斉藤愛璃(29歳)の脳裏には、初優勝した時の記憶が今なお鮮明に残っている。「母が当時の試合をDVDに録画してくれていて、たまに見るんです。また、こういうふうになりたいなって。あぁ~、やっぱり優勝っていいな、この時はこんな感じだったなって……

 斉藤愛璃(29歳)の脳裏には、初優勝した時の記憶が今なお鮮明に残っている。

「母が当時の試合をDVDに録画してくれていて、たまに見るんです。また、こういうふうになりたいなって。あぁ~、やっぱり優勝っていいな、この時はこんな感じだったなって……。それはもちろん、優勝っていいもんですよ」

 2010年、TPD(単年登録)でプロツアーに出場した斉藤。2011年の夏にプロテストに合格し、2012年に初のツアーフル参戦を果たすと、開幕戦のダイキンオーキッドレディスでいきなりツアー初優勝を遂げた。その端正な容姿も相まって、”シンデレラガール”として一躍ブレイクした。

 しかも、同試合では三塚優子、李知姫といった実力者とのプレーオフを制しての勝利だった。その分、見る者に与えたインパクトは大きく、その後の活躍が大いに期待された。

「あの試合は、本当に劇的で。運がよかったのもあったと思います。三塚さんが1mもないパーパットを外してから、私が勝ったので」

 当時、斉藤は22歳。あれから、はや7年が経過しているとは、月日が経つのは早いものである。



2度目のツアー優勝を目指して奮闘している斉藤愛璃

 この劇的なツアー優勝によって、翌年のシード権を獲得した斉藤だが、2013年シーズンは11試合連続を含めて22試合で予選落ち。賞金ランキング89位に終わって、わずか1年でシードを失った。以降、スポットライトを浴びる機会はほとんどなくなった。

 クォリファイングトーナメント(QT)で結果を残してレギュラーツアーに参戦するも、思うような成績は残せなかった。2014年~2016年までの3年間でトップ10入りはわずか4回。シードを得るまでには至らなかった。

 さらに、QTでの出場資格も得られなかった2017年シーズンからは、レギュラーツアーの出場は主催者推薦などで得た数試合のみ。下部ツアーとなるステップ・アップ・ツアーと並行して戦うシーズンが続いている。

 そして今年も、「ステップ・アップ・ツアーを軸に、主催者推薦をいただいたレギュラーツアーに出場します」と斉藤。根強い人気を誇るゆえ、推薦出場は最大8試合となるが、今季もすでに「7試合の推薦出場が決まっています」と言う。

“ルーキーイヤー”の開幕戦での初優勝は、今でも多くの関係者やファンの間で強く印象に残っていることは間違いないだろう。

 斉藤が自らの現状について、ゆっくりと語り始める。

「私がプロテストに合格したのが2011年なので、(本格的にツアー参戦を果たしてから)今年で8年目です。ここまでゴルフを続けてきて『長かったな』と感じています。それはたぶん、よくなかったことばかりだったからだと思います。プロ1年目から優勝して、そこからずっとよくなかったので……。

 悪い時期はなかなか思うようなゴルフができなくて、ケガもしたりして、自分がやりたいゴルフができませんでした。もちろんここ数年で、ツアーのレベルがとても上がってきていることも実感しています。でも(そんな状況にあっても)自分のやることは『できている』と感じています」

 苦労の連続だった。それでも斉藤は、成績が出せないなか、どうにか食らいついてツアー参戦を続けてきた。その事実は、決してぞんざいに扱われるようなものではない。

 今年12月には、30歳になる斉藤。節目となる今季、現在の状況を打開したいという思いは強いはずだ。また、苦悩の日々が続くなか、これまで我慢強くゴルフを続けてこられたのはなぜか。それらについて、話を聞いた。

 斉藤は少し考えてから、自らが今思っていることを率直に語った。

「(ゴルフを続けてこられたのは)私の周りには、応援してくれる人がたくさんいる、というのが大きいです。スポンサーさんやファン、プロになったときからずっと応援してくれている方々が今もいます。家族も諦めずに応援してくれています。本当に自分ひとりでは、ここまでできなかっただろうな、と思っています。

 若い時は、周囲を見る余裕がまったくなかったんです。『がんばれ』と声援を送られても、自分のことでいっぱいいっぱいで……。でも今は、気持ちにも余裕ができて、周りを見ることができているんだ、と自分でも感じます。だからもう1回、自分が活躍している姿を(応援してくれる方々に)見せたい、という思いがあります。

 私はプロになるまで(所属のゴルフ場で)キャディーをやりながらプロを目指していましたが、それが本当にしんどくて……。『自分はまだプロになれないのか』と。かなりつらい日々でした。

 でも、プロになって、ギャラリーの前でゴルフができること、ゴルフをすることがすごく好きで、その時はとても幸せです。今は結果が出なくて悔しいことはたくさんありますが、プロになっていないときに比べたら、今のほうがずっと幸せだと感じるんです」

「それに……」と言って、斉藤はこう続けた。

「(自分は)嫌なことは、結構すぐに忘れるんですよ。忘れるから、いいことも忘れるんですけど。悪いことをずっと引きずってなくて、寝たら忘れるんです。結果が出ないことをずっと引きずっていたら、今頃は本当に病んでいますよ(笑)」

 長い下積み時代に苦労したからこそ、目標だったプロゴルファーとして戦っている今は、どんなことがあっても腐らずに、前に突き進むことができる。そして斉藤は、再び”表舞台”に戻って活躍したいと思っている。

「ステップ・アップ・ツアーでも安定した成績を残しながら、優勝争いをしたい。やっぱり上位でゴルフをやっているほうが楽しいですし、そのほうが(自分の)ゴルフもどんどんよくなってくる、というのはあります。まずは、ここで結果を出して、もう一度、レギュラーツアーに戻りたい」

 さらにもうひとつ、斉藤には夢があるという。

「初優勝のときは、相手が外して優勝が決まったので、なんか変な感じだったんですが、次に優勝するときは、自分がウイニングパットを決めて、ガッツポーズしたい。それが、夢ですね」

 もちろん、その姿も母親がDVDに録画してくれるに違いない。そんな新たな栄光が刻まれる瞬間を、斉藤に限らず、多くのファンや関係者が待ちわびている。