのVAR導入が発表されている。

 ただし、これから日本の多くのサッカーファンが目の当たりにするVARは、すべての誤審を解決してくれる万能薬ではないことは、頭に入れておかなければならないだろう。

 なぜならビデオ映像を見て判定を決めるのは人間であって、機械ではないからだ。そこは、ゴールか否か(ボールがラインを完全に越えたか否か)を機械が自動判定してくれる「ゴールライン・テクノロジー」とは大きく異なっている。

 しかも、現状では試合中にVAR判定が適用されるケースは以下の4点に限られている。

a)ゴールかゴールでないか(ゴールにつながる一連のプレーに反則があったか否か)

b)PKかPKでないか(ペナルティエリア内での反則があったか否か)

c)退場に値する反則か否か(2度目の警告は対象外)

d)カードを提示された選手が間違っていたケース(主審がイエローカード、レッドカードを提示した選手が、本来提示されるべき選手と異なる選手に提示された)

 これら4つのケースのなかで、「はっきりとした、明白な間違い」、もしくは「見逃された重大な事象」があった場合のみ、VARは主審の判定を援助(アシスト)することができる。

 要するに、上記4つに当てはまらないプレーと、当てはまるものの「明らかな間違い」か「重大な見逃し」とは言えないプレーに関しては、従来どおり、判定の最終決定者であるレフェリーのジャッジがそのまま採用される、ということになる。

 これらVARの大原則だけをクローズアップしてみると、確かに大きな疑問が生じる余地はなさそうに聞こえるかもしれない。しかしながら、実際にVARが採用されている大会やリーグ戦において、VAR自体が議論の対象となるケースは意外と多い。

 とりわけ見る側に疑問を生じさせているのが、レフェリーがピッチサイドに設置されたモニターを確認(オンフィールドレビュー)したうえで判定を下すケースと、モニターチェックをせずにVAR担当との無線マイクを使った会話だけで判定(VARオンリーレビュー)するケースがある、という点だ。

 すなわち後者の場合、「最終決定者はレフェリーではなく、VARなのか?」という疑念が生じてくる。しかもラグビーと違い、審判団とVAR担当以外の人間がその会話を聞くことはできない。仮に「今のプレーは反則だったか?」(レフェリー)、「映像を見る限り反則だった」(VAR担当)という会話が両者間にあったとして、その後にレフェリーが自らの判定を覆す新たな判定をした場合、最終判定はVAR担当が行なったと言えるのではないか。

 そもそもIFABがVARを正式導入した際、「いかなる場合でも、判定の最終決定者は従来どおりレフェリーである」という大原則があったはず。

 そこで、その大前提を揺るがしかねないVARの運用に対する疑問を解決すべく、VARに関するメディア説明会に登壇したデービッド・エラリーIFABテクニカルダイレクターに直接聞いてみると、明確な回答をしてくれた。

「通常、レフェリーがリプレーを見ないで判定を下すケースは、オフサイドかどうか、ファールが発生した位置がペナルティエリア内だったのか外だったのか、ボールがタッチラインを出ていたかどうかなど、白黒はっきりとした事実に基づく判定をする時です。

 たとえばオフサイドの判定を主審が下す際、これまでもアシスタントレフェリーがフラッグを上げることでレフェリーの判定をサポートしていました。つまりVARシステムにおいてもそれは同じで、映像によってレフェリーのジャッジをサポートしているのです。

 逆に、レフェリーがリプレー映像を確認してから判定を下すケースは、ハンドかそうでないか、レッドカードに値するファールか否かなど、そのほとんどが主観に基づく判定を下さなければならない場合です。なぜなら判定の最終決定者はVARではなく、レフェリーだからです」

 つまり、誰が見ても明白な事実である場合はレフェリーがオンフィールドレビューをする必要はなく、レフェリーの主観が必要とされる判定に関しては、リプレー映像を確認してから最終ジャッジが決定されるということだ。

 これを、VARが計4回使われたチャンピオンズリーグ準々決勝第2戦のユベントス対アヤックス戦(4月16日)に当てはめてみるとわかりやすい。

 まず1度目のVAR判定は、28分のクリスティアーノ・ロナウドの先制ゴールのシーン。ロナウドがヘディングシュートした際、その横でアヤックスのジョエル・フェルトマンがユベントスのレオナルド・ボヌッチに倒されたように見えた。そこで、当初ゴールを認めていた主審のクレマン・トゥルパンは、VAR担当からの進言によりピッチ横に設置されたモニターでリプレーを確認。フェルトマンを倒したのは味方のマタイス・デ・リフトだったことが確認され、最初に下したジャッジのとおり、ゴールが認められている。

 このシーンでは、誰がフェルトマンを倒したのか微妙だったため、誰が見ても白黒はっきりした事実とは言えなかったため、VAR判定になったということだ。

 2つ目は、34分のアヤックスのドニー・ファン・デ・ベークのゴールシーン。ここでも主審はゴールを認めるも、オフサイドか否かに疑いが持たれたことによってVARを使っている。ただし、このシーンではユベントスのフェデリコ・ベルナルデスキが右サイドに残っていたため、主審がリプレーを確認するまでもなくゴールが認められている。オフサイドでないことが明白だったからだ。

 3つ目は、79分にアヤックスのハキム・ツィエクがネットを揺らしたシーンだったが、ツィエクの明らかな戻りオフサイドだったため、ここでもトゥルパン主審はリプレー映像を見ることはなかった。これも、VARオンリーレビューが適用されたシーンだ。

 そして4つ目の90分のシーンは、ユベントスのロドリゴ・ベンタンクールが蹴ったボールが、ペナルティエリア内にいたアヤックスのデイリー・ブリントの手に当たったかどうか(ハンドか否か)がVARの対象となった。

 この場面で、当初トゥルパン主審はそれをハンドと見なさなかったが、VAR担当のチェックによってボールが当たっていたのはお腹だったことが確認されたため、当初の判定が覆ることはなく、リプレー映像を確認することもなかった。

 このように、エラリー氏の説明にそれぞれのシーンを当てはめてみると、VARがほぼ正しく運用されていたことがわかる。最終判定は、レフェリーが下していることも明白だ。

 とはいえ、すべてのVAR判定がこの試合のように正しく運用されているとは限らないのが実情だ。たとえば、似たようなシーンにおいてVAR判定を使って判定を下すケースとそうでないケースもある。あるいは、ハンドか否かの判定(ハンドリングの解釈変更についてはすでに正式発表されている)など、そこには人間の主観が大きく関わってくるため、どうしても論争は巻き起こってしまう。

「VARはビデオ・”アシスタント”・レフェリーであり、ビデオ・レフェリーではありません」

 説明の最後にエラリー氏が語ったこの言葉が、結局はVARを理解するためのキーワードなのかもしれない。

 そういう意味では、テクノロジーという言葉のイメージにとらわれることなく、人間がそうであるように、VARも完璧ではないという大前提を理解したうえで見ていくしかないだろう。そこに、VARとの正しい付き合い方のヒントが隠されている。