東邦の史上最多となる5度目の優勝で幕を閉じた選抜高校野球大会(センバツ)。石川昂弥(東邦)らセンバツに出場した強打者の力量を、野球評論家の山﨑武司氏が徹底分析する。 山﨑氏にはただ長所を挙げてもらうだけでなく、各打者がさらに高いレベル…

 東邦の史上最多となる5度目の優勝で幕を閉じた選抜高校野球大会(センバツ)。石川昂弥(東邦)らセンバツに出場した強打者の力量を、野球評論家の山﨑武司氏が徹底分析する。

 山﨑氏にはただ長所を挙げてもらうだけでなく、各打者がさらに高いレベルで通用するための課題を指摘してもらった。プロ通算403本塁打を放ったホームランアーチストが認めた打者はいるのか?



センバツで3本のホームランを放った東邦の石川昂弥

石川昂弥(東邦/185cm・87kg/右投右打/投手・三塁手)

 僕は同じ愛知の愛工大名電出身ですが、伝統的に守備のイメージが強かった東邦にこれだけの強打者が出現するのは珍しいですね。エースとしてセンバツ優勝に導いたとはいえ、彼はバッターだよなぁ……という印象です。クセのない、バランスのいいスイング。高校生としては順調に仕上がっています。体も大きいし、甲子園で打った3本のホームランはどれもよく飛んでいた。ただ、気になるのはスイングの強さをまだ感じないことです。今は体格のよさとバットコントロールで飛ばしているように見えるけど、体の芯に本当の意味での力があるかどうか。これから筋力を上げていけば、もっと強く振れるようになるはずです。とはいえ、十分ドラフト上位指名候補になる逸材でしょう。



「山梨のデスパイネ」の異名を持つ山梨学院のスラッガー・野村健太

野村健太(山梨学院/180cm・88kg/右投右打/右翼手)

 センバツ初戦で2本のホームランを打った右の大砲。構えはいい雰囲気を持っているし、バットを強く振るだけのパワーもあります。これほどの怪力があれば、高校レベルではいくらでも打てるはず。だからこそ指摘しておきたいのは、彼のテークバックにクセがあることです。打つための予備動作として、グリップを捕手側に引くことをテークバックと言います。彼は一度テークバックをとってから、打ちにいく瞬間にさらに引く動作がある。これを僕は「二度引き」と呼んでいるのですが、二度引きをするとよっぽどタイミングが合わない限り打球が飛びません。速い球には差し込まれてしまいます。せわしなくトップを作るのではなく、ゆったりと一度のテークバックでトップを作れるといい打者になるはずです。聞けば、山梨学院の臨時コーチを務めている小倉清一郎さん(元横浜高コーチ)も同様の指摘をしているそうなので、これからの成長が楽しみです。



1年春からベンチ入りし、これまで4度の甲子園を経験している智弁和歌山・黒川史陽

黒川史陽(智弁和歌山/182cm・82kg/右投左打/二塁手)

 打席での雰囲気はあるし、引っ張った打球の鋭さは非凡だと感じます。とはいえ、現段階では引っ張り専門。タイプ的に本塁打を量産する打者ではなく、広角に長打を打ってほしい打者でしょう。カギになるのは、ボールとの距離の取り方。どんな打者でも、遠くまで打球を飛ばすためのボールとの距離感があるわけです。でも黒川くんは、ステップする際にどんなコースでも上体が倒れるようにボールに向かっていってしまう。ボールとの距離を保つために、彼は自分の体を早く開くことで体を起こし、飛ばそうとする。この打ち方では、インコースを意識させられた後にアウトコースを攻められると、バットが届きません。また、上体でボールを追いかけると、自分の感覚上のストライクゾーンが変わってしまいます。まずはステップする際に上体を起こして、自分のストライクゾーンをつかむこと。そうすれば、幅広い方向に打てるようになるはずです。



走攻守すべてにおいて高い能力を見せる八戸光星学院の武岡龍世

武岡龍生(八戸学院光星/180cm・75kg/右投左打/遊撃手)

 守備力の高さと足の速さを評価されているようですが、バッティングはこれからという印象です。下半身は固めて、上体を柔らかく使って打ちたい意思を感じます。また、大きく振ろうとすることは悪くありませんが、問題なのはインパクトからバットを前に押し出そうとすること。この打ち方ではインコースに詰まってしまいますし、センバツでは実際にインコース攻めにあって力を発揮できなかったようです。押し出すより、もう少しコンパクトに手の甲を返すような打ち方のほうが、彼には合っているように感じます。スイングを見る限り、手を使うのはうまいようですし、改善できるはず。インパクトでボールにもっと力を伝える打ち方ができるはずです。



初戦で敗れたが、3安打を放つなど存在感を見せつけた桐蔭学園・森敬斗

森敬斗(桐蔭学園/175cm・68kg/右投左打/遊撃手)

 今回見たなかでもトップクラスのバッティング能力ですね。テイクバックの引き方は悪くないし、軸足のブレもないし、フォロースルーもいい。ボール球の見送り方もいいですね。全体的にはいいんですが、惜しいのは構えに入るのが早すぎること。ピッチャーがモーションに入るだいぶ前から構えに入ってしまうので、体が止まっている時間が長くなり、スイングが硬くなりやすい。もう少しゆっくり構えて自分の間(ま)をつかめたら、もっと柔らかいバッティングができるはずなんです。せっかくいいものを持っているので、改善してもらいたいですね。



東邦の4番として4割を超す高打率で優勝に貢献した熊田任洋

熊田任洋(東邦/174cm・75kg/右投左打/遊撃手)

 東邦では4番打者として活躍し、石川くんへのマークを分散させたようですね。とはいえ、熊田くんはアベレージヒッタータイプ。とくに優れているのは、タメを作る動作です。ボールを待つ間、体が動くことなく呼び込めています。ただ、気になるのは軸足の左ヒザが曲がりすぎて、しゃがみ込むような体勢になっていること。体が大きくない分、「下半身をどっしり使いたい」という思いがあるのは理解できますが、下半身に負担がかかってインパクトにズレが生じます。どうしても最後に体が伸び上がる形になってしまいますからね。森友哉(西武)の影響なのか、アマチュアでもしゃがみ込むようにして構える打者が少なくありません。ただ、森と多くの打者が決定的に違うのは体の芯に力があるかないか。また、若いうちにはこの打ち方で打てても、年齢を重ねたときに打てるかは疑問です。熊田くんには、タメを作る長所を生かしつつ、ミスショットを減らす打ち方を模索してもらいたいです。



強肩・強打の捕手としてプロからも注目を集める智弁和歌山・東妻純平

東妻純平(智弁和歌山/174cm・75kg/右投右打/捕手)

 体は大きくないですが、智辯和歌山のバッターらしく強くバットが振れるのが魅力です。ただ、彼も黒川くんと同様に、体を早めに開いて打ちにいく傾向があります。ユニホームの胸にあしらわれた「智弁」の文字が早くピッチャー側に向いてしまう。甘いボールはつかまえられるけど、打球方向はみんなレフトで、アウトコースは届かない。とくに右のサイドスローに苦手意識があるんじゃないですか。アウトコースに逃げていく変化球には、泳いで当てにいくしかない。まずは真っすぐステップして、体が開くのを一瞬我慢してから回転する。そのスイングを身につけてほしいです。



準々決勝の智弁和歌山戦で先頭打者&サヨナラ本塁打を放った明石商・来田涼斗

来田涼斗(明石商2年/180cm・82kg/右投左打/中堅手)

 今回見させてもらった選手のなかで、僕のオススメはこの選手です。体格も大きいし、フォームもいい。なによりスケールが大きいのがいいですね。センバツでは1試合で先頭打者本塁打とサヨナラ本塁打を放ったそうですが、体に力がある。スイングも構え、テイクバック、インパクトからフォロースルーまでクセがなく、指摘するところがない。まだ高校2年生と考えれば十分で、このまま順調に伸びてもらいたいです。あえて課題を言うなら、体が大きく手足が長い分、インコースをどうさばくか。プロでやれるだけの素材は十分あるので、高い意識を持って打撃を磨いてもらいたいですね。



1年春から星稜の中軸を担い、昨年夏の甲子園にも出場した内山壮真

内山壮真(星稜2年/172cm・72kg/右投右打/遊撃手)

 まだ2年生だし体は小さいですが、タメの作り方は悪くないし、スイングに力があります。気になるのは、インパクトで軸足のヒザが折れてしゃがみ込む形になること。最近は「打球に角度を出すため」という目的で、こういう形でスイングをするバッターも目につきます。でもこれは僕の持論ですが、打球は勝手に上がるもので、意識して上げるものではないということ。何度もボールを打っていくうちに、自然とバットを入れる角度を覚えていくものです。僕自身、スピンをかけようと意識して打球を上げようと思ったことはありません。できる限り両肩を平行に回したほうが、鋭く回転ができる。でも内山くんのようにしゃがみ込んでしまうと、回転が遅くなってしまう。私は姿勢を直して体重移動したほうが、いいスイングができると思います。

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 今回は春のセンバツに出場した好打者のなかから、光るものを感じた9選手に絞って分析させてもらいました。

 昨年のセンバツに出場した大阪桐蔭の根尾昂(中日)にしても藤原恭大(ロッテ)にしても、あれだけすごいと騒がれた選手が、プロでは苦しんでいます。2人ともプロの世界に混じると、まだ小さく見えてしまう。あらためてプロのレベルの高さを感じます。

 でも、それは当然です。今はまだプロのスピードについていけなくても、スピードにはいずれ慣れるもの。私はまったく心配していません。

 センバツに出場した好打者たちも、上には上がいることを意識して、より高いレベルのバッティングを追求してもらいたいですね。